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フェノメノ ~日本サッカー架空戦記~  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
繚乱
55/59

リプレイ

現在中学生3-4高校生

11



 後半26分。黒髪の得点から4分経過。米長の得点直後。


 郷原と熊崎がトップ下の黒髪にもっと高い位置でボールを待つよう腕でしめす。

 FWの米長に並ぶような位置になる。トップチームがもっとも注意する選手がもっとも警戒すべきエリアでボールを持つことになる。

 黒髪とはより頻繁に言葉を交わす。同じプレイメイカー。パスを何本でも交換し合いディフェンスを崩す、その答えは同じだった。

 しかし後半、両名のイメージが完全には一致していない。元々同じチームでプレイしていなかった。

 時間がない。

 次の機会を活かせなければ、郷原が言うところの『時間帯』は終わる。トップチームがゴール前を固めそのまま終わらせてしまうだろう。

 相手選手の一人がディフェンスラインの前で何か喚いている。ここからでは内容が分からない。

「追いかけるな!」と米長が叫ぶ。

 黒髪は走るのを止めふりかえった。

 ボールが左サイドバックから左ウィングへ。染谷と菊池がはさみこもうとする。

「相手に攻めさせろ。奪ってカウンターだ」


 うなずく黒髪。「どうします?」


「ゴールを狙え」


「はい!」


「俺が流れてスペースをつくる。お前が使え」

 おそらく頭の問題だ、そう米長は思う。

 発想でこいつに勝てる選手はこのピッチにはいないだろう。

 敵・味方の配置をリアルタイムで読み取りそこから最適なパスルート・連携を選べる。

 こいつの意図に自分が追いつきさえすればトップチームを崩せる。

 法水がいない以上ペナルティエリア外からのミドルシュート・ロングシュートは厳しい。つまり狙いは。

 シンプルにディフェンスラインの裏だ。

 そこへどちらかあるいは両方が走るしかない。


 今の米長はまるで狡猾な狼だ。得点に対する嗅覚は急速に発達し、FWの不在をまったく感じさせない。

 笛が鳴る。

 自軍エリアのすぐ前でファウル。U-15のボールだ。


 すぐにプレースキック。

 ボランチがドリブルでゲイン。

 カウンターアタックが始まる。

 トップチームはリトリート。

 だがシュートを狙えるエリアまでは走らせない。

 マークが体をいれる直前黒髪にパス。

 黒髪は日比野へ。

 日比野から黒髪。

 黒髪がしかける。しかしマークは外れていない。

 エリア内、覆いかぶさるように3人のDFが。

 その時米長は自分がシュートを撃つシーンを幻視していた。




後半26分。黒髪の得点から4分経過。米長の得点直後。


 U-15チームが3点目を決め、試合を再開しようとするまでの極短い時間、木暮が仲間に訴える。

「ゴール前ではマンマークだ! 怖いのは正面からの攻撃だけだ。コースを限定すればミドルを撃たれてもいい」GKの田島を信じろ。「サイドからいれられても跳ね返せる」体格差がある。「10番は確実なプレイだけを選んでいる。選択肢を消しさえすれば無難なプレイしかできなくなるはずだ。味方に任せるところはまかせていい」ボールを奪いに深追いしないで良い。「8番にはFWの仕事はできない。下がっても喰いつきすぎるな」つくられたスペースに走りこまれると厄介だ。「ボールを失った時は前を向かせるな。ボールの近くに集まっていればプレッシャーもかけやすいはずだ。相手陣内でプレイする。前に残ってる二人は足が速くない。ラインは上げていい。あっちにカウンターはない」

 ゲームが再開しても木暮はまだ口を動かしている。「黒髪は基本パサーだ。一人なら怖い選手じゃない。他をマークしていてもあいつが何をするかよく見ていろ。法水と違って想像以上のプレイはない」

