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伝説の始まりは現実の終わり  作者: 一ツ柳八重
第二章 奴隷都市ブロッサムプリズン
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準備・強襲

遅れましたが、ついに天王寺アリスと鏡由紀の接触の回になります。

街中が汚染され、アリスは由紀を助けに向かう事になりましたが、彼女は彼女の思うところがあるみたいですので、どうぞ見ていってください。

 到着して、自分の持ち物を確認し、自分の背後に感じる気配を意識する。

 本来、この状況になって居たら私自身も影響下に置かれてしまうのがこの世界だ。

 本当に、こんな世界反吐が出るけど、意識しないという方が無理なんだよね。

 精神的に汚染されるというのは、所謂、同調や共鳴というものだ。

 いくら腐っていても私も年頃の女だ。気にならないというのは嘘になるし、そもそも襲撃時に影響下に置かれているから、意識が偶に暴走しかける。

 それでも大丈夫なのは……。

 私は左肩越しの空間を見つめる。

 そこには赤い靄が薄っすらと漂っているのが見て取れる。

 そこから私のアクセス器に繋がっている。

 谷が来る前に準備をしないとね。


「簡易承認を申請。コード3898。システムによる干渉権限の一時停止を要求。警告及び免責事項に同意」

『権利者コードの申請を確認。簡易承認によるアクセス器の保護が解除され、精神力及び鉱石による保護を解除します。命の保証は行われなくなります。免責事項及び警告に対応する規約の同意を確認。今から一時間、全てのシステム干渉がなくなります。同時に簡易コードの使用制限を解除しますが、バグ及びコードミスによる身体の損傷は回復しません』


 簡易コードの使用が出来た。

 簡易コードとは、権限を持った研究者や、ゲームマスターと言われる人たちが使う特殊コードの事だ。

 それを私が使えるのは、お父さんが残してくれた権限のお掛けなのだと感じる。

 後は、爺さんの所に時に行き、由紀を助ける。


「アリスさん。早くて追いつくのにかなり苦労しました」


 谷が追いつくと同時に、物を叩きつける。


「Re.アクセス。クリス博士。ゲート解放」


 クリス博士が作ったワープ装置が起動し、空間をつなげる。


「行くわよ。一刻を争うから」

「こ、これは?」

「この世界のどこでもドア。一回きりのね。吐くけど気にしないで来て」


 そして、私は躊躇いもなくその空間に踏み込む。

 三半規管が直接振動されているような感覚に襲われ、同時に爆速回転している様に視界が回る。

 胃の内容物がそこら辺に舞い散りそうになり、下半身も震え、寒気すら感じる。

 今日の私踏んだり蹴ったりだな。

 そう感じると同時に、足の裏に固い感触が触れて、そのまま座り込み口元を抑える。


「アリスさん大丈夫ですか!?」

「大……丈夫。これくらい平気」


 ふらつく足を無理やり動かし、扉をくぐる。


「くそじじぃ、連絡していたモノを取りに来た。どこにあるの?」


 研究室の奥にこちらを見ずに声を発する丸まったお年寄りがいた。


「そこに置いてあるわい。他に必要なのがあったらその都度送れるように、試作品も置いといたわ。コードは接続じゃ」


 私はその言葉を聞き流し、準備を頼んでおいたものを確認する。

 鉱石パウダーに、スキルで使用するソードブレイカー、十字架のような形をしており刃がついてない特徴的な短剣のスティレット、そしてレイピアが置かれており、さらに腕時計状の液晶が置かれていた。

