いかれた少女のミサイル 〜だって私、魔法使いだもん〜
ここは北海道にある小さな街。
ボクは高校二年生のどこにでもいるような少年だった。
あの娘と会うまでは・・・。
トタトタトタトタ。
「賢介く〜ん!ただいま〜!」
いったいどこに行ってきたのだろう。
彼女は元気に階段を上ってきます。
ボクの部屋まで息をきらして。
階段を登り切り、部屋の入口のふすまをあけます。
ガラガラ!
チュドーーーーーーン!!!
彼女の名前は柊愛。
数日前にボクの家に住みつくことになった、かわいらしい女の子。
ちょっと非常識なところがあります。
いや、『ちょっと』ではないことはスグに間違いだと気付くんだけどね。
そして危険すぎるけど、どこか優しい女の子。
おまけにちょっぴりツンデレなのさ。
愛情表現が今回はミサイルでした。
ボクがリビングでテレビを見ているときに彼女が窓ガラスを破って飛び込んできたのだった。
ガラスは床一面に飛び散り、少女は血だらけになってぐったりしていた。
彼女はボクの通っている学校の制服をきていた。
ボクは急いで洗面所にタオルを取りに走っていった。
もちろん絆創膏も、と思ったけどあいにく絆創膏はきらしていた。
ふわふわの白い清潔感あふれたタオルを手にとってリビングに戻ると、彼女が流したはずの血と、床に飛び散ったはずのガラスがなくなっていた。
ボクが驚いたのはそれだけじゃなかった。
彼女はテレビのニュース番組を体操番組に変えて、一緒に踊り狂っていた。
ボクは何から質問していいかわからないまま、とりあえず口を開けた。
「あ・・・れ?キミ怪我は?」
その声にびっくりした彼女は体操の途中でピョンと飛び跳ねた。
「ひゃ!びっくりしたぁ!なぁに?なんか言った?」
彼女はくるっとこっちを向くと意外そうにそう答えた。
「いや、だから・・・怪我は大丈夫なの?」
「怪我?・・・もしかして、見た?」
「え・・・?なにを?」
「ううん!なんでもないの!怪我は大丈夫だよ。あ、名前言ってなかったよね。私は柊愛。あなたは・・・賢介くんだよね?」
「そうだけど、何で名前・・知ってるの?」
「話すと長くなるんだけど、実は私は未来からやってきた魔法使いなの。だからとりあえずは魔法で名前がわかっちゃったくらいで理解しておいてね。」
彼女はそう言ってにっこりとほほ笑んだ。
あぁ、この娘は何をすっとんきょーなことを言い出すのだろう。
窓ガラスはどうなった。
飛び散った血はどうなった。
物理的に窓ガラスや床に飛び散った血を掃除することは可能だろうけど・・服にまでついていた血までも消し去ることなど洗濯をしない限り不可能である。
そして何故、よりにもよってテレビ番組を体操にしていたのだろう。
すべてが謎につつまれていた。
もちろん魔法やら未来から来ただの信じるわけでもないボクは、テキトーに聞き流してさらに質問を続けた。
「で、その魔法使いさんがボクに何の用?」
「賢介くんの命を未来から守りに来ました。」
「へ?」
ボクは彼女の言ってる意味がわからなかった。
「命って・・?」
「命というのは〜、生きているものがみんな持っているけど一つの個体に一つしかない特別な・・・。」
「いや、命くらい知ってるよ。ボクが訊きたいのはどうしてボクの命が狙われてるようなことを?」
「賢介くんは小さい頃からよく車に轢かれそうになってなかった?」
「まぁ・・・確かに何度か轢かれそうになってたけど。・・・ってなんで知ってるの?」
「ふふ〜ん。」
彼女は得意げに笑った。
「だって魔法使いだもん。」
「あぁ・・・そう。・・・・え〜っと・・・。」
ボクはどんな反応をしていいのか困っていると。
「ねぇ、私はこの家に決めました!」
「はぁ?何を決めたって?」
「住むとこー。」
一体なにを言い出すかと思えばこの娘は・・・。
「住むとこって、ボクの家にいきなり飛び込んできて理由もナシに住むなんてわけがわからないよ!」
「理由ならあるよ!賢介くんの命を守りたいから!」
「で、でももしボクがいいって言ってもお母さんとお父さんが。」
「へへ〜ん。それなら大丈夫。魔法使いだもん。」
この娘にはこれしかないのか。
さっきから魔法使いを切り札にしているような気がしてならない。
「とりあえず、よろしくね。賢介くん。」
満面の笑みをボクに向ける彼女。
とりあえずって・・・。
「ぁ・・・よろしく、えっと。」
「愛だよ。」
「ぁ、そうか。愛・・ちゃん?」
「よろしい。」
そういうと彼女はにっこりした。
ほっぺたが柔らかそうだ。
それからボクのお母さんとお父さんが帰ってきたけど、お母さんはきちんと食事を4人分つくるし、お父さんに至っては普通に彼女に話しかけていた。
「おい、愛。最近学校はどうだ?いじめられてないか?」
などとどこにでもありそうな会話を披露してくれるお父さん。
これも魔法の力なのだろうか?