 トップチームがパスを回す。

 木暮がボールをさばき横にいる選手にパスを送る。まだ言葉は続く。

「いいか、リードしているのはこっちだ! 相手に押し上げる気力はない」

 その木暮の前で木之本が発破をかけた。「1点差です! 絶対逆転できます!」

 ボールを追いながら、年上のチームメイトはそのセリフに励まされていた。彼らは木暮のように理論に頼っていない。追いかける側の優位がここにはある。

 とはいえボールを奪わないことには始まらない。

 木暮の意図した通り、ボールホルダーの周りにトップチームの選手が集まっている。ボールが動けばそれに従い構成される多角形が移動した。

 U-15はマンマーク気味に守っている。

 混戦の中一瞬の隙。

 その時ボールを持っていたのはやはり木暮。

 かねてから育てあげた得点本能が作動する。

 作動してしまう。

 ドリブルからのミドルシュートが撃てるコース。つくられた罠。

 つっかけた瞬間死角から木之本が飛び出す。

 木暮が倒れそのままボールを抱える。笛は鳴るがしかしファウルを犯したのは木暮のほうだ。主審を欺く行為。木暮と木之本に接触はなかった。

「マイボール!」ベンチが叫んでいた。

 木之本が木暮からボールを奪いセット(渡してしまった、と木暮)。すぐにキック。

 パスをもらった染谷がインステップでドリブル。

 マークは不在。

 独走を許された。途中出場でまだ体力がある選手。

 カウンター? しかし後方には人数をそろえてある。

 中央に3人のDF、黒髪と米長をマーク。

 右サイドに日比野とトップチームのMF。

 ハーフウェーラインをまたぐ。近いところにいたFWが染谷に追いつく。

 染谷から黒髪に。

 黒髪→日比野。あえて緩いパス(黒髪はDFの間にはいる)。

 ディフェンスを日比野に喰いつかせるためだ。が

 守る3人のうち、3人とも黒髪から眼を離れなかった。

 日比野→黒髪。速いパス。

 トラップ即シュート。それが黒髪の狙い。

 しかしすべての可能性を奪われた。シュートコースは消され襲いかかられる。

 再び反転しDFから離れる。黒髪が逃れ、

 味方にスイッチ。米長が挑む。

 二人のDFが静止する。

 最後の一人が追いすがる。

 シュートの直前そのDFが後退を止め、距離を詰めた。

 米長は左にステップ。

 バランスを崩したところ、真横からスライディングを浴びせられた。


 米長公義は倒れない。


 前かがみになるがボールのすぐ横に左手を置き堪える。

 角度がない。撃ちやすい右に持ちかえることはできない。


 キーパーが近づいてきた……。



 木暮靖彦はその日のうちにゲームをヴィデオで見返している。

……あれは試合終了の4分前、U-15最後のチャンスだった。

 黒髪はゴール前でチャレンジしなかった。リンクマンとしては一流であっても純粋なアタッカーとしてはそうでもない。

 混戦のなかからするすると抜け出すスキルはあってもゴール前で3人を相手に真っ向勝負ができる力はない。

『黒髪は確実なプレイを選ぶ』という直前の読みは当たっていたのだ。だから誠実はボールを失うリスクを恐れゴールから離れる方向にドリブルした。

 しかし米長だ。

 米長なら決して逃げることはない。

 ボール奪取に長けた米長がそこにいるのなら、味方の誠実からボールを奪いとることは予想できた。

 黒髪は反転・加速しボールを自分と米長との間に設置した。

 強奪ではなく転換。

 米長が黒髪からボールを奪っていたら、そのタイムロスをトップチームのDFは見逃さなかった。

 誠実→米長のスイッチが成功したからこそ2人のDFを置き去りにすることができたのだ。

 想像すればこんなところ。全速力で背中を見せ逃げだしたドリブラーが次の瞬間同じスピードで自分を抜きにかかっている(しかも背後の視界を確保して)。

 どんなクイックネスを持つ選手にもできないことをこの2人は即興のコンビネーションで実現してみせた。

 最後に残ったDFの依田がスライディングで止め(かなりギャンブルなプレイだった)、シュートは不十分な体勢のまま実行された。力のないそれはサイドネットに外れた。あとはトップチームが残り少ない時間、試合をフリーズさせるだけ。

 だがそのあとも米長は戦うことを放棄しなかった。



 ……ボールが動いている限り考えるのは試合のことだけだ。余計な思考に溺れることはない。法水のことからも父親のことからも離れていられる。

 もう一度ボールに触れた時だ。何もかもを変えてやろう。すべての人間を驚かせてやる。

 10分あればイケる。まだアディショナルタイム……いやワンプレイでいい。

 もう少しだけ走ろう。

 この場所ではすべての動作に意味を見出せる。

 すべての言葉が記憶に残る。

 米長は前方に右腕を上げ味方を呼ぶ。

「俺に寄こせ!」

 直後、

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