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非常識お買い物作戦 〜頼むからお店は爆破しないで下さい〜

ある日少女がボクの部屋に飛び込んできた。

ガラスをぶち破って飛び込んできた。

血だらけでぐったりしていた。

そんな少女にボクは度々愛情表現を受ける。

破壊力がすさまじい愛情表現を・・・。



お店へ買い物に行くことになったボク。

実はちょっぴり嬉しかったりもする。

女の子と買い物なんて初めてだし、それにこんなに可愛い!

これじゃあ周りから見たら付き合ってると思われちゃうな。

でへへ。

うぇ、うぇへへへ。

「賢介くん?なにニヤニヤしてるの?」

彼女は不思議そうにボクの顔を覗き込む。

「な、なんでもないよっ!!」

「ふ〜ん・・?へんなの。」

顔に出ていたなんて不覚だった。

ボクがこんな少女と買い物ごときで胸を躍らせてるなんて知れたら・・・一生の恥だ!!

こんな暴走小娘に心を奪われてるなんてことは絶対にない!!

大体この女がボクに好意を一方的に抱いてるんじゃなかったのか!?

確かボクの部屋を爆破したときに言ってなかったか!?

あれは冗談なんだろうか?

ただの作戦?

トラップ!?

罠!!!?

いや、こんなことでボクの心をかき回せるわけがないじゃないか!

「ふぅ、賢介くん・・・行かないの・・?」

なかなかボクが行こうとしないので、しゃがみ込んだ彼女はそのまま心配そうにボクを見る。

その上目遣いをなんとかしてくれ。

・・・わかっててやってるのか?

なんだか変にドキドキしてきたなぁ・・・。

そのつぶらな瞳・・・胸がキュンと締め付けられる・・。

ボクが彼女にこんなことで心を奪われるなんて有り得ない。

信じたくない。

しかし、心音がだんだん大きくなってくるのがわかる。

ジッとボクを見つめる彼女。

ぅ・・・胸が、胸が苦しい!

体中の血液が茹で上がるような感覚がボクを襲う。

指先が痺れてきた・・。

恋なんてしているはずは全くないのに・・・ボクの心臓はどうなってしまったんだ。

まるで身体の中で若い男衆が和太鼓をドンドンと力一杯叩いているようだ。

く・・・見つめられただけでボクはこんなにもなってしまうのか。

胸が・・・胸がぁぁあああ!

パンッ!!!

グチャア!!べチョ!!

ボクの心臓が身体から飛び散りました。

彼女の顔や地面にボクの血液がどっぷりと浸された。

「あははははは。あは、あはははは!」

楽しそうに左手でお腹を抱えて笑う彼女。

笑い事じゃねぇだろ。

指をさして笑うな!

「あはは、賢介くんにさっき魔法かけちゃったんだ。下にいるときにこっそりね〜。あははは、面白〜い。」

彼女は笑いながら説明をしてくれる。

そんなことよりこの出血を止めてくれないだろうか。

愛様!

どうか・・・どうかボクに御慈悲を!

ち、ちきしょう・・・散々だ・・・。

いつもどおり意識が遠のいていく。

「おやすみ〜。ひひ、賢介くん。」

彼女が笑いながら手を振っている。

今回も常識は通用しないのだ。

目の前が真っ白だ。


次にボクが目を覚ましたのは彼女の声を聞いた時だった。

「やっほー。起きたね!じゃあ行こうよ!服も元通りになったからさ!」

一体どうやって魔法をかけているのだろう。

ボクが洗礼を浴びる前の状態に全てが戻っていた。

そういえばまだ魔法を使ってるところを見たことがない気がする。

いいんだけどさ。

「ほらぁ!早く!」

グイっとボクの腕を引く彼女。

ここでよろけたフリをして押し倒しちゃおうか。

さぁ考えるんだ!

うぉぉ!

賢介コンピューター始動!!

カタカタカタ。

ピピ!!

よし、計算終了!

結果は・・・なるほど。

ここで押し倒したりすると間違いなくボクの身体は粉砕するだろう。

だから倒れてはいけない!

