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フェノメノ ~日本サッカー架空戦記~  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
繚乱
47/59

不在

現在中学生1-3高校生



 今年最初のゲームということもある。

 チームメイトには攻め疲れの傾向があった。後半最初のチャンスをつかんでいるのはU-15だ。

 木暮はこの試合で一番低い位置でプレイしている。自陣左サイド奥。

 右ウィングの日比野が米長との絡みからゴール前に上げようとする。

 マークしていた木暮は右足をあわせた。ボールは脛の裏にあたり転がる。

 ボールは再び日比野の元へ。

 前半の彼らならまたゴール前にいれてくるはずだ。それが手堅いサッカーだから。

 しかし日比野はハイリスクなプレイを選ぶ。

 ハイリターンが、つまりゴールが欲しいから。

 サイドチェンジ。十時の方向へのロングパス。

 これが左ウィング柳の足元に。その左横をサイドバックの武井が走り抜けた。

 同時に柳はボールを左足で強くキック。ゴール前に走る米長と黒髪にはあわせない。

 その二人を念頭においていたGKの意表をつく、ニアサイドへのシュート。

 これが枠内におさまるも、キーパー田島の右手が間にあった。パンチングで外へ。



 柳が歯を見せて悔しがる。

「いい判断だ柳」と立ち上がった監督が褒めた。郷原はベンチに座りにやついている。

 ……本来のサッカーを始めたようだ、と木暮は分析する。自分の頭を使っている。

 日比野のサイドチェンジは失敗すればチームメイトから叱責を受けかねない。

 柳のあそこからシュートという選択は教科書的ではない。

 おそらく、このプレイは一過性のものではない。ハーフタイム中むこうのベンチにいた郷原の言葉に刺激されたのだろう。

 そして法水がいなくなったことがチームに好影響をあたえている。

 攻撃の要であったエースがいなくなったことで、各人はより大きなタスクを引き受けることになる。

 その高い負荷がかえって選手の潜在能力を引き出している。法水の穴を埋めるため数カ月分の成長を促されたのではないか?

 黒髪がチャレンジすべきところでチャレンジする。中央での意表をついてドリブル突破。

 2人をかわしラストパスを出そうとしたが木暮が戻っている。ボールを奪う。



 ゴールから離れたところでリスクを冒したりしない。ここは右サイドの味方を走らせるパス。左サイドバックの武井は背走し相手のドリブルを止めさせた。

 U-15チームの攻撃を遅らせる守備。それも計算のうちだ。

 中央でサイドバックがドリブル。(木暮はペナルティエリア内へ。シュートが狙える)。

 サイドバックから浮き球のパスがFWへ。ヘディングの落としを木暮が。

 トラップの瞬間を木之本が狙っていた。木暮はボールを体の後ろに隠す。

 バックステップ。遅攻のため(互いに人数がそろっているため)シュートコースは限定されていた。それでも撃てる。

 キーパーからはシュートを撃つ木暮が見えない。味方のDFと敵のFWがブラインドになっている。

 木暮は右足で極小さい的を撃ち抜く。避けるFW。その先には堤が。

 キーパー真正面に撃つしかなかった。それでも。

 蹴った木暮を堤は見ていない。アウトサイドキックのシュート。

 キーパーの眼の前で曲がる。が、堤の右手がシュートを殺した。

 いい動きだな、と木暮。

 真横に弾かれたボールに撃った木暮自身が反応する。追って牧野が。辛うじてクリア。

 前半のうちに3点を奪ったからといって飽食したりはしない。

 チームメイトはエースに成り上がった俺を信頼している。だからチャンスでは俺を探してくれる。それに応じなければ。


 これでシュートが1本ずつ。後半にはいっての緊張は解けた。

 打ち合うつもりだろうか? 3点の差がつけば相手の集中力は切れる。あと1点を奪えばゲームオーバーだ。

 相手が並だったら。

 並なはずがない。同年代の代表をも倒したチームだ。

 木暮は黒髪誠実の姿を探す。サイドバックの前にいた。米長に次いで相手ゴールに近いところでカウンターに備えている。

 自分と同じように身長が低い選手。体を張る場面のあるボランチより前で使ったほうが効果的だとは思っていたが、まさか米長を押しのけて(おそらくだが)トップ下とは……。

 ここにいる選手ほとんどが知らないだろう。黒髪誠実が普段同じチームでプレイする同級生からどのように称されているのか。

 そして思うにトップ下の選手にこれ以上の形容はない。『ファンタジスタ』以上の敬称は。


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