少女のマシンガン的発想 〜実験体マウスはつらいです〜
ここは北海道の小さな町。
人口はちょっぴり少ないけど結構気に入ってるんだ。
今までは暮らしやすくて、空気もおいしかった。
あのミサイル兵器少女が来るまでは・・・。
ボクは魔法使いの少女によって瀕死の状態にある。
頭とか腕とかはぎりぎりくっついているくらい、少し引っ張ったらズルリと抜け落ちそうだ。
さらに黒い金庫も再起不能。
こいつはもう使い物にならないな。
ダンボールを踏みつぶしたかのようにグッシャグシャだ。
ボクは夢らしいものを見た。
これが夢なのかどうなのかはわからないけど、はっきりとしていて、現実味があって・・・。
夢の中にはおじいさんがいた。
白いひげを胸まで伸ばし、白髪だった。
ボクは森の中から平原にいるおじいさんを見ていた。
するとどうだろう。
ボクはおじいさんにスウっと吸い寄せられていた。
歩いてもいないのに身体が移動していった。
身体でも浮いていたのだろうか。
あまりの突然の事実に、ボクはただ無言のままおじいさんを見ているしかなかった。
すると・・・おじいさんはボクに話しかけてきた。
その話し方はゆっくりとしていた。
「世に、少女が降り立った。そのとき少年のもとを訪れる。少女は魔法を使い、少年をたすけるじゃろう。」
淡々とおじいさんは話し続ける。
「少年は毎日の楽しい生活が一変し、少女によって絶望を感じる。少女の灯は・・・少年を助け、少女の愛は命をも削る・・・。」
その言葉を聞くと、空が薄暗くなったのがわかった。
風が吹き、木々たちがざわめき始めた。
「少年よ、今の生活に絶望してはいかん。笑顔を、灯を絶やしてはいかん。未来と現在をつなぐために・・・じゃ。」
どういう意味だ・・。
このおじいさんは・・・・一体ボクに何を伝えようと・・。
一体・・・何を・・。
「・・・ぇ・・・くん・・・賢介くん!!」
「ぁ・・・愛ちゃん・・?」
「もぅ・・・なにやってるの?さっきから寝てばっかり!」
「あぁ、ごめんごめん・・・でも愛ちゃんが悪いんだよ?ボクの家を破壊したんだから!そのせいで気を失っちゃったんだよ!」
「ふにゅ〜・・・ごめんなさいぃぃ・・・。」
家の中はまだボロボロになっていた。
周り中、煙が立ち込めていて、窓ガラスの割れた破片が散らばっている。
柱が崩れかけている。
ギシギシと音を立てている柱は今にも倒れそうだ。
外は暗くなっていて、パチパチと木材が焼ける音がする。
もくもくと煙が立ち込め、空気が灰色になっていく。
「けほ、けほ、賢介くん大丈夫?ごめんなさ・・・けほ。賢介くんを生き返らすために、けほ、もうほとんど魔法の力がなくなっちゃったの・・・。」
少女は申し訳なさそうに・・・しゅんとなった。
いつものような能天気な彼女はそこにはいなかった。
そう言うと彼女の身体はボクからゆっくり離れて行き、炎がボクを取り囲み始めた。
彼女の意志とは裏腹に離れて行った。
それと引き換えにじりじりと忍び寄る炎。
炎はボクを嘲笑っているかのように猛然とボクに向かってくる。
「助けて!助けて愛ちゃん!!」
しかし彼女には炎を消す魔力はすでになく・・・。
ボクの叫び声は遠くから響いた。
まるでボクの声がボクから発せられていないような感覚だった。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・。」
少女は肩を震わせて、少女の前髪越しに涙がこぼれたのが見えた。
その時だった。
ガラガラ!
壁が崩れ始めた。
ベキベキという音とともに柱がボクを目がけて崩れてきた!
ガギギギ、バギ!
「うわぁ!!」
「賢介くん!!!」
その瞬間、少女の表情は豹変した。
少女の身体がまぶしい光に包まれたのが見えた。
柱が倒れてくる。
もうダメだ!
時間がゆっくり流れている。
もうダメだ!
柱がボクを押しつぶしにかかる。
もう!!
炎の揺らめきが柔らかく襲いかかる。
ダメだ!!
すると横から彼女がボクを目がけて、素早い動きで飛び込んできた。
ドン!!
ドサッ!!
ボクはぶつかった衝撃で炎の外にとばされた。
崩れ落ちる壁は当然のごとく彼女を襲った。
ベキベキベキ!!
「きっ・・・・ぁ!」
ズシャァアアアア!!
ボゥ!!
