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フェノメノ ~日本サッカー架空戦記~  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
繚乱
42/59

爪先

現在中学生1-2高校生

3(承前)




     *


 法水のサッカーにおける最大の長所はその駿足だ。

 ギフテッドといってもよいレヴェル。

 トレーニングすれば誰しもその速さを手に入れられるわけではない。才能に応じ上限がある。

 法水にはとんでもない才能があった。そしてこの選手はその力をうまくゲームで表現することができる頭の良さがある。

 そして人物。わがままで強権的だ。


     *


 100回に1回のプレイが最初に出やがった、と郷原。

 ゴールが決まるのを見届けたあと、法水は胸に親指を突きつけた。

 宮原が急いでボールを拾い上げ、苛立ったまま試合を再開させようとする。

 後ろをついていく木之本が何か言いたそうに宮原をみる。面妖だ。ゴールまでの流れもそうだったし、またゴールのあとのこの雰囲気もおかしい。

 まだ勝負ができるのか? それともこの一時だけの挽回なのか?

 ともかくトップ相手に通じるのは法水好介ただ1人だ。そんなことは試合前から分かっていたのに、そのことをまた認識させる強引で強烈なシュートだった。

 しかし流れを変えるにはいたらない。誰も法水好介にはなれないからだ。U-15チームに彼ほど完成された選手は他にいない。

 彼はあまりにも異分子で彼の背中を追える選手は誰一人といない。



 トップチームは再開後もボールを回し続けた。内容はともかく年下のチームに最少得点差にされたことに変わりはない。

 すべての角度から攻撃を加えるトップチームだがU-15も人数をかけた守りで対抗する。何度となくシュートを浴びせられるが体を張ったブロックが3点目を防ぐ。

 それでも集中力の消耗は避けがたい。時間が経てばたつほど有利になるのは年長のチームだ。


 今日はサッカーが苦しい。木之本は思う。このゲームに限ってあの人がチームを鼓舞してくれないのだ。あの人の言葉はいつだってみんなを支えてくれたのに。それなのにいまは自分の戦いに夢中なだけで、頼りない味方など視界にないのではないか?

 逡巡している。

 法水は前線に張りつき相手DFの様子をうかがっていた。得点したことでなおプレッシャーはきつくなるだろう。ピッチ上のどこへ動いても視線がまとわりつく。

 バックパスをしたあと、木暮が法水をみた。1点差になったというのに余裕がある。

 トップのキャプテンは信頼されている。彼の実力はチーム内でナンバーワンではあるが、比較し得る選手は何人も存在する。こちらには法水しか対抗し得る選手はいない。

 誰も言葉にすることはないがそれが共通認識だ。ゴール前のキャプテンにパスを出すことしかプランがない。



 前半戦の数少ないチャンス。

 法水が右サイドに流れている。それだけでトップチームのディフェンスに偏りが生じた。

 それだけ他の選手が戦力とみなされていないのだ。こちらはもう攻める手立てを失っている。トップチームの逆襲が怖くなり前へ走ることができない。

 ボランチの木之下は攻め上がるどころか直前までディフェンスラインに吸収されていた。

 トラップにもたついた米長は前をむけない。奪われかけるが斜め後方の黒髪がフォローしヴァイタルでパスを受ける。

 前を走る日比野へDFの股を抜くパス。

(ボールをもっていない法水がその最速でカットイン)。マークを振り払い中央へ。

 日比野がダイレクトで法水へラストパス。

 しかし崩しのイメージが噛み合わない。法水は足元にくる最速のパスを待っていた。日比野はGK前のスペースに出している。

 法水は最上級生のDFの腕をかいくぐった。

 まだゴールまで距離がある。体のどこかに当たればゴールインという位置ではない。

 キーパーはゴールキックになると予想している。ラストパスはセンターフォワードの射程距離を出ようとしていた。

 法水にボールは支配できない。

 はずだった。

 爪先。

(弾丸と化したようなスライディング)、左足のトゥーキックで強いシュートを放つ。

 しかしGKが胸の前で一度ファンブルしてから捕まえた。同時に副審の笛。黒髪からのパスをうけた時、日比野の位置がディフェンスラインを越えておりオフサイドだった。

 法水は胸の前で手を叩き吠えた。「次は決める! 俺に寄こせ!」

 俺はあいつになれない、そう米長は思った。


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