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伝説の始まりは現実の終わり  作者: 一ツ柳八重
アンダーグラウンド
16/53

システム――幻想

 中に入るとやっぱりドーム型に見える。

 ここの空間は錯覚って言っていたけど、それと精神がどう影響してくるんだろう? ここにきて改めて考えてみる。今の考えは外敵から守るためだと考えていたけど、もともとは処刑施設。それがドーム型に見える事と立方体である事で起こりうる違いは何だろう。


『閉鎖空間は人の精神を圧迫するんだよ』


 途端に誰かの声で再生された言葉があった。それその言葉は『閉鎖空間は圧迫する』と言う事。それが意味することは、処刑する際に自分を見つめ直す事と死ぬって事から感覚を消すため。空間という圧力がかかって来た時にはほかの事は考えられなくなる。それは、狭いと感じた瞬間に一人しかいないのに窮屈に感じて不便とは感じないと言う事だ。広ければもう少し綺麗にできるスペースがあれば、置き場所がないとその空間に対しての解を求める。その置かれているものがどんなものなのかよりも。

 そうなるとドーム型で白一色というのは絶望を与えるため? そう考える事もできる。広いと思ったけど実は広いわけじゃなく、隔離された空間という事実を知ったとき、ここに入れられた人は混乱するんじゃないだろうか? ここに居て確かに広いのに何で壁が、角があるんだ、どうして目に見えているものと、そうじゃ無い物を感じるんだって。衰弱していけばなおさらその感じ方は視覚と脳を疲労させる。そうなって気が狂ったら最後。その人を殺すことに理由がつけられ、気が狂ったから可哀そうだし殺してあげよう、あの空間に入った者は、一度も狂気じみた行動から外に出したとしても戻らなかったって言えば使った人がいうのだからそうなのだろうと思い込む。

 そして、大量に殺し合わせていたとしたら、死の恐怖と広いはずなのに狭いという事も精神をおかしくするには完璧だ。広ければ逃げられるという事を視覚と脳で矛盾が生じるから。

あとは、ここのシステムにも何かあるのかなぁ、と考える事しかできない。

先に中に入っていたクリス博士は僕が考え込んでいる間、静かに待っていてくれて僕が顔を上げた時に話しかけてきた。


「ワシが奥に行くかのぅ。お主はそこで剣を構えてワシが創り出す物を壊してワシに一撃与えるがよい」


 二十mくらいの位置に博士は立ち、黄色い粒子が周りに拡散していく。


「リアクト……ショートソード」


 赤色の粒子が剣になり、手に握られる。


「行くかのぅ……。システムトレーニングレベル5……幻想」


 しっかりとした声でそう言っていた。

 周りがみるみる内に変わっていき、形が形成された。

 そこは、ベットに机、新品に感じる生活感を感じないクローゼットに――そこはまさしく僕の部屋だった。


「何で」


 かすれた感じでそう言った。恐怖の象徴で、この世界に逃げてきた現実。

 そして――一番壊したい世界。


「お主には何が見えておる。それこそがお主の敵であり消すものなのじゃ。同時に消せない物じゃろう」

「ふざけないでよ! 何なの! これは! 僕に何か恨みでもあるの? 出てきてよ。博士に一撃でしょ? 関係ないじゃん!」

「そうじゃ。ワシに一撃じゃ。その世界にワシの作った防壁がある。それを越えた先にワシはおる」


 僕はその言葉を疑う。それしかしたくないのと、目の前の光景が恐怖と言う形で染まり、僕の中に黒い怪物が生まれたのを感じた。

 それはどす黒く、存在してはいけない物で理性と言うストッパーすら壊し人と言うものに害を与えるもの。それは業火を纏い、身を焼きつくし後にはおかしくなる様な笑みすらも浮かべる存在。そしてその生き物が起こす行動は狂気じみた物。

 その存在の名前は殺意。

 それが、僕を支配しようとしていた。体が火照り頭では何を考えているのか分からない。ただ、殺せ殺せと反響して目の前に沢山の影が見える。


「はは。そうか。ここはゲームなんだ。人を殺してもいいんだ。本当に死ぬわけじゃないし」


 その言葉を発した瞬間、僕の中の鎖が殺意という獣に砕かれ、理性というものは焼き尽くされたと感じた。そうなった時には本心ではやってはいけない、この世界はゲームじゃない現実かもしれない、ここはこんなに狭くない。いた所はもっと広いところだったはずだ! と頭では理解し、冷静になろうとしても体や行動を制御する思考はまったく言う事を聞かない。

