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夢の奥で  作者: 関根ゆい
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18/21

秋の終わり 1

前話のあとがきで、夢の奥へ 4、に続くと予告しましたが、タイトルを変えました。

秋の終わり、は1と2の二部構成の予定です。



 秋の終わりの夕方の風はぐっと冷える。

 もう冬のはじまりなのかもしれない、夕焼けの反対側に映る濃紺な水槽には、ライトがちりばめられている。

 どこまでも澄んで、とってもきれい。

 空気を吸うと胸いっぱいに、なんだか愛しさで染まる。


 僕はまた、休んでいるはずの中学の制服を来て駅前のベンチに座っていた。一番最初に女の子に会ったそこ。

 やっぱりこっちの制服の方が落ち着くなぁ…。

 胸元にはキラリと金のカッコいい学章が光る。この学章、やはり東京では有名な中高なだけあって、いろんなとこで視線は集めるんだよね。


 「おかえりなさい」

 女の子は僕の隣に現れた。

 彼女は高校の制服姿。ここの駅の光景も、この女の子にとってはいつものことなんだよね。

 住宅街の中の裏口のここは、夕方のラッシュの時間ですらとても静かで、どこからか、公園帰りの子どもたちが家路に急ぐ声が聞こえるだけ。

 最初の夢では、そんなことすら気が付かなかった。本当に、自分の内側しか見えなかった。


 「うん。お兄ちゃんの夢の中みたいなとこへ行ってきた。」

 「へぇ。なにしたの?」

 「お兄ちゃんとお話してた。いろいろ。」


 お兄ちゃんの膨れっ面の話や、僕の憧れている姿だったりした話は、ちょっと恥ずかしくて内緒にしといた。


 「へぇ。なんか、私が見たことない、すっきりした顔してるね。よっぽどいい時間を過ごせたんだね。」

 女の子に、そう言われる。見透かされてたりして。まぁいいや。


 「ねぇ、最初にここの夢を見たときに、あなたが言ってたこと覚えてる?」

 僕は、女の子の方に向き合う。

 ベンチに座りながら向き合うと、なんだか少し距離が近くて、内緒話をはじめるみたいな気分になる。


 「あぁ、今はここにいて、考えなきゃいけないって話?」

 「そう。」

 「うんうん?」


 空気がどんどん冷えていって、耳が冷たい。女の子の横顔も少し耳たぶと頬が赤く染まっていた。

 女の子の息づかいが空気越しにわかることが、なんとなく、現実がすぐそこまで来ているように感じさせた。


 「僕、少しだけ、ちゃんと何かを考えられた気がするよ。夢の奥で。」

 女の子はちょっとびっくりしたような顔をしたけど、また真剣な顔に戻って、僕の方をみつめる。


 憧ればかり追いかけるのはもうやめよう。だって、僕が見た憧れは幻みたいなもので、そんな完璧なものなんてこの世にないんだから。

 自分で憧れは設定して、自分で捕まえないとね。

 

 もちろん、お兄ちゃんの頑張りやなとことかは、やっぱり僕もそうなりたいけど。


 なんとなく、もうここに戻ってくることはしばらくない気がした。女の子とは、しばらくもう会うことはないのかもしれない。

 そう思うと寂しかったけど、ここは夢なんだ、覚めなきゃいけない。どんな夢だって、いや、現実だって終わりはあるから。


 「いろいろありがとう。」

 「どういたしまして。でも、私は何にもしてないわよ?」

  女の子は、ふふっと笑う。


 「あなたは、どうだった?僕と夢の中でいろいろ過ごして。」

 女の子はそうねぇと空をあおぐように瞳をくるりとした。その瞳はちょっとだけ寂しそうに、でもきれいに澄んでいた。


 「どうだろう。何も変わらなかった気もするし、変わった気もする。でもちょっと安心したかもな。」

 「どうして?」

 「過去と未来って、ちゃんと今と繋がってるんだな、って思った。」


 一瞬、そんなん当たり前じゃない、と、言いかけた。が、なんとなく、その気持ちも分かる。

 さっきまでのお兄ちゃんの学校の中の夢を見て、彼女は昔のお兄ちゃんのことを見いだしたりしたのかもしれない。

 彼女は彼女なりに、ずっと抱えていた何かが少しでもほぐれたのかもしれない。


 でも、僕たちはあくまでも旅の道連れ。

 彼女はこの夢を抜け出したらどこへいくのだろう?


 「お兄ちゃんに現実で会えるといいね。そしたら僕もまたあなたに会えるかもしれない。」

 「そんなつごーいいことないわよ。きっとこれからもずっと、あの人には出会えないよ。でも、いいの。」

 「どうして?」

 「夢の中で見た通り、あの人は今でも、私の知ってる頑張り屋でいつもニコニコ優しい人だった。なんだか、すごくうれしかった。だからいいのよ。」


 …僕にはなんで、女の子がそんな風に思ったのか、よく分からなかった。

 女の子は、僕から顔を反らし、空のほうを見ていた。だからたぶん、強がってるんだと思う。

 でも、彼女は最初に会った時よりずっと澄んだ、表情豊かな顔をしている気がした。


 「じゃ、また。」

 「うん、またね。」


 僕は立ち上がり、駅の改札へ向かった。女の子は、改札口まで僕を見送ってくれた。

 ホームへの階段を上る前にちらっと後ろを振り向くと、女の子はまだ僕を見つめていた。


 ―今君が見ている目標が幻だったとしても、歩いて行こう

 今の向こうの君のために―


 (?!)

 きっと気のせいだと思うけど、この曲のこのフレーズを女の子が歌っているのが聞こえた気がした。

 きっと気のせいだと思うけど。

 

 そう、僕は行かなくてはいけない。

 この歌詞みたいに。


 5分ほど待つと、電車が来て、僕はそれに乗り込むと目を閉じた。

 次の駅の到着のアナウンスは聞こえなかった。

秋の終わり2 に続きます。

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