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フェノメノ ~日本サッカー架空戦記~  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
繚乱
57/59

戦後その2

13(承前)



米長公義



 これは必要なゲームだった。


 この日大事なことを学ばされた。俺はもっとゴールを奪わなければならない。それを教えてくれたのはチームメイトの法水でありトップチームの木暮だった。


 前半の法水は個の力を顕示した。あの男は勝負から決して逃げなかった。すべてのボールを呼びこみすべてのチャンスをものにしようとしていた。あれこそセンターフォワードの仕事。実力を出し切りトップチームのDFを畏怖させた。


 あいつ任せのサッカーになったのはこちら側に責任がある。あいつを追いこす動きができればマークが外れた。もっと速いテンポでボールが回せればシュートを撃つタイミングが相手に分からなかった。



 木暮は完璧に近い仕事をしていた。チームの中の部品として機能しているエース。試合中95パーセントは単なるパスの出し手として仕事をし、その中で機を見てストライカーに変貌する。

 後方からゲームをつくっているためスペースを見つけ入りこむことはたやすい。そして元々キックの種類は多彩だ。小柄で身のこなしも軽く、マークする木之本も散々悩まされていた。体力は無尽蔵で後半のアディショナルタイムでもキックオフ直後のように走ることができる。



 試合の後半から米長はセンターフォワードを任された。これまで決してやろうとしないポディション。父親と同じ役割であることもあり忌避すらしていたのだ。

 何もできなかった。

 本職の法水のような裏をとるスピードもない。サイドに流れてからしかけるスラロームのようなドリブルもない。スパイクに吸いつくようなトラップの技術もそうだ。

 つまりむいてなかった。

 監督がどんな意図をもってポディションをチェンジさせたのか?

 誠実のプレイを自分に見せるためではないのか?

 米長は黒髪誠実を知らなかったのだ。

 ボールを離す最後の瞬間まで複数の選択肢を維持できた。結果ボールを失わず、味方は安心してゴール前まで攻め上がることができる。

 米長には早い段階から答えをひとつにしぼり、厳しいマークにあってもそれを実行する力はあった。

 前半と後半の違いは自分と誠実の違い。

 そのことを分からせるために自分をベンチに下げなかったのだ。


 試合後、ユニフォームを脱ぎインナーシャツの袖を巻いた米長は黒髪に話しかける。「次は絶対に負けねぇからな」

 タオルで顔をふく黒髪は答える。「もっとうまくなります」




木之本伴



 これは自分のゲームではなかった。


 木暮を止められたのはたったの一度。それも四度失点してからのことだ。

 年齢のことはまったく言い訳にならない。木暮は余力を残してプレイしていたはずだ。さすが代表選手。プレイに迷いがなく自分は常に後手に回って対応せざるを得なかった。

 何度も寮内で話をしていたから分かっていたことだが、木暮はピッチから離れさえすれば穏やかな人物である。

 木暮が黒髪と話をしている。後半の二点目の場面についてだ。「いやぁどうかしてると思ったね」

 黒髪は小さくうなずくばかり。

 続けて木暮が。「お前と撃ちあいになって俺が負けた。CKの後のゴール前だったのにあそこにいたのは俺とお前だけだった」


「偶然です」と誠実。


「崩されたって感じはしなかったけれど、それからずっとそっちのターンになった。なんていうか執念で決められたっていうか……面白いって思っちゃったよ。追いつかれそうだったのに。俺がつくったリードだったのにだよ。こいつらどこまでやるんだろう。マジでヤバいって思ったよ」笑って。「なんか俺が喋ってばっかだけど。ああそうだ、それに法水もいなかった」そう言って木暮は、どこにもその少年の姿が見えないことに気がついた。「どうした? まさか怪我?」


「逃げたんですよ」と木之本は教える。

 ……木暮がどんなサッカーをするかは分かっていたのだ。ヴィデオも視聴したしトップチームの試合を観戦することもあった。それでも止められなかった。

 責任を転嫁するようだが、彼がシュートを撃つ前の段階で防ぐことができたのなら前半の大量失点はなかった。

 トップチームの勝因はハットトリックを決めた木暮靖彦だけにあるのではない。全員が中学生のチームより強かった(当たり前か?)。チームメイトをうまく使える黒髪にしても、個の力はトップチームに比べ劣っている。足が速くない、サイズがない、キック力がない。


 同学年の彼を責める前に、自分はどうなのだろう。

 ほとんどの失点に関わったではないか。

 まるで足りない。

 もっと力が欲しい。チームメイトを支えるために。どんな相手にも通じる確かな実力が。敗戦を勝利に変える武器が。




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