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俺の親知らずを抜いていけ  作者: ぱじゃまくんくん夫
 
1/58

  :5年後

 Code is matched(コードが一致しました)

 Code Name Chronos(彼はクロノスです)

 SEX:M(性別:男)

 AGE:22(22歳)


――Warning! Please Runaway!――

(危険です! ただちに退避してください!)


 Transcend is,(超越能力は)

 Night Eyes(夜目)

 and High Speed motion(高速運動)

 Dual Transcendence(彼はデュアルトランセンデンスです)


 Transcendence Class SS(トランセンデンスクラスはSS)

 Dangerous Level 7(危険レベルは最悪の7)


――Warning! Please Runaway!――

(危険です! ただちに退避してください!)


 judgement in……

 ……

 ……


 Destruction:E(打撃力E)

 Legerity:D(俊敏力D)

 Instantaneous:D(瞬発力D)

 Grip:F(握力F)

 Arm:F(腕力F)

 Leg:D(脚力D)

 Defensive:E(防御力E)

 Endurance:D(持久力D)


――Warning! Please Runaway!――

(危険です! ただちに退避してください!)

 




 洞ヶ峰ほらがみねの夜更けは、街灯の純白な光線にぬれている。


 国家の官僚機構が集中されているこの地区は、日中とあらば、多くの役人やそれにたずさわる人々にあふれかえるが、深夜ともなると往来する車の排気音がわずかながらである。


 しかし、今夜は往来の車もない。終局的な静けさにおおわれている。


 洞ケ峰地区に出入りできるすべての口が国防軍によって検問封鎖されていた。


 クロノス。


 1人の若者が厳戒態勢をくぐり抜けてきていた。


 彼は今、特殊保安群第二中隊所属の2人の前に、1歩、1歩、たしかな亡霊のように迫り来る。


 雪村美佐ゆきむらみさ兵長の小声が唇を震わせた。


「りゅ、りゅ、龍ちゃん。や、やっぱり、あいつクロノスやん」


 と、亡霊が近づいてくるごとに、雪村兵長は、腕に抱える小銃を構えることも忘れ、1歩、1歩、後退していく。二本柳龍生にほんやなぎりゅうせいもまた同じく、雪村兵長と2人仲良く及び腰である。


 クロノスやん、って――。


 と、二本柳は怒りに似た呆れを覚える。


 クロノスが来るとしたらこっちや、と、勲章欲しさに言い出した雪村兵長に巻き込まれ、所属している分隊から抜けだしたのだが、万が一にも遭遇してしまったら、雪村兵長はこれである。


「み、美佐先輩。早くやっつけてくださいよ。て、手柄取るんでしょ」


「む、む、無理に決まっとるやん。HMDに表示されてないん? と、と、トランセンデンスクラス、SSやで。ここ、こ、こんなの、近田少佐しかおらんやん。ち、近田少佐、は、はよう、連れてきてや」


 言われなくとも、二本柳も装着しているHMDヘッドマウントディスプレイの、左目だけにかぶっているレンズモニターには、クロノスの詳細が表示されている。


 コードネーム、クロノス。


 古代神話の神を由来としているらしい。時間の神であるそうだ。


 しかし、この神は、国防軍にとって国家にとっては破壊神であろう。


 得体の知れない反乱軍は、暗殺予告という挑戦状を叩きつけてきた。名指しされた標的は、某省の中枢にいる者たちであった。


 標的とされた彼らは、今、深夜とあって洞ケ峰には不在と思われる。


 ゆえに洞ケ峰地区の封鎖にあたっているのは、雪村美佐や二本柳龍生などを抱える、第二中隊のはきだめ分隊であったが――。


「SGだな」


 と、神は笑った。無論、歩み寄ってくるのは生身の人間である。薄べらな唇から覗かせた八重歯が白く光っている。


 常時、衛星通信されているHMDが、彼を22歳と示した通り、顔立ちが若い。この緊張を愉快げに笑ってしまうその表情は、一種の幼さも覗かせる。そして、残虐性もにおわせる。


「お前らガキだな。何期生だ?」


 国家最大の危険人物であるにも関わらず、まるで、休日の余暇に登山でもしてきたかのような格好であった。ウインドブレーカーにトレッキングパンツ、靴もそれ専用のものだ。頭をつばの広いハットで覆っており、背中には大きなバックパックも背負っている。


