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フェノメノ ~日本サッカー架空戦記~  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
繚乱
51/59

交錯

現在中学生1-4高校生



 このピッチ内に兄以上の選手はいない。

 兄はより勤勉で、より良く、より速く、より強かった。

 それなら焦る必要はない。落ち着こう。

 ポディションは一番自分が活きるトップ下。ここでゴールを狙う。


 もしこのチームに兄がいれば。そう考えてしまった。

 きっと相手に大量のリードを許してしまうような今のような展開は許さなかったはず。


 ……本当は誠実にも分かっているのだ。

 自分の兄に自分やチームメイトらほどの才能がないことを。

 黒髪名義もアカデミーのテストを受けているが、最初のテストすらパスできなかった。高校サッカーの強豪チームでプレイし海外留学が認められるほどの実力があったとしても、今後自分や姉と同じステージに立つことはきっとなかっただろう。

 それでも自分にとってのアイドルであることには変わりない。


 後半21分。トップチームの追加点から1分後。

 U-15チームが前へ出る。

 ディフェンスブロックの外でボールを回す時間はない。

 下がった米長が怒りをこめたようなミドルシュート。際どいコースへ飛んだ。トップチームのGKはキャッチせずセーフティに外へ弾く。コーナーだ。


 米長は時間を気にする。ここでなんとかしなければ。

 ハーフタイムに郷原が口にしていた。

「相手をビビらせたいなら曖昧なゴールじゃだめだ。微妙な判定のPKとか、あからさまなミスからの得点よりも、流れのなかからのちゃんとしたゴールのほうが相手の心を折ることになるよ」

 この際そんな贅沢はいってられない。

 このセットプレイでやるしかない。

 コーナーエリアに駆けそうになった米長だが、そう、今はあわせるハイタワーがいない。法水がこのピッチにはいない。180センチの木之本はファーにおくとして。

 トップチームの監督が「全員で守れ」と叫ぶ。ここをやりすごせば中学生たちの気力は完全に折れる。

 ゴールポストに木暮靖彦は左手で触れた。誰かをマークするのではなくGKのサポート、シュートが飛んでくればゴールライン手前でボールをかき出すことになる。

 いつものキッカーである米長ではなく右サイドバックの菊池がボールの前に立つ。右足ではいってくるボールを蹴ってくる。田島が「米長チェック!」と叫ぶ。

 シンプルにゴール前に。(木之本はファーサイドへ逃げている)。

 ニアサイド、身長のない米長にボールが。

 米長はコーナーにむかい走っていた。頭で角度を変える。ボールがニアにいる選手をすり抜け木暮にむかってきた。

(木暮の正面に選手が)、黒髪だ。

 ボールまでのディスタンスは同じ。黒髪は小さくジャンプしている。

 ボールは木暮の胸の高さで飛ぶ。

 あとは振りの速さ。木暮の右足と黒髪の左足。

 二本の足が飛び交う。木暮の右足にボールの感触は残らなかった。

 黒髪はゼロ距離のシュートを決めた直後、なんの感動も見せずボールを抱え移動する。郷原の託したプランを完遂するつもりだった。イレヴンの誰よりも本気だったのはこの少年だ。

 米長が大きく口を開き手を叩く。鼓舞しながら自陣に引き返す。


 4対2。トップチームはおそらく5分もせずに立て直してくるだろうと郷原は読んでいた。ハーフタイムに長めの時間を申告したのは年少のチームの気力を萎えさせたくなかったからだ。

 それでも、リスクを侵し戦い続けることができれば、しばらく彼らの時間になる。


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