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フェノメノ ~日本サッカー架空戦記~  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
繚乱
52/59

ナショナルトレセン



 ピッチの周辺に人が集まっている。


 緑の芝。白いフレームのゴールとベンチ。周囲にはネットと管理の行き届いた幹の細い木々。

 静岡から遠く離れた位置にある巨大なスポーツセンター。

 そこに全国のサッカー少年たちが訪れている。コーチ、ライター、カメラマン、施設職員等大人も大勢。なんだお祭りでもしてるのか、と法水が冗談。


 FFA勢の三人、法水宮原米長のうち法水と米長は関東選抜のトレーニングウェアを身にまとい地域対抗戦の第一戦を間近で見学していた。背後には郷原。午後から試合がある他の選抜チームも各々固まり試合を観戦中だ。

 法水は難しい顔をして腕を胸の前で組んでいる。「ふん、見る限りどうやら俺達の脅威になるような選手はいないようだ」


 後方の米長は冷めた顔で。「つうか当たるとしても準決勝だから対戦するかはわからないだろ」


「だがあの選手はちょっと気にかかる。あとでリサーチしておこう」


「リサーチせんでいい」


「東海選抜対北信越カリブ海だったか」


「北中米カリブ海みたいに言うなよ」


「あれだよね、ジャンプみたくトーナメントを勝ち上がるごとにどんどん強い奴が現れるんでしょ?」


「そうなんだろうよ!」


 郷原がなだめるように。「一々ツッコんでたらストレス溜まるだろ」


 法水はフィールドの周りに視線を送り。「この中にも同じこと考えてる奴絶対いるよ。みんな大マジよ。だって舞台がぶたいだしぃ」

 選抜チームの選手達がピッチ内に送る視線は真剣そのものだった。盗めるものはぬすみ、戦うことがあるのなら憶えておくこともあるだろう。

「試合でいいとこ見せられればここにいるお偉方に名前を憶えてもらえる。将来クラブに召し抱えてもらえるチャンスも増える」


「『召し抱え』とか武士かよ」と米長。


「少なくともサッカーで飯を食える技量があるかないかはここで判断できる。ここにいるだけでてえした才能があるってことは分かるが、それでも将来サッカーを続けているかなんて誰にも分からない。だけえこうやって練習じゃなしに実戦しているんでないの」


「出たいのか?」


「はん。俺が出たらゲームにならないから仕方ない」


「言ってろよ」


 ……法水が隣で立っている少年に気づいた。倉木一次だ。関西選抜のチームメイトと並んで試合を観ている。

「露払いにしてはなかなかのゲームじゃない?」と法水。


「ん、そう? 観てなかった」と倉木。

 ちゃんと観てなさいよ、と隣の大柄なチームメイトが苦言を呈する。

 ファウルボールが飛んでくるもんな、と倉木。野球じゃねえ! と同じ人が。


「あっちのほうは」北信越選抜は。「ゲームを組み立てられる選手をそろえてるね。ボールを持ってつまらないミスはしない。ワントップは高さとキープ力が売りみたい。トップ下はパサーだ。飛びぬけて速い奴がいない。ボールはつなげても崩しきるのは難しいかな。ポゼッションのためのポゼッションになるかもだけどそれでも失点のリスクは減らせる」


「急に解説しだすからな」と米長。


「あっちは」東海選抜は。「8人でブロックつくってしっかり守ってる。宮原先発だねぇ。今のところ可もなく不可もなく。中盤の守備意識が高いのは相手ボールの時カヴァリングできる選手を監督が使ってるってことだ。この年代だとアタッカーはディフェンスサボりがちだからね。かなり固いサッカーだ。問題は2トップだけどまだボールに触れてないからどんな選手かは分からない。でも2人ともちっさいからハイボールは苦手だらあ。そこまでうまくボールを運ばないとね」


「超真面目じゃねぇか」


「そこのおかっぱの人はどう思う?」


 倉木のことだ。「もっとガーッと攻めたらいいのに」

 東海選抜の選手がタッチライン際でパスをカットした。

「もっと選手が開いてれば良かったんだよ。いいパスだせるセンターバックいるんだから」

 倉木は身振り手振りつきで話そうとする。「もっとボールをギャンッて動かしたほうがいい。そうしたら相手がついてくるからそこで他の選手がギュッと走ってさ。もっとこうバーッと、スーッと」


 チームメイトが。「わざわざ面白いこと言わないでいいから」


 倉木が不快そうに眉の端を上げる。

「いずれにせよ点のはいらないゲームになりそうだ」そう法水は結論づけた。「そうだ、ヨネ」


「なんだよ」


「プロフェッショナルの意見が聞きたいな」


「誰がプロフェッショナルだ……中盤がもっと前からボールを奪いにいって主導権獲りにいくべきだ。そうしなきゃ何十分経ったって試合は動かない。声が出ていない、相手を脅かしてない。チームとして寄せ集め以上になれていないよ」


「僕らのように優勝を狙えるチームではないということだね」


「……なんか喧嘩売ってるッぽく聞こえないか?」と米長。


「まさ、僕ら以外のチームがチームの体をなしてるなんて期待してないからね」

 倉木以下の面々が法水と米長を睨む。

「米長なんて全試合ハット狙うって言ってるし」


「言ってねえよ」


 米長を手で示して。「関西の奴らがイキってるから気合をいれてやるっておっしゃってました」


「ほんとに何言ってんだよ……」


「まあ僕なんかはベンチを尻で磨くだけで終わっちゃう立場なんですけどね」


「お前のほうが出れてるだろうがよ!」


 法水は後頭部をかきながら。「こんな挑発しておいて対戦できなかったらどうしましょう」

 対戦できなかった。


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