倒れるなよ!!?

倒れちゃだめだ!!!

「うわっ!」

ドサッ!

・・・押し倒してしまった。

もうお終いだ。

また抹消される・・・。

「け、賢介くん・・・。」

ボクの予想していた彼女の表情とは違って、彼女は少し赤らんでいた。

「こ・・・こんなのダメだよ。まだ会ったばっかりなのに・・。」

しかし彼女の頬は赤らんでいた。

彼女の声だけがボクの耳に届く。

周囲には誰もいないが、勉強机やドアがボクたちの動向を伺うようにしているようだ。

「ご、ごめん!わざとじゃないんだけど!ごめん!」

必死に弁解するボク。

彼女は何を思ったのか、一瞬押し黙った後に更なる展開を求めるような言葉を発した。

「・・・賢介くん。ホントは・・?」

恥ずかしそうにおずおずと訊く彼女。

「え・・いや・・ちょっと押し倒しちゃおうか、なんて考えちゃったけど、でも!!!」

ボクがそう言うと彼女は口を閉じ、ボクの瞳をじっと見つめた。

吸い込まれそうだ・・・。

潤んだ瞳でボクを下から見つめている。

・・・彼女はボクの首に腕をまわして・・ゆっくりと瞳を閉じた。

「あ、愛ちゃん!?ちょ・・・!」

ボクは恥ずかしさで目が回りそうだ。

「うん・・。」

彼女のこの言葉は・・・了承を表しているのだろうか。

全てをボクに任せるということなのだろうか。

彼女はそのままゆっくりとボクの顔を近づける。

「愛・・・ちゃん。」

ボクは目を閉じた。

キスだろうか・・。

いや、キスだろうがなんだろうが・・・ボクの目の前に何も拒まない彼女がいる。

彼女がボクをゆっくりと引き寄せ、だんだんと二人の距離は小さくなってくる。

次第にお互いの鼻と鼻が近づき、さらにはゆっくりと彼女の柔らかい吐息が近づいてくるのが分かる・・・。

ボクは彼女の唇にボクの唇を重ねるように首を傾けた。

ボクの首にかかっていた腕が緊張しているのか、だんだんと自由を無くし始めた。

初めてのキスに怯えているのだろうか。

その緊張はボクが近づけば近づくほど増していった。

ギュウっと・・・ボクの首を・・。

ゴキ!

「うぐ!?」

・・・首が折れました。

やっぱり、全てはボクの妄想が作り出した幻想にすぎなかったようだ・・。


「賢介くんが押し倒すからいけないんだよ!!」

そう言ってほっぺたを膨らます彼女。

「まったく!デリカシーってものがないんだから!」

ぷんぷんと怒る彼女。

ここでやっとボクは目を覚ました。

「常識くらいわきまえてよね!」

いや、そこは待て。

「私が魔法を使えなかったら賢介くんはとっくに死んでるよ?私に感謝しなさい!」

つっこみどころが満載だな。

「やぁ、ごめん・・・。反省したから・・。」

こんな感じで頭でも下げておくか

すると彼女が。

「じゃあ、次から気をつけてくれるとして・・・お買い物行こっか。」

ようやく行ける・・。

「うん。くれぐれもお店を爆破しないようにね?テロは禁止だよ?」

「わかってるよ!賢介くんじゃあるまいし!」

・・・。

このアマ・・。

今夜は覚えてやがれ・・。

水をぶっ掛けて自然と一緒に布団を共にしたときが仕返しのチャンスだ・・。


それからボクたちはようやく夕食を買うために出発した。

そしてやっとお店の近くまでたどり着いたボクたち。

近所だったけど来るまでが大変だった。

普通なら歩いて10分もかからないのに・・・。

彼女はお店を見つけると同時に駆け出してしまった。

タッタッタ。

「あ、ちょっと!」

ボクのことなど空気同然のようです。

知らんぷりモード突入のようです。

孤独をこよなく愛するボクにとっては久しぶりに満喫できる自分の時間。

彼女がお店の自動ドアに向かってかけて行く。

ボクは夕空に浮かぶ一筋の雲を見ながら、自分の苦労を褒めたたえていた。

「ひゃあ!」

いきなり彼女の声がして、目を向けると彼女は入り口の前でピョコンと跳ねていた。

「賢介くん!ドアが!ドアが!!」

この少女は自動ドアが珍しいのだろうか?

