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夢の奥で  作者: 関根ゆい
10/21

ココアとシュークリーム

私サイドに戻ります。


私、とあの人、の昔のお話。

 家族におやすみなさい言って部屋にはいると、大きなため息が出た。

 カフェの窓の外に、あの人が女の子…しかも一年生の間ですらかわいいので有名な先輩…と、しゃべっていたのを見てから、頬の筋肉が動かない。視界や思考はまるで止まってしまったかのようだ。


 酷い顔をしていたのだろう。友達二人にも、大丈夫かと聞かれたので、少し目眩がすると言って早々に帰宅してきた。

 家ではなるべく普通に振る舞ったが、多分ずっと酷い顔をしていただろう。親は、私が、例の夢にまで見た文理選択に悩んでいて辛いのだと勝手に勘違いしてくれていたようだ。


 ベッドに転がると、目頭が熱くなってきた。

 あの人がそれなりにモテていることは風の噂で聞いたことはあった。廊下で女の子と話している姿も何度か見たことあった。

 彼の昔の人懐こい性格や、朝礼で部活の表彰に何度も壇上にあがっていて目立つことを踏まえると、当然と言える。

 女の子と話しているのを見るたびに嫉妬はどこからかわいてきたが、もみ消していた。


 しかし、今日はひどくつらく感じた。


 あの人のことは諦めてるし、別にかまわないはずだった。

 でも、他のこと…ある時は進路だったり、ある時は友人関係だったり…に不安を感じると、なんだかあの人のことを思い出して辛くなる。

 もう一度会えるかな、助けてもらえるかな…なんて、逃避もいいところだ。本当に弱い自分がいやになる。


 そんなことをぐるぐる考えていると、何時になっても全く寝付けなかった。

 夢の中に逃避すらできないのか…。


 ぼんやりしながら、昔のことを思い起こす。


 私があの人に出会ったのは、小学校三年生の冬、中学受験のための塾に通い始めた時だった。

 放課後や土曜日、おおきな横長のリュックを背負わされて、お弁当を持たされて、塾に行くのは本当に嫌で、塾の前で車から降ろされていってらっしゃいをすると、ぼたぼた涙がでてきた。授業がはじまる前には頑張って普通にもどっていたので、誰にも知られてない、と、思ってた。


 ある日、いつも通り涙を拭きながら教室へ向かっていると、知らない男の子に声をかけられた。私より二回り位は体が大きく、きっとわたしより先輩だなとおもった。

 「これ、やるから泣くなよ。」

 彼は私の手に包み込むように何かを握らせる。それは、パープルの包み紙のブドウ飴だった。


 「え…いいの?」

 驚く私に、男の子はにかっと笑う。

 「いいのーおれやさしいでしょーお?」

 男の子のふざけた口調に思わず私は泣いていたのを忘れてクスッと笑った。


 それから、その男の子は私に会うたびに話しかけてくれた。時々、勉強のわからないところを教えてくれたりもした。

 彼はいつも見かけるたびに、たくさんの友達とおしゃべりしたり、じゃれたりしていた。人懐こく、年齢性別関係なく誰とでも友達になれるようだった。

 また、彼は頑張りやなことでも有名だった。夕方誰よりも早く来て、夜遅くまで一人で自習していた。


 私は、彼の数多い友達の一人なだけだとわかっていたけど、彼に話しかけられるのは嬉しかったし、楽しかった。

 いつの間にかあんなに嫌がっていた塾も、普通に通えるようになっていた。


 一年程後。

 彼は小6になり、私は小5。授業が忙しくなってなかなかゆっくり遊んだり話をしてくれる機会はなかったが、会うといつもニコニコ声をかけてくれた。

 冬になり、彼の第一志望の試験の日が近づいたある日。私は桜色のきれいなメモ帳とペンで、自作のお守りを作って、彼の家のポストにそっと入れた。

 “絶対合格!頑張って!”


 名前はかかなかった。なんとなく恥ずかしかったから。


 彼は絶対に私が作ったと気がつかないと、思っていた。


 3月のある日、いつも通り夕方に塾に行くと、彼は塾のあるビルの外にたっていた。


 「てらいー元気してたー?」

 相変わらずニコニコして、私を呼び止める。

 彼から無事に第一志望に受かったことを聞いて、私はすごくほっとした。明日は彼の小学校の卒業式だそうだ。

 ひとしきりしゃべった後、もうすぐ授業はじまっちゃうからじゃあね…と、私が行こうとすると、彼は待って!と呼び止めた。珍しく、少し照れた感じのうわずった声で。


 「あのさ…お守り、ありがとう。これ、お礼…。」


 彼からそこのコンビニの袋を渡された。


 ばれてたのか!と、いう思いや、なんだか告白みたいで恥ずかしい気持ちを抑えながら、なんとか、ありがとう、をいうと、授業開始の鐘がなってしまい、私は授業へ走っていった。


 きっと私の顔は真っ赤だっただろう。

 彼の顔の色は見ることができなかった。


 そして、その袋の中身は、ココアのパックとシュークリームだった…。



 思い出しているうちに、どんどん寂しくなってきて、どんどん頬に熱いものが伝う。

 分かっている。この出来事は昔のお話、過去の栄光。そして思い出しても、浸っても、問題は何一つ解決はしないと。

 でも今はこうしていたい…。

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