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フェノメノ ~日本サッカー架空戦記~  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
傾世
3/59

ここから試合

週に三、四回の投稿を予定しています。

オチ(らしきもの)がついたところで区切って投稿しますので極端に長かったり短かったり。

キャラクターの紹介は試合のなかでやっていきます。

 注・試合中は常に攻撃している(ボールをキープしている)側のチームのゴールから見て左右・前後などの方向をしめす言葉を使用しています。




 1



 FFAU-15対U-15日本代表の試合は十一月下旬某日、午後一時に開始された。



 アカデミーのフォーメーションはボランチが二枚、二列目が三枚の4-5-1。

 1トップは法水好介。トップ下は米長公義。二年生の木之本と黒髪はボランチだ。


 代表のフォーメーションは4-3-3。

 センターフォワードが倉木一次。逆三角形をなす中盤の底に佐伯。鬼島は右サイドバック、キャプテンの大槌はセンターバックだ。

 もちろん選手は動き回るのでこの数字にあまり意味はない。



 アカデミーの11番と8番がセンターサークルに。



 ボールに触れゲームが始まる。

 選手たちが一斉に相手陣内へ侵入した。

 ボールはさがりボランチからセンターバックに。

 そこから前へむかう。長弓で射られた矢のようなパスがピッチを斜めに裂き、左のタッチライン手前で待つ味方へ渡るかと思われたが、代表の右サイドバックがその眼の前で一躍しボールを奪う。



 アカデミーのトップ下がその前をふさぐ。代表のサイドバックは味方の声を聞きバックパス。

 代表チームの自陣深く、センターバックはボールをうけた直後アカデミーのセンターフォワードに襲われた。手を焼かされる。ミスはできない。しかし彼はあくまでボールをつなごうとする。腕で相手を寄せつけずゴールを横切るパスで一人のセンターバックに渡すことに成功した。

 センターバックはセンターサークル手前までドリブル。そこからFWにグラウンダーのスルーパスを送るもアカデミーのサイドバックがボールをかっさらい、



 そのままピッチ中央へドリブル。敵が食いつくのを見てセンターサークル内でまつアカデミーのボランチにパス。

 前にいるトップ下の選手が首をふり味方と敵の位置を頭に入力する。ボランチはそのトップ下へ。

 トップ下は活路がないとボランチへリターン。

 ボランチは大きなフォームでトップ下の頭を越すパスをだした。

 ウィングが難しいコントロールを成功させた。ドリブルを開始した二列目の選手はペナルティエリア前を右に横断する。狙いはボールホルダーとほぼ平行に右サイドから中央に走りこむ味方だ。だがラストパスを出す寸前代表のセンターバックが突出しスライディング。



 足にあたったボールはそのまま味方へのパスとなる。狙っていたはずだ。

 前をむいたボランチは自分とゴールの直線上で待つFWに足元へパスをだした。

 似たような展開。DFがそろった状況でアタッカーがしかける。だがアカデミーの選手より代表のFWはステップが小さい。疾駆する小動物を想起させる。狙いはゴール。ボランチが正対。シザース。左とみせかけ右に。ミドルシュートを狙う。そのボランチは逆をとられ、後ろをむきながらそれでもマークを外さない。背中でふさぐ。ボールを離してしまったFWは思わず肩を押し相手を倒す。



 主審の笛が鳴り、ようやく試合が止まる。


 主審の古野はもう汗を流していた。

 男子寮の管理人として働き普段から練習試合の審判をしていたが、今日ほど速いテンポで芝の上を往復するゲームはなかった。

 両チームとも走るサッカーをしている。

試合開始直後のため飛ばしているわけではない。このまま九十分間集中を保つ自信がある。

 ボールより速く走ることは誰にもできない。試合の展開を読んだポディショニングを心がけなければ(それこそ出場する選手並みに頭を働かせて)。

 そして試合が荒れることのないよう注意したかった。せっかく良い選手が両チームにそろっているのだから。

これは好ゲームになる。

 代表の選手が一人小走りでやってきた。佐伯藤政だ。

 ファウルをおかした15番の選手の前に立ち古野へ不服を言わせないようにしている。

 手を味方の肩にあて「リヴェンジのチャンスはある。楽しいのは始まったばかりだろ?」と言葉を投げかけた。それでFWの気は晴れたようだ。

 ファウルを受けたアカデミーのボランチは何も言わず前へ走り、試合の再開にそなえた。

 アピールすればカードだって献上させられたかもしれないのに。スポーツゴーグルをつけた長身のボランチ。名前は木之本だったか。お人よしな奴だな、と佐伯は思った。



 それからおよそ三分間試合は落ち着かなかった。チャンスの前のまえにも至らない。有効な連携はなかった。決して選手達の調子がすぐれないわけでもない。

 むしろこれほど走る選手をそろえたチームはそうない。双方とも攻撃に人数をかけボールを持った選手を次々に追いこしていく。ディフェンスのブロックは密で強固。個人ではなく集団として強さが見てとれる。

 ミラーゲームであるといって良いほど両チームのスタイルは似かよっている。パスワークと意識の同調、そして個人技。

 今は互いに『守』が『攻』を上回っている。特にピッチ中央でのプレッシャーは怖いものがある。ゴール正面から攻めることのできる、金塊が埋まったともいえるエリアだが、同時にボールを悪い形で奪われ敵に決定機をあたえかねない地雷原でもあった。

 少年達はキープレイヤーを探していた。動きにキレがある味方、違いをつくりだせる味方を。同時にそれは相手にとって注意を払うべき選手だ。

 そういう選手は試合が始まらなければ見つけられない。練習と実戦では精神的にも技術的にも違いがある。


 先にキープレイヤーを見つけたのは代表チームだった。



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