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フェノメノ ~日本サッカー架空戦記~  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
繚乱
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再びインタヴュー



――どうしてトップチームと十五歳以下のチームが試合をすることに?


木之本「法水さんのチームが強すぎたんです。東京シティジュニアユースだけじゃない。代表との試合に勝ったあとの2ケ月間勝ち続けた。それも圧勝ばかりですよ。クラブユースや強豪校だけを相手にしていたのに。郷原さんや監督の熊崎さんは負けて欲しかったでしょう。学生のうちは敗戦がなにより成長の糧になる」


――でも負けなかった。


木之本「郷原さんがいつ決めていたかはわかりません。案外もっと早い段階から対戦することは決めていたのかも。なにせ代表チームに勝ったんですから同年代にもう敵はいない。つくるとしたら年上のチームしかない。それならまずは身内とやらせようとした」


――高校生のトップチームと。


木之本「プロ入りを決めた木暮さんを中心としたチームです。同じ環境で練習しているんです。中学生のチームの上位互換といってもいい」


――法水の様子はどうだった?


木之本「キャプテンはキャプテンのままです。言葉巧みにこれは勝てる試合だと伝えていた。信じるチームメイトだっていたでしょう。でも……平均で3年近い年齢差はまず埋まるものではない。どれだけ判断を早くしてもミスをなくすようにしても接触プレイはさけられない。足の速さが違う。普段抜ける相手が抜けないんですから。大袈裟ですけど巨人を相手にしているようなものです。代表戦よりはるかに顕著に『強者対弱者』でした。もしこちらが勝てばジャイアントキリングだったわけです。実際そういう試合になってしまった。法水さんは何を思って受けたのか……。負けていいと思って試合に臨んだのか」


――法水に限ってそれはないと思いますよ。


木之本「そうなんでしょうね。法水さんならきっとそう考えて……ともかく代表戦とはまるで違う試合展開になった」


――米長はどんな様子でした?


木之本「米長さんはともかく走ってました。試合中だろうと練習中だろうといつも。あの人こそがFFAのサッカーを体現していると思います。走ることを前提としたサッカー、攻撃でも守備でも味方を助けるサッカーです。頭が良くて、要求が自分にも他人にも高かった。そして常勝し続けるチームにいながら勝ちに餓えていた。チームには法水さんがいて彼がいなければ勝てなかった試合は数知れなかったですから」


――郷原はその試合をとおしてどういうことを生徒たちに伝えたかったのか。


木之本「それはもちろん、負けることを通して本来のサッカーを伝えたかったんですよ」


――本来のサッカーとは?


木之本「出場している11人全員のためのサッカー。でも法水さんが試合に出ている以上試合は法水さんのものになってしまう。代表戦こそ1点止まりでしたが、それ以外の法水さんの存在感といったらそれは……まるで漫画から出てきたような選手なんです。わかるでしょう? 知らない人にはとても言葉では伝えきれない。誰の参考にもならないようなプレイを見せるんです。誰も想像しなかったようなサッカーだった。その一端はトップチーム戦でも見れました。でもあの試合は法水さんのものではなかった」


――郷原さんの思うままになった。


木之本「それまではみんな暗黙のうちに法水さん頼りのサッカーをしていた。そうならざるを得なかった。でも法水さんがチームを離れる以上、その不在を予習する必要があった。本人がいるうちにそれをわからせたかった」


――法水には何を教えたかったんだろう。


木之本「勝利がすべてではないことです。郷原さんが教えようとしたサッカーは『現実』と『理想』のベストミックスなんです。『現実』とは眼の前の勝利、『理想』とは手に入らないものですがつまり……」


――最高のサッカー。


木之本「法水さんは勝利至上主義者。郷原さんは理想を追求する人だった。絶対負けたくない人と将来のためなら何度でも負けていいと考える人です。きっと会ったときからウマがあわなかったでしょう。それでも法水さんには才能があって郷原さんにはそれを伸ばすことができた。もちろん僕が勝手に想像していることです。(笑って)想像は勝手にしかできないか」


――試合は1月の上旬に行われたんだったね。法水がチームを去る前、高校3年の子はもうすぐチームを卒業する時期だった。


木之本「スケジュール表に書かれていない試合なんです。あとで聞きましたが自由参加だった。メンバーが足りなかったらコーチやこちらの(U-15)の面子がはいる予定だったと。でもトップチームは全員参加しています。木暮さんを中心に仲が良かったんですね。それに比べてこちらは……なんていうか」


――まとまってなかった?


木之本「そうじゃなくて、米長さんが一人だけ孤立していたんです。ある意味でです。自分から進んでそうなっているみたいで。あの時はどんな事情があったかなんてわからなかった」


――同じことを宮原さんからも聞きましたよ。


木之本「宮原さんもですか。あの人怖いですよね。(棒読みで)今のはオフレコにしてください。(躊躇してから)すごいメンバーがそろっていたでしょう。法水さんがいて米長さんがいて、宮原さん、それに誠実も特別に参加する」


――木之本さんも十分素晴らしい選手ですよ。


木之本「ありがとうございます。そう言ってもらえるだけでもうれしいですよ。高三の木暮さんは入団が内定した鹿島の合宿に参加する直前でFFA最後の試合だったんです。活躍のほどはご存じでしょう」


――女子部にもいい選手がいた。


木之本「誠実のお姉さんの怜悧さんはもうトップリーグの練習に参加するほど飛び抜けていました。FFAのなかでは法水さんと同じくらい存在感があった。怜悧さんだけじゃなくて女子部にはあと2人代表入りする選手がいたんです。そして2年後の17歳以下のワールドカップを制していますからね。本当にすごい時代だった」


――才能がある人に囲まれていたんですね。木之本さんもいい刺激を受けたでしょう?


木之本「そのはずなんですけれど、そういうことが日常にあってしまったらどうしても慣れきってしまうんです。なんだってそうでしょうけれど、調子がいい時は『まだ上がある』と思ってしまうものなんです。僕はこの先もっと楽しい生活がまっていると思っていた。でもそうじゃない」


――木之本さんにとってトップチーム戦はなんだったんですか?


木之本「人生を変えた試合でした。もっとも法水さん曰く『人間は毎日人生を変えている』んですけれどね。特別な体験なんてない。今の自分に一番影響を与えているのは『今』だ、くらいの意味だと思ってます」


――なるほど。


木之本「トップチーム戦は……素晴らしい試合だった。何年も経って思い返しているからそう感じるんでしょう。試合中は苦痛でしかなかった。早く終わって欲しかったんですよ。ベンチに下げて欲しかった。そんなことを考えてしまうくらい弱い人間だった」


――びっくりしました。今の木之本さんからはイメージしにくいですね。


木之本「(手をむけて)三輪カズヤさんですよね?」


――三輪和也(なごや)です。みんな間違えるので気にせずに。


木之本「大変申し訳ありません。三輪さんもサッカーしていたならきっとわかると思います。ゲーム中のたった一度の。それに、僕だって勝ちに餓えていたんです。一番になりたかった」


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