 それらを持ちあげアクセス器に近づけて収納していく。

 ソードブレイカーは腰にしまって。

 この腕に付けるものだけは左腕につけとこう。


「ジジイ、この武器類には――」

「大丈夫じゃ! 儂を誰だと思ってる!」


 その言葉に私は満足し立ち上がる。


「あのアリスさんご高齢の方には敬意を」

「うるさい。いくよ」


 そう言って研究室を後にする際に、武器類をしまうときに出していた盗聴器を置き、さらに白煙等を気が付かれない様に落としていく。


「さすがに敬意がないと思いますよ?」


 後ろで声が聞こえるが気にしない。


『坊主、お主公務員の出じゃな? 人は外見じゃないんじゃよ。彼女も彼女なりに尽くしてるんじゃ。その先入観をなくさないといつか失敗を犯すぞ』

『私にもプライドはありますので、ご老体の言葉、肝に銘じておきます。ありがとうございました』


 耳に付けていたインカムからそんな会話が聞こえてきた。

 本当にこの異常事態の意味わかってないのね。

 目の付け所は悪くないが、状況の整理に特化していて、情報の獲得というものが極めて弱いと感じる。

 だからこそ、命令を厳守でき他人の能力を吸収する天才なのだろう。

 経験故の才能ね。

 私は、TLSの壁を壊し、外に出る。

 その破片は下に落下する前に粒子状になり消えていく。

 流石に由紀を助けるためとは言え、下の獣を殺すことまではできないし。

 そして、由紀のいる森を目指すためにタワーを落ちていく。

 スカートは落下の影響ではためいており、素肌には熱気のような熱さの他に夜特有のひんやりする感覚が心地いい。

 髪も暴れているがそんなのは些細なことだ。


「ここからでもはっきり見える」


 森の方に視線を向けると、紅い本流と黒い粒子が舞っているのが目に見える。

 着地と同時に走り出す。

 あの状況はかなりまずい。

 あの場には禿もいるだろうが、その粒子が見えてない所を考えると、かなり劣勢かこの現況の影響下に置かれているはず。

 それに、あの禿の部下は全員男だ。

 この町の現状を見れば馬鹿でも分かる。

 ひとりわからない人も居るみたいだけど。

 それに由紀はこの世界では女の子だ。

 私だって女だけど、このタイプのあっち系のはよく読む。

 この事件が起きてから、年齢詐称して読んでいたが、その爆心地、いいやその元凶が由紀自身なら耐えられるかわからない。


「ああもう! 由紀はもっと自覚を持ってほしいわね」


 街の壁を蹴り上げ走り続ける。

 壁を越えて平原を疾走し始めるが、壁を越えてから頭の中に忌々しい想像が流れ込んでくる。

 干渉は切ってもやっぱり、この問題はオリジナルの……。

 谷は追いついてくるか心配だったが、背後で白色の粒子が舞ったのを確認できた。

 あいつ、やっぱり才能の塊だし、連れてきてよかった。

 妄想に関しては言えないけど、この件が終われば、今由紀についているやつをぼこしてやる。

 とはいえ、ここから8キロは骨が折れるのも事実だし、ちんたらしていたら取り返しがつかない。

 はぁ、なんで私がこんなに苦労しないといけないの? 錦戸、あの禿もいるのに、私が前面に出るのも、運命なんだよね。


「コネクト、権利番号331。特別回線の接続を要請」


 シンは見ているはずなのに出てこないのは、多分私の為なんだろうし。


『承認。コード004。サファイヤとの接続を行います』

「シン。見てるんでしょ。このままじゃ間に合わないから、彼女のスキル連帯をお願い。使用するのは、型破りで使うわ。それと、前回やる予定だったメインサーバーの今日実行するから、その許可もお願い」

『よく気が付くね。スキルに関しては、操作で可能にしてある。いつでもリンクしてくれて構わない。あと、後半の方はすぐには厳しい。知っての通り僕にシステム権利がないからだ。代わりに博士の所と接続させとくから、マリアいいや、もう決めたんだろうし。アリス、君が由紀を止めたら強制的に接続してくれて構わない』


 それだけでもありがたい。


「私の独断だから、成功は低いけど祈っといて」


 私は、アンダーグラウンドにいる時はマリアと名乗っていた。

 父親の姓をとって神代、マリアは初めに母がつけてくれた名前だ。

 過去の名前と言えば聞こえがいいだろうけど、もう使えない名でもある。


「アリスさん! 待ってもらえますか!」


 谷が追いついてくる。

 白い軌跡を描いてくる谷は、この世界でもトップに躍り出る事が可能な才能だと感じる。


「遅い! 今は急いでるの! 今からスキルを使うからリンクして!」


 息も切らしてないのに、疲れたそぶりを見せる谷に対して言い放つ。


「もう少しかかるなら、少し聞きたいことがあるんですが」


 そう言いながらでも、リンクを片手で行ってくる。

 白い線が私の指輪に巻き付き弾ける。

 私は、腰からピンク色の粒子を放つブローチを取り出す。

 そのブローチについているのはローズクォーツ。

 私の原点。

 ウィンドウを開き、右下のリンクを選択し、緑色の粒子を放ち加速する。

 空気抵抗すらなく、速度が上がり目的地まではすぐにつくだろう。


「で? 聞きたいことって?」

「天王寺アリス。君について調べたが、名前が複数あった。マリア、アリス、神代マリア、天王寺アリス。それぞれ君を表す名前だね。そしてある時に、君の名前は戸籍上天王寺アリスとなった。そうなった経緯は調べがつかなく、同時に君の父が所属していた研究室にマリアが居た。これの関係性は?」