 そうする事が正しいと言うように考えとは裏腹に手に力が入り、目の前に人でも居たら殺すことを楽しんでしまうような感じで顔もひきつっているように感じる。 無表情を作っている反面、顔には笑みを作ろうと作用もしている。

 そして、剣を構えて目の前の影を切り裂いた。

 手ごたえは無かったが、そこにあった筈の扉が崩れ落ちた。

 廊下に出て階段に向かう。階段に着くころに声が聞こえた。


「由紀! またそんな格好をして! 何度困らせれば気が済むのよ! 女の子じゃないのに!」

「うるさい」


 ぼそっと呟いた。

 やめて。僕は何もしたく無い。確かに親は嫌いだ。僕の存在をさんざん否定してたから。でもたった一人の母親なんだ。殺しちゃいけない、いけないのに!


「煩いとは何! 親に向かってそんな口を利かないで! 由紀がそんなんだから私がおかしくなるのよ!」


 僕の中では母親って人の形じゃないのが幻影として見えた。人のはずなのに人じゃない、これもクリス博士の力なのだろうかと考えるも、現実味がありすぎる。

 そして本当の母親のはずの人が居るところに赤い獣みたいなのが見えた。それは僕に牙をむこうとしていて、今にも噛み殺そうとしている。


「言葉を喋る動物がいるなんて」

「ちょっと何を言ってるの! 由紀!」


 声は確かに母親だった。でも、目の前にいるのは赤い獣。よだれを垂らして今にでも噛み殺そうとしていて、目には殺気を宿し、体は地獄の業火で燃えるようになびいてる。

 何かが肩を触った。

 その瞬間反時計回りで剣を振るう。

 何かを切り裂く感じがした。


「由紀……」


 苦しそうな声が聞こえた。女性のような気がした。

 あれ? 今なんて考えた? 女性のような気がした?

 そんな、さっきまではきちんと母親だったって見えていたのに、気が付いたら母親じゃなくて獣って僕は認識していた? 嘘だ。そんな事。そんなことが起こるなら僕は今、殺意に理性だと思う分析していた本心も飲まれたって事に。


「お母さん……?」


 我に戻った僕は目の前に血まみれで倒れているお母さんにかけ寄ろうとした。

 僕は……この手でお母さんを。たった一人の母親を殺しかけたんだ。さっき僕は何をした? ここは本当に僕の家なの? あそこはドーム型のはず。ならここの四角で直線の部分は存在しないはず。なら、やっぱり目の前で倒れているのは本当に。


「来ないで。貴女のような子供を産まなければ良かったのよ。これでやっと救われる」


 ところどころかすんではいたけどそう聞こえた。

 その瞬間何かが砕けた。

 同時に剣を突き立てていた。


「あんたなんて……生まれてこなけ――」


 最後まで聞かずに剣を引き抜く。

 それは赤く染まって、殺人鬼になっているのと同じだった。

 母親の最後に言った言葉の意味を考える暇なんてなかった。さっきのは、本当に自分の意志で突き立てていた。そうしたくなかったはずなのにそうする事が当たり前だと言う風にただ冷酷で何も感じない僕がそこにはいた。


「お母さん!? おい! 由紀どうゆう事だこれは!」


 黄色い粒子が見えた気がしたけど、それよりも声の主を見た。


「お父さん? ごめんね。煩い獣が居たんだよ」

「何事だ? お父上、由紀さんは下りてこられたのですか?」

「先生もいたんだ」


 ロビーの扉のあたりからもう一人青年が顔を出す。

 その青年は歳は35歳くらいだろう。眼鏡で赤いネクタイに白いワイシャツを着ていて、電話で漏れていた声の主。そう僕のクラスの担任教師だった。


「ひっ!?」

「由紀。親に向かって殺人をすると言う事が解っているんだろうな? お前みたいな女になり損ねた屑は、この手で消さなければ私の名前に傷がつく。先生もそう思うでしょ?」

「わ、私は由紀さんがまっとうな生徒になってほしいだけですから、死のうが構いません」

「そうなんだ。お父さんも先生も僕を殺したかったんだね」


 そう確認をした時には、また僕は殺意に飲み込まれていた。もう誰が死のうが知った事ではないという感覚と、煩かった人が消えたこと、僕を否定した人を殺せたことの喜びが体の中に満ちていった。