「なぁに?自動ドアがどうかし・・・ぁあ゛!!?」

自動ドアがシャッターのように開いた。

ガラスが天井に飲み込まれていく・・・。

いつの間に改装したんだろう。

開き方おかしい・・・。

まぁ・・・ここまで来たんだから普通に入っちゃうけど・・。

気にしたらダメだ。

気にしたらダメだ!

「気にせず入ろうか・・。愛ちゃん・・。」

ボクはなんなく自動ドアを通過した。

かに思えたが後ろを振り返ると少女が自動ドアにじゃれ付いている。

お前は猫か・・?

ピョンピョン跳ねながら手を伸ばしている。

「ほら!早く来てよ!」

ボクが彼女に催促する。

「ダメー!自動ドアに鰹節が挟まっちゃったの〜!」

そんなものを持ってきたんですか?

「いいから!そんなのは後回しにして入ろうよ!」

「ふにゅ〜・・・賢介くんのえっちぃ・・・。」

ここでこれはどれほど関係あるのだろう・・・。

いや、ボクは負けない!

中学時代、サッカーでスルーパスの帝王と呼ばれた男なのだ。

これくらいスルーをかますなんて朝飯前なのだ。

「えっちでも何でもいいから入ろうってば。謝るから。」

なんでボクは謝ってるんだ。

そしてスルー出来ていない!

この少女のおかげで正常な思考ができなくなってきてるぞ!

バンザーイ!


ボクたちがお店に入ると店員さんが声をかけてきた。

「いらっしゃいませー。」

店員さんが元気に挨拶する。

「に、にゃふー!いらっしゃいましたー。」

少女が脊髄反射的に挨拶する。

あぁ恥ずかしい。

こんなところで変な挨拶しないでくれよ・・・。

しかも愛ちゃん・・・その募金箱はどこから?

いつの間にやら彼女のグッズが増えていた。

先ほどは鰹節・・・現在は募金箱・・。

そしてどうして紐を付けて首からさげてるの?

バッグと勘違いしていない?

それによく見ると結構お金入ってるし。

この少女の行動は理解不能です・・・。

「で、愛ちゃん。何を買いにきたの?」

早速彼女に買いたいものを訊くボク。

「えっとね〜、焼肉セット!!」

ウキウキと答える彼女。

「え?焼肉?食べたいの?」

少し意外だった。

「うん!食べたいよ〜。いいでしょ?」

ここでダメだといったらどうなるかわかったもんじゃない。

「仕方ないなぁ、じゃあお肉だけ買って家に帰ろうか。」

疲れていたのでもっと軽めのものを食べたかったのですが、妥協です。

「お肉だけ〜・・・?」

不満そうに言う彼女。

「なんかまだ買うものがあった?」

ここでボクは野菜が不足していることに気がついた。

彼女は野菜を買いたがっているのだ。

「ガスバーナー買う〜!!」

「必要ないよ。」

彼女の発想は予想の斜め上だった。

「じゃあスマイルお持ち帰りする〜。」

「愛ちゃんが言うと誘拐に聞こえるからダメだよ。」

「違うよバカ!!焼肉にするんだもん!!」

「人肉ですか〜・・・・。」

この少女は・・・なんなんでしょう。

カニバリズム主義なのでしょうか。

大好物が人ですか。

なんか今夜辺り喰われそう。

でも、いつの間にか元通りにしてくれるんだろうなぁ・・・。


安いお肉を二人前と少しの野菜。

これで今日の夕食は決まりだ。

「今夜はやっきにっく〜。」

少女が音程をつけて歌う。

「ねぇねぇ賢介くん!」

「なに?」

「クニキ屋はヤーコンって知ってる?」

「知らないけど・・・それ何?お店?ヤーコンって聞いたことあるけど。」

「逆から読んだら今夜は焼肉だよ!すごいでしょ!」

「え〜っと・・・クニキ屋・・・ヤーコン・・・。」

・・・間違ってるじゃん。

「わぁ!すごいね愛ちゃん!」

とでも言っておくか。

なぜ活字を中途半端に逆から読むんだ。

しかもテヘヘって!