 私を示す四つの名前。

 そこまで解ってるのに、気が付かないなんてね。

 少し肩透かしに感じたが、同時に知っているからこそあえて聞いてきたのだと、直感的に感じ取る。

 この感じが一番嫌いなのよね。


「全て知っていると思うけど?」

「さあね?」

「警察っていつもこうなの?」

「人による。僕は違うけどね」


 そう言われて、冷静さを保つために深呼吸した。


「話してあげる」

「聞かせてもらおうかな」


 そう言って私は話始める。


「私の父は過去にAR研究をしていたのは知っているでしょ。その時の名前が神代マリア。法律上で言えば旧姓といったところかしら」

「確かその時、この世界を作ることに協力して、死者を出した為家宅捜索されたはず」


 その時の記憶は今でも残ってる。


「ええ。そして、特別な作用をもつ、バックアップシステムを組み込み、鏡博士の孫を保護するアクセス機をもらったわ。その時に父の研究室にもう一人この世界の生成に関わった人が居たの。その人は開発初期メンバーの一人で、名前を『戸倉真理愛』って言ったわ」

「!」


 その名を言った瞬間息をのむ空気を感じた。

 やっぱりね。


「その戸倉マリアは、父が捕まるとき、司法取引をした。この世界のシステムに干渉することが出来る権限をもつ神代の一人娘の保護と引き換えに、後期開発者のリストを提供した。その時に私は『天王寺アリス』になった」

「日本には存在しない特例措置の唯一の事例――」

「そうね。そして、私はアンダーグラウンドに所属するとき、マリアと名乗り、知人と会う表向きはアリスと名乗った」


 マリアとは私にとっては罪の名前であり原点でもある。

 アリスと言うのは、新しい私であり、監視対象を意味する。

 どっちも忌むべき名になっていた。

 今どんな顔してるかな。

 足を動かさなくても目的地に進んでいるため、本来は正面を見ているものなのに。

 今は深緑色の地面しか見えない。


「そしたら、この世界に戸倉マリアが存在した。結果、私が名乗った事により隠れ蓑になったという事でしょうね」


 結果論だろうけど、間違いないと感じた。


「という事は、公安が追っていたマリアって」

「たぶん私の事ね。戸倉マリアはこの世界での名前はシンしか知らないんだから」


 そう言いながら、目元が熱くなってることに気が付く。

 まだ割り切れてないなんて。


「ありがとう。わかったよ。なぜ君が僕をここに連れてきたのか。鏡博士の孫に接触させるという目的、僕の仕事を協力するのと同時に、これを止めるためだね」


 そう言った言葉を聞いて初めて谷の方を見ると、たくさんのアラートが浮き出ていた。


「それって」

「君は知っているんだと思うよ。これが僕らが危惧している事の一つさ」


 白い線が切れて、谷が落ちていく。

 そして、私はそのまま森に到着した。

 しんみりしてたら飲み込まれる。

 由紀だけは助ける。

 そして、お父さん。

 あのアクセス盤の役割を全うすることに谷中さんを選んだんだね。

 なら。

 私は全力を出すだけ!

 そう決意し、腰からソードブレイカーを抜き、紅黒い粒子の中心に降り立った。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

今回の回は、大きい所で過去の混乱するであろう名義問題を触れてみました。

そういうのも、過去に由紀が服を選んでくれた少女のピンク色の粒子と、街中の戦いのオレンジ色の粒子を持つ女の子が同一人物なのに気が付かなかった理由は二つあったからです。

そして、決戦に使用するのは天王寺アリスとして戦う事に決めた彼女が使う物で、ローズクォーツではないです。

ここで気が付くとは思いますが、外ではアリス、裏ではマリアならアリスの時はローズクォーツなのでは? と。

それは、彼女の決意が関係しています。

全て一人の人の名前であり、それぞれの違いが分かりにくく、さらに由紀に教えた研究者もマリアでさぞ混乱した人も居ると思いますが、こんな使い分けでした。

特例措置に関しては、アメリカである証人保護プログラムを元にしてますが、日本には存在しません。

ですが、この世界では親族であるという事で危機になる事が語られています。

それが後期開発者の関係者と初期開発者の関係によるものです。

そして、由紀がこの抗争に巻き込まれなかった、名前を変えなくて済む理由はこれから明かせたらと思います。

感の良い人はたぶん気が付くと思いますが、ぜひ感想にでも予想を書いてみてください。

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