秋の終わり 1
前話のあとがきで、夢の奥へ 4、に続くと予告しましたが、タイトルを変えました。
秋の終わり、は1と2の二部構成の予定です。
秋の終わりの夕方の風はぐっと冷える。
もう冬のはじまりなのかもしれない、夕焼けの反対側に映る濃紺な水槽には、ライトがちりばめられている。
どこまでも澄んで、とってもきれい。
空気を吸うと胸いっぱいに、なんだか愛しさで染まる。
僕はまた、休んでいるはずの中学の制服を来て駅前のベンチに座っていた。一番最初に女の子に会ったそこ。
やっぱりこっちの制服の方が落ち着くなぁ…。
胸元にはキラリと金のカッコいい学章が光る。この学章、やはり東京では有名な中高なだけあって、いろんなとこで視線は集めるんだよね。
「おかえりなさい」
女の子は僕の隣に現れた。
彼女は高校の制服姿。ここの駅の光景も、この女の子にとってはいつものことなんだよね。
住宅街の中の裏口のここは、夕方のラッシュの時間ですらとても静かで、どこからか、公園帰りの子どもたちが家路に急ぐ声が聞こえるだけ。
最初の夢では、そんなことすら気が付かなかった。本当に、自分の内側しか見えなかった。
「うん。お兄ちゃんの夢の中みたいなとこへ行ってきた。」
「へぇ。なにしたの?」
「お兄ちゃんとお話してた。いろいろ。」
お兄ちゃんの膨れっ面の話や、僕の憧れている姿だったりした話は、ちょっと恥ずかしくて内緒にしといた。
「へぇ。なんか、私が見たことない、すっきりした顔してるね。よっぽどいい時間を過ごせたんだね。」
女の子に、そう言われる。見透かされてたりして。まぁいいや。
「ねぇ、最初にここの夢を見たときに、あなたが言ってたこと覚えてる?」
僕は、女の子の方に向き合う。
ベンチに座りながら向き合うと、なんだか少し距離が近くて、内緒話をはじめるみたいな気分になる。
「あぁ、今はここにいて、考えなきゃいけないって話?」
「そう。」
「うんうん?」
空気がどんどん冷えていって、耳が冷たい。女の子の横顔も少し耳たぶと頬が赤く染まっていた。
女の子の息づかいが空気越しにわかることが、なんとなく、現実がすぐそこまで来ているように感じさせた。
「僕、少しだけ、ちゃんと何かを考えられた気がするよ。夢の奥で。」
女の子はちょっとびっくりしたような顔をしたけど、また真剣な顔に戻って、僕の方をみつめる。
憧ればかり追いかけるのはもうやめよう。だって、僕が見た憧れは幻みたいなもので、そんな完璧なものなんてこの世にないんだから。
自分で憧れは設定して、自分で捕まえないとね。
もちろん、お兄ちゃんの頑張りやなとことかは、やっぱり僕もそうなりたいけど。
なんとなく、もうここに戻ってくることはしばらくない気がした。女の子とは、しばらくもう会うことはないのかもしれない。
そう思うと寂しかったけど、ここは夢なんだ、覚めなきゃいけない。どんな夢だって、いや、現実だって終わりはあるから。
「いろいろありがとう。」
「どういたしまして。でも、私は何にもしてないわよ?」
女の子は、ふふっと笑う。
「あなたは、どうだった?僕と夢の中でいろいろ過ごして。」
女の子はそうねぇと空をあおぐように瞳をくるりとした。その瞳はちょっとだけ寂しそうに、でもきれいに澄んでいた。
「どうだろう。何も変わらなかった気もするし、変わった気もする。でもちょっと安心したかもな。」
「どうして?」
「過去と未来って、ちゃんと今と繋がってるんだな、って思った。」
一瞬、そんなん当たり前じゃない、と、言いかけた。が、なんとなく、その気持ちも分かる。
さっきまでのお兄ちゃんの学校の中の夢を見て、彼女は昔のお兄ちゃんのことを見いだしたりしたのかもしれない。
彼女は彼女なりに、ずっと抱えていた何かが少しでもほぐれたのかもしれない。
でも、僕たちはあくまでも旅の道連れ。
彼女はこの夢を抜け出したらどこへいくのだろう?
「お兄ちゃんに現実で会えるといいね。そしたら僕もまたあなたに会えるかもしれない。」
「そんなつごーいいことないわよ。きっとこれからもずっと、あの人には出会えないよ。でも、いいの。」
「どうして?」
「夢の中で見た通り、あの人は今でも、私の知ってる頑張り屋でいつもニコニコ優しい人だった。なんだか、すごくうれしかった。だからいいのよ。」
…僕にはなんで、女の子がそんな風に思ったのか、よく分からなかった。
女の子は、僕から顔を反らし、空のほうを見ていた。だからたぶん、強がってるんだと思う。
でも、彼女は最初に会った時よりずっと澄んだ、表情豊かな顔をしている気がした。
「じゃ、また。」
「うん、またね。」
僕は立ち上がり、駅の改札へ向かった。女の子は、改札口まで僕を見送ってくれた。
ホームへの階段を上る前にちらっと後ろを振り向くと、女の子はまだ僕を見つめていた。
―今君が見ている目標が幻だったとしても、歩いて行こう
今の向こうの君のために―
(?!)
きっと気のせいだと思うけど、この曲のこのフレーズを女の子が歌っているのが聞こえた気がした。
きっと気のせいだと思うけど。
そう、僕は行かなくてはいけない。
この歌詞みたいに。
5分ほど待つと、電車が来て、僕はそれに乗り込むと目を閉じた。
次の駅の到着のアナウンスは聞こえなかった。
秋の終わり2 に続きます。