ボクにはまだ信じられない。
と、その時だった。
ガシャーン!
その音は彼女が飲もうとしていた牛乳の入ったコップを、うっかり彼女は手を滑らせ落してしまったのだった。
「大丈夫!?愛ちゃん!?・・・あれ?」
そのとき彼女は消えてしまった。
服だけが残っているけど彼女の姿が見当たらない。
どこに行っちゃったのだろう。
「ここにいるよー!」
彼女は制服の中からもぞもぞと出てきた。
服で自分の身体は隠している。
そして小さくなっていた。
「私は冷たい液体を浴びると小さくなっちゃうの!」
・・・なぜ。
やはり魔法使いは奥が深い。
もういろいろ考えるのはよそう。
今日はいろいろあって疲れちゃったから。
でも大きさは戻るんだろうか?
戻るんだろうな?
戻・・・。
「ねぇ、それって戻るの?」
「もちろん戻るよ。ちょっとめんどくさいけど。」
「へぇ・・どうやって?」
「賢介くんと寝るの。」
え・・・ボクはまだ高校生なのに・・・。
あ、もう高校生だからいいのかな?
いや、これはチャンスなのだろうか?
チャンス?
チャンス!!!!?
「ば〜か。普通に手をつないで寝るだけよ。」
彼女にはボクの考えがお見通しらしかった。
まさか心も読み取れるんだろうか?
まさか、まさかね。
「心は読み取れないよ。不思議そうな顔してるね。ただの勘だよ。」
ボクは一瞬ひやあせをかいた。
この娘とは距離を置いておいたほうがよさそうだ。
って・・・今夜は二人の距離が全くないんだった。
朝です。
ボクは男になれませんでした。
そりゃあ少しは良からぬことを考えましたよ。
高校生ですから。
でも・・・彼女が魔法を使ったのでしょう。
ボクが寝ている真上に包丁が浮かんでいました。
月明かりに照らされた刃。
きらりと光っていました。
寝る前に彼女はボクに確かに言いました。
「私の身体に触ったら未来はないから。」
そう言い放つと僕の身体に電気のようなものが流れた。
バチバチバチ!!!!
のようなものではなく電気だった。
しかもかなりの高圧かと・・・。
今まで流されたことはないけどこれはきっと高圧電流!
しばらくは眠れませんでした。
心臓だってドキドキしてました。
すばらしい電気ショックのおかげで。
思うこと二度目ですが、朝です。
やっと朝です。
これから毎日こんな感じなのかなぁ・・・。
欝だ・・。
ちらっと横を見ると大きくなった彼女が布団に入ってました。
あ、服きてないじゃん。
ボクだって男です。
そりゃあ朝ですから。
それに女の子が裸ですから。
とにかく彼女が目を覚ます前に布団から脱出して朝ごはんを食べて学校に行かなくちゃ!
そうだった。
言い忘れてたわけじゃないけどボクの名前は宮本賢介。
さぁ!
早く行動しなきゃ魔法少女のせいで命がない!!