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フェノメノ ~日本サッカー架空戦記~  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
繚乱
48/59

チョイス

現在中学生1-3高校生

5(承前)



 さきほどのシュートで気を良くしたのか、柳は色気を出し始めた。

 ハーフウェーライン近辺でボールを奪うとゴールに向かいドリブルを敢行する。

 DFは追いすがるので精一杯。(その柳を米長と黒髪が並走する)。

 そのまま柳が今度はファーを狙ったシュート。いやパスか?

 ボールは黒髪の足元に。スルー?

 いやボールに触れてシュートの軌道を変え

 るのではない、ボールを追いこし右踵で落とした。追いかけてきた木之本が叩く。

 ボランチの斜め後方からのスライディングは遅かった。砲撃のようなシュートはクロスバーの上部に当たり、ゴールのフレームをきしませる。ボールは外へ。


 木之本は頭を下げ、米長は手を叩きシュートに至ったプレイを褒めた。そして黒髪は黙って相手のゴールキックにそなえポディションを下げる。



 木暮靖彦は内心頭を傾げていた。

 このシーン、黒髪にはゴールに直結するみっつの選択肢が保障されていた。


①柳のシュートをスルーし米長に任せる。


②柳のシュートの威力を利用しGKの逆をつくプッシュ。


③低いボールをヒールでコントロールし木之本にミドルシュートを撃たせる。


 実際には③が採用されたわけだ。黒髪はボールがくる瞬間まで悩むことができた。①はDFにカットされ、②はDFにシュートコースが塞がれている。それが分かったから最適解たる(そしてもっとも難しい)③を選んだ……のか?

 深読みのしすぎかもしれない。たまたま攻撃がうまくいっただけで。


 シュートを外した木之本には分かる。

 黒髪がゴール前でみせたプレイは彼にとって特別なものではない。練習や試合でよくみせる、彼のサッカーにおける知性を十分に発揮させたプレイ。

 黒髪の最良はアタッキングサードでチャンスをむかえた時、かつ複数の敵と複数の味方が近い距離にいる時発揮される。

 彼ほどの選手ならばボールを足であつかっていると捉えてはいけない。彼のプレイスタイルはバスケットボールのポイントガードに近い。

 まずドリブルでボールを失わない。幼少時より両足でボールをあつかっていたため、並のプレイヤーより選択肢が2倍あるといってもよい。

 そして視野が広い。敵と味方の位置を完璧に把握できる。

 彼の特長は最後の瞬間までプレイを変更することができること。

 シュートからパスへ。ロングパスからショートパスへ。パスからドリブルへ。

 木暮の懸念はあたっていたのだ。

 黒髪誠実をたった一人の選手として鑑定すれば、その評価は一流にとどまっただろう。

 だが誠実の周りに彼をサポートする選手をそろえることができれば、彼は一流をさらに超えた選手になれる。さして足が速くもなく頑丈でもないこの少年が輝くためには、頼れるチームメイトが必要だった。

 そして相手ゴールに近くで起用すべきだ。ボランチも悪くはないがトップ下が最良。その位置ならばプレイヤーに最多の選択肢が与えられる。パスもドリブルもシュートも。

 ピッチ上に誠実を中心に無数の角度、長さ、タイミングでラインが形成される。



 木暮は言い聞かせる。

 シュートを撃つ以外のシーンで目立つことは許されない。

 センターバックからパスを受け、さらにその選手を遠い位置に走らせる。

 そこからまたバックパス。低めにポディションをとる。

 左サイドのFWにパス。ドリブルでしかけるも無理はしない。中盤に下げる。

(パスが回る間、木暮は少しずつゴールへ近づいていく)。中央を経由して右サイドのFWへ。

 FWはキープを狙うも潰されボールは外へ。トップチームのスローインとなる。

 再開が速い。走ってスローインを受けたサイドバックが駆け上がる。U-15チームは誰も追いつけずサイドをえぐられる。

 高さで上回るFWにあわせてもよい。だが本命はいつだってチームのエースだ。上がってきた木暮はシュートを撃つべく、足元を両手でしめした。

 木之本が背後にいる。前半よりもずっとタイトなマーク。これでは味方の位置が確認できない。

 ボールが要求どおりきた。

 木暮は決定力だけの選手ではない。

 ボールを奪いにきた木之本を(判断ミスだ)アウトサイドのワントラップで置き去りに。

 インステップでゴールを狙わんとするも黒髪に奪われた。味方の声が聞こえなかった。



 いつの間にここまで。

 ここで守りに参加するとは。

 郷原が大きな手振りで黒髪を褒めている。恥ずかしいのか黒髪はベンチから顔をそむけた。

 攻撃に専念するためのトップ下への転向だと思っていたが……それだけの選手ではないということだ。勝利のために戦っている。

 感情が顔に現れないため分からなかったが、黒髪誠実なるこの少年、胸の内に色濃い情熱を秘めている。


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