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フェノメノ ~日本サッカー架空戦記~  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
繚乱
53/59

余裕

現在中学生2-4高校生



 後半23分。黒髪の得点から1分経過。

 U-15は八人がかりで攻撃する。両サイドバックが上がりピッチの横幅をフルに使ってボールを回す。

 それでもゴール前に選手はいない。身体能力で劣るこちらは潰されかねない。あえて今は人をいれず、タイミング良くパスを出し外から飛びこませる。その場合、中にはいってくるのはおそらく、

 米長か黒髪、いずれかであろう。

 左のタッチラインから斬りこもうとした柳のドリブルがカットされた。

 よりにもよって木暮靖彦のスライディングに。



 どこで持たせてもこの男は危険だ。汗を体にまとう木之本が今度こそと止めにむかう。

 起き上がった木暮がみずからこぼれ球をとりにいく。いや触れない?

 木之本がとりにいくまであえてタッチせず、ファーストタッチで深く切り返す。思わず足を出した木之本は相手に背中を見せる。

 フリーで前をむかれた。ここからか?

 残ったFWに裏を突かせた。

 30メートルのラストパスが走る。

 前をむいたFWがゴールへ突進。

 右横から宮原が必死に追いかける。

 FWとDFの1対1。ゴールを見たためか、わずかにファーストタッチが大きくなる。

 ペナルティエリアを飛び出していた堤。大胆なスライディングで2人を避けさせた。

 ボールはラインを越え、トップチームのカウンターは止まる。

 それでもスローインから重厚な攻撃が続く。


 今度はこちらがカウンターで仕留めてやる。米長と黒髪が前に残った。

 持ちこたえてくれと両者が祈る。

 木暮はパスを回す味方のやや後方で歩いていた。

 その木暮が大声で指示を出す。「攻撃は急がなくていい。アディショナルタイムのつもりでプレイしろ。不必要にシュートを狙わないでいい」

 木暮を追跡していた木之本は右頬を吊り上げる。なんでこの人はこっちがやってもらいたくないことが分かるんだ?

 ペナルティエリアのみを迂回し、横パスとバックパスが繰り返された。



 獲り返したのは約30秒後。柳がゴールライン上で相手を追いこみ、ボールを出させることに成功した。

 ゴールキックで再開。トップチームはしっかり自陣を固めた。

 カウンターならば攻撃の糸口はつかめたかもしれない。黒髪の繋ぎ、味方の走り、米長のタフネス。

 しかし人数をかけて守られると……。

 これまでの2得点はいずれもセットプレイから決まっている。

 流れの中からどのようにして?

 米長はDFに背中を押されボールをキープできない。柳にパス。

 攻撃を組み立てなおすといえば聞こえが良いが、それでもゴールから離れてプレイすることに変わりはない。

 左サイドで宮原から低いところまで降りてきた黒髪にパス。(左ウィングの柳はドリブルのスペースをつくるため中央に移動)。

 黒髪にキック力はない。単純な突破力もない。ペナルティエリアから離れてボールをもらっても仕方がないことは本人にも分かっているはずだ。

 黒髪のプランは?

 味方には解され、敵に読ませない選択を。

 ドリブルで上がる。タッチラインがすぐ左、進行方向は180度に限定されている。マークするのは木暮ともう一人。

 黒髪は得点前から警戒されていた。試合前郷原が法水と同等の配慮を求めていたのがこの背番号10。

 黒髪、柳、米長。三人が意識を統一する。

①ドリブルでマーカー2人の間を通り抜けるのではない。

②二人の間を黒髪のパスが通る。

(柳が左斜めにゴールから遠ざかる動き、ボランチがつられる)。ボールは半身の柳に。

①柳にシュートを狙わせるのではなく。

②ヒールパスでゴールへ走る黒髪へのリターン。

(「10番!」と敵が声を荒げる)。柳のヒールパスがバウンドしながら黒髪の足元に。

①右足でのシュートではなく。

②気づいた二人のDFが前方に脚を投げ出すのを見ながら、左足で横に流すパス。

 そこに米長。邪魔する者はいない。

 左足でシュートを撃ちながら前に走り始めていた。両手を固く握り、ネットのなかからボールを回収した日比野と共に自陣に向かってチームメイトと引き返す。確かにこちらの『時間帯』。チャンスがゴールに結びついている。

 ……木暮は途中までゴールに至る流れを読んでいた。黒髪がマークを引き連れて走る柳にパス、リターンをもらった黒髪がシュートまでいくであろうとは思っていた。

 だが黒髪はシュートを撃たず、より確実な米長を選んだ。その余裕が彼にはあったのだ。あの高さのバウンドしたボール完璧なコントロール。

 しかもドリブルフェイクをいれより自分にDFを喰いつかせた。

 この大事な場面でやってみせたということは、彼にとってあれは確率の高いプレイだった。

 これで4対3。もう1点もやれない。なりふり構わないでリードを守る時だ。



 誠実はハーフウェーラインのすぐ前に立ち相手のキックオフを待つ。彼はもうピッチの中に兄の姿を探していない。見つけようとしているのは前半までチームのキャプテンを務めていたあの少年だ。


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