 しかし、左手にはナイフが光っている。登山者が持つような代物ではない。刃渡りはゆうに20cmは越えている。


 右手には何もない。ウインドブレーカーの袖が風にはためいているだけで、噂どおりの隻腕であった。


「み、美佐先輩。こ、降伏しましょう」


「聞こえねえのか?」


 と、クロノスは足を止めた。筋の立った鼻を、ぬっと、持ち上げる。


「み、み、美佐先輩」


 二本柳は小声で喉を震わせる。隣の雪村に瞳だけを転がしていく。


「は、早く、こ、降伏してください」


「ほ、ほんでも、よ、よく見たら、クロノスのステータスって弱めやん。EとかFばっかやん。一般常人はDやで。めっちゃ弱いやん」


 この期に及んで、また始まった、と、二本柳は怒りさえ湧いてくる。


「クラスSSですよ」


「そ、そやね……」


「おい」


 と、急にクロノスの目つきが険しくなり、二本柳と雪村は両肩を跳ねて硬直した。


「何をごちゃごちゃたくらんでやがる。うすのろどもが。撃つのか撃たねえのか、答えるのか答えねえのかどっちだ。お前らは何期生だ」


 すかさず、雪村兵長は小銃のベルトをはずし、小銃を放り捨てた。たちまち両手を上げた。


「こ、降伏しまっせ。クロノスさん」


 つられて、二本柳も小銃を置き捨て、両手を上げる。


「ぼ、ボクは牛追坂26期生です。ボクらは全然たくらんでなんかおりません」


「そ、そや。うちは天進橋24期生でっせ。今日からうちらも反乱軍になりますさかい」


「ふーん。名前は」


 と、クロノスはにたにたと笑う。


「な、名前ですか?」


「そ、そんなことも言わなあきまへんの?」


「当たり前だ。お前ら、こっち側になったんだろ?」


 クロノスが1歩、ブーツの足を踏み出してきて、二本柳と雪村はあわてて言った。


「ぼ、ボクは二本柳です。二本柳龍生です」


「う、うちは、雪村美佐言いますねん……」


 すると、クロノスはじっとして二本柳と雪村の顔を見つめてくるのだった。彼らが横目に視線を合わせると、クロノスはぼそっと言った。


「そっちのガキは聴覚トランセンデンスで、そっちの小娘は動体視力か?」


「へっ? な、なんで、わかりましたん? く、クロノスさんの目はHMDでっしゃろか?」


「センスのねえジョークだな」


 と、鼻で笑いつつ、クロノスはナイフを腰ベルトにおさめていく。


 何がなんなのかわからないが、ほっ、として、二本柳と雪村は揃って胸を撫で下ろす。


 が。クロノスは拳銃を取り出してきていた。


 口許に笑みを浮かべつつも、切れ長の瞼は猟奇的に澄んでいる。銃口が雪村に向けられてきている。


「く、クロノスさんっ? う、うちら、もう降伏しておりますやんっ!」


「何を言ってやがる。SGは殲滅だ」


「いっ、いやっ、ボクたちはただ命令でやっているだけでっ、決して、決して、好きでやっているんじゃないんです」


「そ、そ、そやっ。うちらは反乱軍やさかい。仲間を殺すなんておかしな話ですわ。せやな? 龍ちゃん。うちら、反乱軍やもんな? スパイでSGをやってたんよなっ?」


「バンッ!」


 二本柳も雪村も、もろとも腰から崩れて尻もちをつく。このはきだめ分隊の2人は何を震え上がっているのか、今のは銃声ではない、クロノスの声である。


 しかし、彼らの前から、クロノスは消えていた。


 高速運動――。


 二本柳は目を泳がせながら、周囲を確かめる。


 外灯の白い明かりが路上を照らしているだけで、誰の姿もない。


「りゅ、龍ちゃん。う、うちら、助かったん?」


 と、雪村が涙目で、二本柳の腕にすがりついてきた。二本柳はすかさず腕を引っ込める。しかし、うなずく。


「た、たぶん。助かったんでしょう」


 そう言ったとき、静まり返っていた洞ケ峰の夜を銃声が裂いた。




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