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フェノメノ ~日本サッカー架空戦記~  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
繚乱
56/59

戦後その1

12



 主審の長い笛が試合終了を知らせる。



13




FFA U-18 

         4-3

             FFA U-15




郷原博通



 これは勝者が不在のゲームだった。

 3点差を1点差までに詰め寄られたトップチームに反省点は多い。リードしたゲームをコントロールすることができなかったのだから。

 後半のような思い切った攻撃を前半のうちから披露できなかったU-15も同様だ。

 それでも年齢差を考えれば年少のチームはよくやったといえる。失点を重ねながらゲームを投げなかった。



 染谷の途中投入は当たった。

 足の速い染谷をボランチで使ったのは、守備から攻撃の切り替えを早くしたかったからだ。パスを出す選手よりもしかけられる選手を中盤に置きたかった。最後に創りだしたチャンス、ボールを高いところまで運んだのは染谷のドリブルである。

 黒髪のトップ下起用もそうだ。彼の成長は本人や周囲の人間の想像をはるかに超えていたということ。得点力ならいざ知らず、味方を使いチャンスをつくる能力は米長や法水を上回っていた。



 逆転は可能だった。このゲームでゴリアテを倒すことはできたのだ。それが叶わなかったのは法水好介を試合から外したからだろうか?

 いや、法水がフィールドの中にいるというだけでチームはまた停滞を引き起こしただろう。メンバーの全員が法水を尊敬しすぎている。特に黒髪誠実は、ボールを保持し周囲の味方が無数の選択肢を提示したとしても、法水だけを選んだだろう。

 それでは前半戦の再現になってしまう。黒髪と米長のゴールは生まれなかったはずだ。

 この試合で生徒達が何を感じとるのか、それはまだ分からない。メンバーの大半がまもなくアカデミーを卒業するトップチーム、そして連勝が止まったU-15チーム。

 特に後者からはキャプテンが姿を消してしまう。早く話をつけなければならない。




黒髪誠実



 これは自分のためのゲームだった。

 自分にとってサッカーとはとことん楽しむものだった。ボールに触れて楽しい、上達して楽しい、シュートを決めて楽しい。


 これまで勝負にこだわりを持っていなかった誠実を変えたのは、間違いなく対代表戦とこの日行われた対トップチーム戦だった。

 法水好介の有言実行と米長公義の執念。この二人の姿勢は年下の誠実の精神に多大な影響をあたえた。

 それまで黒髪は自分のサッカーをピッチ上で表現できさえすれば良いと思っていた。

 ふたつの試合を経た誠実はその考えを捨てた。

 どんな試合であろうと漫然と臨んではいけなかったのだ。キャプテンはあの試合の前に述べていたではないか。『ゲームの格など関係がない。すべてのゲームが最上のステージ、対戦相手は最強で長らく待望した愛しの敵だ』と。だからこれからの黒髪は試合というものをこう捉える。今まで『楽しんで』集めてきたこの競技における武器を、相手を倒すために使う『実戦』なのだと。



 ……試合を終えた誠実は自転車で家にもどる。U-14チームは本来まだ帰省している時期だった。

 茶の間で姉に今しがた終えた試合について語る。連続失点、法水のFK、木暮の駄目押しゴール、ハーフタイムの法水の交代、失点からの『時間帯』、そして米長との即興プレイ。

 いつになく口が回ることに気づかれた。姉には話していないことがある。

「何かあったのか? 法水……ハーフタイムに交代されてどうした?」


「法水さんは逃げだした。今もどこにいるか分からない」


 スクールは山のなかにある。生徒は寮に戻らなければ食事ができない。

「そうか……あいつは駄目な奴だ」


「そんなことはない。法水さんは凄い選手だ」


「サッカーがうまいだけじゃ駄目なんだよ」姉はわずかに顔を下げた。「嬉しそうだな。負けたっていうのに」


 謙遜して。「そんなことはない。結局負けだ。それにトップチームはずっと本気でプレイしてたとは思えない」相手は年下なのだから。


「どんな試合にもモチヴェーションはある。木暮さんも手抜きで3点は獲れなかっただろう。そういう人だからプロにだってなれたんだ」そういうと姉は立ち上がり茶の間を出た。「あたしは法水を探しにいくよ」靴を履きもう玄関から出ようとする。

 姉がそう口にする以上、法水は逃れることは叶わないだろう。


「何か伝えておくことはあるか?」とふりかえった怜悧。


「……僕も1点獲ったって」


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