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フェノメノ ~日本サッカー架空戦記~  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
傾世
16/59

もうゴールしてもいいよね

3(承前)



 この試合、アカデミーはクリーンな守備を続けていた。

 代表にとってゴール前のFKは初めて。蹴るのは倉木。

 ボールの前には彼しか残らない。腰に手をあて壁を見た。法水も壁のなかにはいっている。「決まる流れじゃない」とキャプテンは言った。


 肩を並べる木之本は反論する。

「流れが関係ないのがセットプレイです。蹴るのは倉木さんですよ」


「そんなことはない。連中あいつを信頼しすぎたな」


 木之本は倉木を観察した。どこか様子がおかしい。


 古野主審が笛を鳴らす。呼応するようにキッカーが深く息を。


 助走にはいる。狙ってくるはずだ。


 木之本は跳ぶ直前に気づいた。これははいらない?


 はいらない。ボールはとんでもない角度で打ち上げられた。


 大きく外れゴールキックになる。「まだ時間はある!」


 法水はそう言って前へ走っていった。木之本は再度倉木の顔を見た。


 呼吸が荒い。この選手は試合をとおして鉄仮面を貫き続けてきた。


 その顔には思考を悟らせない効果がある。倉木は味方をも騙した。


 青野監督とコーチを。体調不良を隠しこの試合に出場するため……。


 そこまでしてFFAを倒したかったのか。そこまで想われていたのか。


 倉木はその顔をついに歪ませた。この数分間動きがおかしかった。


 10番が走れないのでは得点は能わない。そう選手達は思う。


 鬼島がチームメイトの眼を見ながら手を叩き叫ぶ。「集中しろ!」と。


 FFAは堂々と弱点をつく。反応の鈍い倉木の前でDFがボールを。


 木之本からハーフウェーライン手前の柳へ。柳は最前線の米長へ。


 その左後方に法水。(11番が右斜め前方に走りだす。)


 胸でトラップした米長は誠実に強いバックパス。誠実には三人。


 ダブルタッチで二人を抜く。倒される前にスルーパス。


 大槌退は、法水の背中を初めて見た。


 マリオ・マルコーニは、法水が殺し屋の顔をしていることに気がついた。



 ベンチの監督と郷原が立ち上がった。郷原はベンチコートのポケットに両腕をつっこんだままピッチのぎりぎり外で待つ。

 やったのか? すべての選手が立ち上がり、それが事実であるかを確かめようとした。

 決定はしていない。静寂。

 立ち止まった選手達は主審を見、主審は副審を見た。副審は首を振る。主審の古野は右手でセンターサークルをしめした。どよめき。

 ゴール横で倒れていた一人の選手が走りだした。

 法水好介。どこにそんなエネルギーを隠していたのか。右拳を胸の前で溜め、全速力でアカデミーのベンチまでやってくる。

 途中チームメイトに追いすがられながらも逃げ切り膝からピッチの上を滑った。

 郷原がエースを指さした。法水も相手を指す。

 ベンチの四人に抱きかかえられ、そして追いついてきた他の選手にも一塊になる。

 ゴールをアシストした木之本は信じられないという顔で近づいてきた。すぐさま輪にはいる。ラストパスをもらった法水が首に腕を回す。

 ボトルを持った大人達が称賛を浴びせた。「試合は終わっていない」とも。法水はうなずき、ピッチの中央を眺めた。

 それから自陣にもどりながらスタンドにいる誰かに指をさした。その誰かの反応に色を良くしたのか、法水は再度破顔した。

 約束だったのだ。作戦上ベンチメンバーにまず出番はない。だから誰でも良いからゴールしたら一目散にベンチに駆けつけると。

 そしてゴールが後半だったら相手がゲームを再開させないようセンターサークルに誰か残ってくれ。

 周囲に流されない性格だからと米長、黒髪の両名が頼まれていた。

 米長は喜んではいたがベンチをうらやましそうに見てはいなかった。またしても重要な仕事を奪われてしまった。

 法水を一見し、それからその視線を剥がした。


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