炎とガレキが彼女を押しつぶした。
「・・・。・・・。」
彼女は悲鳴をあげる余裕もなく柱に押しつぶされてしまった。
ボクは彼女を救い出すために、近くの公園にある砂場まで行き、バケツに砂をいれた。
急いで彼女の所へ戻り、炎を目がけて砂をまいて炎を沈めた。
熱くなっている柱など気にする余裕もなく、ただがむしゃらに・・・がむしゃらに柱をどかした。
そこにいた彼女は・・・彼女は・・・真っ赤に染まっていた。
彼女の頭や首から、綺麗な鮮血が流れていた。
ゆっくりと彼女を抱き上げると、彼女は人形のように動かなかった。
「なぁ・・・。なぁ・・・!!ぃ・・生きてるんだろ!?」
いくら叫んでも彼女は反応することはなかった。
「はは・・・こんな、冗談・・・だよな。愛ちゃんが、死ぬわけない・・。だろ・・?」
返事は返ってこなかった。
「ぁぁ・・・・あの・・・・そうだ・・・愛ちゃんの・・・牛乳・・・牛乳!さっき全部飲んじゃったよ!・・・悔しいだろ!?・・・愛ちゃん!悔しいだろ!?なぁ、悔しい・・・だろ・・。」
ボクの冗談は虚しく煙に吸い込まれていった。
ボクは悟った。
彼女が・・・死んだ。
ボクは生きていた。
・・・ボクだけが生きていた。
彼女はもう・・・笑わない、話さない・・・・怒らない。
いたずらをするときに見せる笑顔はもう見れない。
そう考えるとボクの瞳から涙が溢れ出した。
「ぐ・・・ぅ・・・くっ・・。」
自分の無力さが許せなかった。
たった一人の少女を・・守れなかった。
その・・・自分によって・・・彼女は死んでしまった。
ボクは泣いた。
一晩・・・いや、二晩・・・もっと泣いた。
泣き続けた。
彼女を腕で抱き上げながら・・・泣き続けた。
一人で、ただ一人で・・・何もない世界で泣いた。
やがてボクは疲れ果て、彼女と一緒に眠った。
一人ではない・・・彼女と、二人で。
せめて夢の中では、彼女を守りたい。
夢の中では・・・せめて。
「・・・ぅ・・・ぐ・・?」
ボクは目を覚ました。
「ここはボクの家?戻ってる・・・。」
頭がなんだか重い・・。
何かが頭に・・・。
「賢介くん起きたね!!」
少女はボクに顔を近づけた。
「愛・・ちゃん?」
「ごめ〜んね!実験してたの〜!」
ウィンウィンと何かの音がする。
ボクは後ろを振り向くと大きな機械がある。
その機械から出ているコードは緑色と赤色と青色。
その三つがボクに向かって伸びている。
手でつかんでたどってみると・・・ボクの頭に伸びていた。
おまけにボクの頭にも機械が乗っていた。
バンダナのような機械。
その機械にコードが接続されていた。
「何これ・・?」
「へへ〜・・・これはドリームマシーンだよ!どんな夢を見るかはお楽しみ!」
彼女は人差し指を立てて歩きながら説明してくれる。
「へ〜・・・で?」
もちろんボクは訊き返す。
彼女はピタッと止まってボクのほうをじっと見る。
「これは未来から持ってきた最新の機械なの!まだ試作段階だから、どんな夢が見れるかはわからないけどね!」
つまり・・・ボクは実験用のマウスにされたようだ。
この娘は・・・可愛い顔して忌々しい。
「と〜り〜あ〜え〜ず〜!その機械は没収しま〜す!」
と彼女が先生のようにボクに言った。
没収って・・・あんたのだろ・・。
なんてことを心の底からつぶやきたい!!!
彼女はプチプチとコードやコンセントを抜く。
ボクは汗でびっしょりだった。
「ねぇ、どんな夢をみたの〜?」
彼女が機械を片付けながらたずねてきた。
「・・・。」
ボクは答えなかった。
答えたくなかった。
もし、この機械が被験者にとってすごく起こってほしくないことを投影させる幻影マシーンだとしたら、今の夢は教えることはできない。
ボクは彼女に迷惑してるんだ!
まったく!
帰ってほしい!
忌々しい!!!
間違っても好意なんて抱いていない!
・・・たぶん。
あ〜ぁ・・・今は何時だろう。
窓の外を見ると外が暗くなっていた。
お父さんとお母さんはまだ帰ってこないのだろうか。
「ねぇ愛ちゃん。ボクのお母さんとお父さんはいつ帰ってくるかわかる?」
「うん。しばらくはず〜っと帰ってこないよ。」
「は?」
「魔法の力です!」
またか・・・。
しかもボクの期待していた答えとは違う・・。
さらに質問したとしてもきっとまともな返答は来ないだろう。
きっと。
「ねぇ!お買い物いこ!」
いきなり少女がボクに提案してきた。
ボクも気晴らしをしたいと思っていたところだ。
「うん。いいよ。近くにスーパーがあるから行こうか。」
「ちょっと待ってて。私着替えてくるから。」
「うん。じゃあボクはこの部屋で待ってるから。」
彼女は階段を下りてリビングに行ったらしい。
そこに服なんてあるんだろうか?
それに今どんな服を着ていたんだ?
・・・思い出せない。
どこにでもあるような服だったような・・・。
まぁそんなことはどうでもいいんだけど。
ボクも着替えなくちゃならない。
汗で下着もびしゃびしゃになってしまったし。
ボクは高校生が買える程度の、ちょっとおしゃれをした服装に着替えた。
彼女はどんな服を着てくるのだろうか。
思考が独特だから珍妙な格好をしてくるに違いない。
いったいどんな・・?
「おまたせー。」
ドアが開く音はなく、彼女が戻ってきた。
・・・ドアは開きっぱなしだったのか。
それはいいとして、彼女の服は?
なんと!
可愛いじゃないか!
白いワンピースですか!
男心をバッチリつかんでるじゃないですか!
勘違い上等な女の子ってやつですね!
・・・素晴らしい!!
おまけにちょっぴり薄化粧をして、整った感じに綺麗にまとまっている!
唇も潤うルージュのようなものを使っているんだろうか?
その唇・・潤っている・・・!
た・・・食べごろだ・・!
と、また人格が崩壊してしまうところだった。
落ち着け。
落ち着くんだ自分。
「じゃあ、行こうか。」
ニコっと彼女にそう言って、さりげなくリードしてみるボク。
今日は土曜日の星がキラキラと降ってきそうな夜。