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フェノメノ ~日本サッカー架空戦記~  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
繚乱
46/59

挑発

次回試合再開です

4(承前)



 前半戦トップチームのベンチにいた郷原が、ハーフタイムになってようやく年少のチームのベンチにやってくる。

 法水を追いかけ説得するのは諦めたようだ。


 出場していた面々は一様に顔を下げていた。

 トップチームが強敵であることは試合前から分かっていた。昨年度高円宮杯本戦に出場したチーム。それに木暮靖彦のことも分かっていたのだ。

 これ以上試合を続けて何が得られるというのだ? 

 しかもチームのキャプテンが交代を宣告されフィールドから逃げだしてしまったのだ。これまで散々メンバーを煽りたてていたあのアジテーターが。

 法水なしに後半を戦う意味は何もない。郷原は試合の中止を伝えにきたに違いない。


 木之本はうかがうように、少しずつ顔の角度を上げた。

 郷原は一人の選手の表情を観察していた。あいつか? あいつ次第でまだ勝負が挑めるのか?

 郷原は法水の出奔に大したショックを受けていないようだった。まるでこうなることを予測していたかのように。

 木之本に学年がひとつ上の法水のことは分からない。あの有無を言わせぬリーダーシップが何に由来するものなのか?

 このチームが屋台骨を失ったことは分かる。郷原は何を考えて彼に交代を告げたのだ。

 他の誰かなら納得できる。しかし法水がいなくなっては……。相手がもっともいなくなって欲しかったのはあの背番号11のはず。

 前半戦、チャンスをつくりだしたのは法水の個人技だった。彼一人だけがトップチームに加わってもおかしくないプレイをみせていた。

 他の十人はシュートを撃つ法水を見守っているだけだった。走りもせず、考えもせず、失点を怖がりゴールを守っているだけだった。

 そんなことはここにいる先輩方も承知していただろう。前半戦我々は最前を尽くしていたとはいえない。これまで数カ月できたことがこの試合ではできていない。


 ハーフタイムにはいって5分経過している。出場している選手たちのテンションも少しは落ち着いてきた。

 郷原は邪悪な笑みを浮かべている。こんな郷原にはこれまで一度も出逢ったことがない。好戦的だ。最悪なこの流れを変える言葉を、おそらくこの人は持っている。



「クマさん仕事を奪って悪い。みんなには伝えてなかったが、トップの奴らには言っておいた。『体格差があるから接触プレイはなるべく避けてくれ』って。まぁ、法水の受けたファウルは例外だったけれどな。みっつも年上のチームと戦うんだから本気でやればお前ら怪我しちゃうからそれは避けたかった。それにお前らは中学生。モチヴェーションも決して高くはなかった」


「……で、だ。そんなハンディもらっておいてあんな体たらくだったわけだ。失点するたび下を向いただろ? プレッシャーで何度つまらないミスをしたか、普段は追いかけていたボールを諦めたか。一番警戒していた木暮に前半だけでハットトリックだ。代表戦以上にシュートを撃たれマイボールになっても何もできない」


「法水が冗談みたいなFKを決めてその後も一人でサッカーをした。その法水もいなくなった。俺がそうさせたんだ。……最悪に近いハーフタイムを迎えたわけだ」


「ここから逆転してみせたら凄いと思わないか? このゲームは決して『負けイヴェント』なんかじゃないんだ。俺は高校サッカーが出身だ、お前らが生まれる前公立の高校で部を立ち上げて全国で勝てるチームにした。対戦相手が格上だろうと大量リードを奪われようと上等さ。こんな程度逆境のうちにはいらない。」


「……いろんな意味で自作自演クサいけどこれから逆転劇を演出してやろう。サッカーは点のはいらないスポーツだ。一点ずつ地道に重ねるしかない。したがって……後半は『時間帯』をつくる必要がある。前半お前達が陥ったように失点によるショックで次の失点を容易にするんだ。相手は年下相手に人数をかけて守るなんて選択肢をとらない」


「『時間帯』は長くて10分といったところだろう。それ以上長くなれば魔法は解ける。その時間で2点はいれば同点、3点はいれば逆転だ」


「選手を交代する。『逃げた』法水に代わって染谷。ボランチにはいってもらう。フォーメーションはそのまま4-2-3-1でいい。黒髪はトップ下にあがり米長はトップをやってもらおう。どうした米長? 『あの人』と同じポディションがそんなに嫌か? ベンチに座ってもらってもいいんだぞ(笑)」


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