照れてんじゃねぇ!

間違ってんぞ!!

おい!


さてと・・・レジで会計でもしようか。

かごをレジの台に乗せるボク。

少女は嬉しそうに歌っている。

「にゃんにゃんにゃ〜んの焼肉は〜。」

歌詞がめちゃくちゃだ。

そんなもの焼いちゃいけない!

レジのお姉さんがバーコードに機械をあてる。

ピッ。

「ピッ?」

彼女が反応した。

ピッ。

「ピッ!!?」

ピッ。

「ぽにょ〜ん。」

ボクは突っ込まない・・。

突っ込まないぞ・・。

「762円になります。」

「はいはい。」

ボクはポケットに手を入れた。

「・・・あれ?こっちかな?・・・あっれ〜・・・?」

財布を忘れてきたようだ。

これはマズイことになった。

「も〜、賢介くん!財布忘れたの〜!!?・・・仕方ないなぁ、今回だけだよ?」

彼女は自分の首に下げていた募金箱をレジの台に置いた。

「じゃあコレで払うから。賢介くんったらダメなんだから。」

ボクをけなす彼女。

しかしちょっと待て。

募金箱に入ってるのは・・・ボクの財布。

いつの間に・・・。

しかもこの少女はいかにも自分の財布だと言わんばかりに。

彼女はガボっと募金箱のフタを開けると、中からボクの財布を取り出した。

パチンとボクの財布を開けてジャラジャラと小銭を出し、店員さんに渡した。

「ちょ〜どお預かりいたしま〜す。ありがと〜ございましたー。」

結局ボクの財布からお金を払ってた。

結果としては問題ないのだが、彼女がいかにも自分の所有物だと言わんばかりに起こした行動が納得いかない。

後で返してもらわなきゃな。


長かった・・・。

何で買い物だけでこんなに労力を使わにゃならんのだ・・・。

さて帰ろう。

出口の自動ドアから足早に出るボク。

一刻も早く帰りたい。

彼女はボクの隣を歩いて・・・いない。

あれ・・・。

後ろを見ると彼女は腕を伸ばして跳んでいた。

「・・・鰹節はいいの!!!!!」

「ふにゃー!!!!」


ようやく買い物も終わって家に向かうボクたち。

ポツ・・・。

ポツポツ。

ザーーーーーー!!!

雨だ!!

ボクはハッとした。

「あ、愛ちゃん!?」

シュウゥゥゥゥ・・・。

見る見る内に小さくなっていく。

小さくなってしまった。

服がもぞもぞ動いている。

ボクがじっと見ていると服が光りだした。

服は小さくなり彼女と同じサイズになり、彼女を包み込んだ。

なるほど、上手いもんだ。

しかし歩幅がこれじゃああまりにも違いすぎる。

「愛ちゃん、ボクの頭の上に乗る?」

彼女は応答もなしに上り始めた。

しかし膝の辺りまで上ると彼女は疲れてしまったようだ。

ボクはひょいと彼女を優しく手で包み上げ、頭の上に乗せ・・・ようとしたが思いとどまった。

「これじゃあ濡れちゃうね?服の中においで。」

そういうとボクは襟と首の隙間に彼女を入れてあげた。

彼女は小さくつぶやいた。

「別に・・・自分で歩けるし・・・こんなことしなくていいのに。誰も頼んでいないじゃない。」

「ん?なんか言った?」

「・・・なんでもない・・・。」


今夜はちょっぴりツンツンした彼女。

魔法はあんまり使わないし、常識だってわからない。

そんな彼女と帰る雨降りの夜。


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