 そして、煩かった父親に踏み込んで振りぬいていた。

 何かが飛び散った感じがしたけど気にもならなかった。


「ゆ――」

「うるさいな。肉は話さないでよ」

「ゆ、許してくれ! 先生はお前に男らしく生きて行ってほしいと思っただけなんだ。だから暴言も吐いた」


 先生は土下座をしていたようだが目に入ってこなかった。感じているだけで、目の前には気持ちの悪い肉の塊が蠢いてる様に映っていたのだ。


「死んで」

「ひぃ! なんてな」


 足元か切られた感覚が全身を駆け巡る。

 肉塊は高速で距離をとる。

 僕は剣を垂らして沈み込み一気に踏み込む。

 振るう。

 肉塊は二つになる前に黄色い紋章が壁になり弾かれる。

 肉塊から槍が形成され胸のあたりを刺される。

 鈍い痛みが伴い倒れ込んだ。

 この時に僕はここが現実なんだと感じる事が出来た。そして、親を殺したという事実がまたもや僕に力を与えようとしていた。


「はは! お前はその程度なんだよ! 大人に刃向いやがって。女のくせに。大人の怖さを教えてやろうか? あ?」


 だんだんと意識がもうろうとしてきて、刺されたところを触り目の前に持ってくる。

 赤くどろっとしたものが手についていた。

 そうか……ここが現実なんだ。僕が親を殺せたんだ。


「そうだな。先ずはきているのを剥いで下着姿でも鑑賞するか」


 もう体は動かない。女の体として死ねるなら本望とさえ思える。こんな人の屑に殺されるなんて御免だけど。

 でも、なんでだろう。朦朧としてるはずなのに僕は今女として認められてるなんて。現実のこっちの僕は体は男なのに。


「へへ。生の女子高生の裸が見れ――」


 体が動いていた。

剣を振り上げた態勢で力が抜けている。


「先生♪ ありがとうございます。私を本当の私にしてくれて♪」


 肉塊が真っ二つになっていた。それは潰れて痙攣を繰り返して何も発さなくなった。

 僕は優越感に浸りながら、玄関から外に出た。

 足元には大きな黄色い発光する線で何かが描かれていて、全容は分からないけど、時計回りに動いていた。


「ふぉっふぉ。やっと会えたのぅ。お主今最悪の顔をしてるぞい」


 そこには年寄りがたっていた。

 余裕の笑みを浮かべており、足元には何重にも重ねられた図形が回転していた。


「博士。そんな事ありませんよ。今すごく清々しくて、もう一人殺したい気分なんです」

「かかってきなされ」


 剣を腰に帯刀するように構え、腰を落とし踏み込む。

 博士はペンダントを前に出し何かを唱える。

 衝突。

 斬撃の間合いに入ったのを感じ振りぬくが、黄色い粒子に阻まれ押し返された。


「黒いオーラが出てるぞい!」


 大きな円が僕に当たる。

 体が二~三メートル吹き飛び、地面に転がる。

 それでも、ゆっくりと立ち上がり、剣を構えて踏み込む。


「死んでよ! 博士!」


 叫んで剣を突き出す。


「甘いわい。海坊主と戦った時より雑よのう」


 黄色い障壁が出て阻まれた。

 同時に足元に紋章が出て僕の動きを止めた。


「気が付いておらんようだから言わぬが、お主はここで死ぬよのう」


 黄色い粒子がどんどん膨れ上がる。


「僕はお前を殺すんだ! 僕を受け入れない人を全員! 生まれてきたことを否定されるくらいなら!」

「落ち着いて状況を見れないガキに何ができると言うのじゃ。これでしまいじゃ」


 目の前が真っ黄色に染まり、だんだんと見えなくなってきた。

 黄色い粒子は僕の体を少しずつ押しつぶすように圧迫してくる。それはまるで生きたままプレス機に入れられているような。

 あぁ……これがフィギュアの気持ちなのかな。八百神がいるって言うけど、フィギュアにも意識があったら捨てられるときは回収車の中ではこんな寂しいと感じるんだな。

 さっきまでは殺気に支配されていたけど、今は心と体は完璧に分裂している。体の方の僕は殺気に飲まれ、どす黒い空気を纏っていた。

 この感覚が死ぬって事なんだろうかと分析すらもできるほどに余裕だった。

 それでも、体のコントロールはできなくて、口は勝手に言葉を発する。


「殺させろ! 僕は! 僕はまだ!」

「それじゃあのう。紋章解放……リアクト」


 その瞬間意識が飛んだ。

 それが今の僕には正しいことだとわかるのと、本心では感謝してるであろうと言う事も。同時に殺気に僕の思考もすべて飲まれていった。


人はいつ、黒く染まるかわかりません。

抑えれば抑えてるだけの力が内に籠って行きます。

今の段階で、一番生き生きと書けてる気がしますけどどうでしょうか?

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