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デート

●前回のあらすじ

 ふたりはデートの約束をした。

 今日は土曜日、山本とデートをする日。

 デートと言ってもショッピングモールに行って併設された映画館で映画でも見て……要するに普通に遊ぶだけだと思う。

 だから現地集合・現地解散でいいと思ったのだけど、山本は「一緒にいる時間を増やしたい」と言うので、9時になったら山本が私の家に迎えに来ることになっている。


 朝食をとった後、私は着替えを済ませて家のインターホンが鳴るのを待っていた。

 9時ピッタリになり、ピンポーンと音が鳴る。私は受話器をとる。


「はーい」

『三条さん!山本です!』


 山本の元気な声だ。


【デート】


 玄関の戸を開けると、山本の姿があった。

 タキシードをビシっと着た山本の姿が。


「えっ!?」

「じゃ、じゃじゃーん!……おはよう三条さん」

「お、おはよう……」


 ……どういうこと?

 なぜタキシード……?


「山本……」

「あっ三条さん、これ花束です。バラの」

「ありがとう……どうしたの山本、突然」

「いやぁ、女性をエスコートするのにどうしたらいいか考えたら……デートだし」


 とりあえず、現地集合で無くて良かった。


「っていうか、ソレ着てここまで来たの?」

「うん。花束もこれで買ってきた」


 う、うわぁ……


「あ、一応この格好で遊びに行くのはアレだと思って着替えを持ってきたから大丈夫だよ」

「……」

「えへへ、今日は『デート』だからね、三条さんにもドキドキ感を味わってもらおうと思って」


 別の意味でドキドキした。




 山本が家で着替えている間(親はまだ眠っていたので助かった)、私は花瓶にバラを生けていた。

 バラって色によって花言葉が違うんだっけ。これは赤だから……「私を射止めてください」とか「模範的な愛」とかだった気がする。

 模範的……?




「じゃあ行こうか三条さん」

「あ、うん……何かさっきとは打って変わってラフな格好だね」

「Tシャツとズボンしか持ってないし。さ、三条さんは私服でも可愛いね。なんか髪がこう……クルっとなってるし」

「コテで巻いたんだよ」

「こて……?な、なるほど」




 モールへ行くバスに乗っている間、いろいろ話した結果山本はほとんど私服を持っていないことが分かった。


「じゃあ映画を見た後は服でも見ていく?あ、でもお金……」

「ああ、今日は何があってもいいように余分にお小遣い持ってきたから大丈夫だよ三条さん」

「へぇ、山本はどういう服が欲しい?」

「三条さんが脱いだ奴」

「うわぁ……」


 言うと思った。

 私の呆れ顔を見て山本がハッとする。


「あっ今デート中なのに変なこと言っちゃった!?」

「そこ!?」

「デートですから!」


 そう言って山本は私の手首を掴んだ。

 山本の手汗が凄い。




「まずは映画館に行きましょう三条さん。何か見たいのはあります?」

「山本が途中で寝ない奴」

「三条さんの隣なら多分寝ないと思うけど……」

「そっか」


 上映スケジュールを見るとアクションとアニメとホラーものがちょうどいい感じの時間だった。

 どれも何となく知ってる程度のタイトルだったので、アニメ映画を見ることにした。

 ホラー映画にしたら、怖いからと言って抱きついてきそうだし。抱きつきたがっていると思われたくない。

 アクション映画は大抵サービスシーン(家族で見ると気まずくなるシーン)があると思ったので。

 まあ、そのアニメ映画も主人公とヒロインのキスシーンがあったのだけれど。




「三条さんは映画楽しかった?」

「うん。元になった小説は読んだことあったけど映画は映画で面白かった。山本は?」

「最後まで集中して見られる映画だったよ」

「そう……」


 上映中、けっこう私の方チラチラ見てたよね。




「今日は『学生割引』だったけど今度は『カップル割引』で見たかったな……」

「山本……」


 少し寂しそうな顔になる山本。

 何気なく私は『学生割引』を選んでしまったけど(そもそも他は選択肢に無かった)今日はデートなのだから『カップル割引』でも良かったかも。


「それはまた今度来たらって話で……」

「そうだね。また今度。それより三条さん、もうすぐ1時でお店も空いてるだろうしお昼食べよう」

「うん」




 お互い特に食べたいものが無かったのでフードコートで適当に食べることにした。


「……山本って私が食べてる時ずっと私見てるよね」

「え、別に食べてない時も私は三条さん見てるよ……」

「そうなんだろうけど、食べてる時は特に見られてる感じがして……そんなに面白い?」

「面白いっていうか……可愛いっていうか……」

「……そう」


 なら良いか。




「これ、あげようか?」

「え?」

「私の使ったストロー」

「えっ……」


 あれ、反応が薄い。


「山本、欲しいんでしょ?」

「ほ、欲しいですよ……?」

「はい、どうぞ」


 ストロー受け取った山本はちょっと困ってる。

 予想外だったかな?まあいい、今朝のお返しだ。色んな意味で。


「嬉しくないの?」

「いや、嬉しいけど……嬉しいけどなんか、びっくり?まさか三条さんがそんなことを……。え、いいの?嫌じゃない?」

「別にストローくらい、あげた所で私に影響ないし」

「おおお……あ、ありがとう三条さん愛してる、抱きついてもいいですか!?」


 なぜ。




「三条さん、午後はどうする?」

「とりあえず山本の服でも見て回ろう」

「服ねぇ……一着くらいオシャレなのがあったほうが良いか」

「普段の休日はどんなの着てるの?」

「『ズボン』と『Tシャツ』くらいしか私服持ってないから……」

「へぇ」

「休日は……何も着てないこともあるかな、服が邪魔で」


 なんかもう特に驚かない。




「じゃ、行こうか山本」

「うん」


 山本がまた私の手首を掴んで歩き出す。


「そうじゃないでしょ」

「へ?」


 私は山本と私の指同士を絡ませた。

 多分こっちのほうがいいはず。


「ちょっ、三条さん……?」

「デートですから?ふふっ……」


 わぁ、困ってる困ってる。

 ちょっと楽しいかも。




「とりあえず山本、パンツが好きならその辺見る?」

「うぇ!?」


 突然大声を出されてドキっとする。


「あ、パンツってズボンのほうのパンツ」

「え、ああ……びっくりした」

「スカートは?」

「スカートねぇ……なんかなぁ似合わない気が……」

「いつも着てる制服はスカートじゃん」

「女の子っぽい格好は三条さんみたいな子がしたらいいよ……」


 ふーん……ちょっと良いこと思いついた。


「コレとか似合うんじゃない?ちょっと着てみてよ」

「え、そんなかわいいワンピースを?」

「ほらあそこ試着室あるよ」

「う、うーん……」


 結局山本は好きな子からの頼みを断れなかった。



 試着室の前に立って私は待つ。


「もう見ていい?」

「まだ着てないから覗いていいよ」

「……」

「覗いていいよ?」


 ……


「山本、もう大丈夫?着た?」

「ああああもう着たから見ちゃダメだコレ!」

「開けるよー」


 あれ、意地悪で適当に選んだワンピースだったけど……

 意外と似合っていた。

 赤のチェック柄が落ち着いた雰囲気を放ちつつ、ヒラヒラしたスカートが女の子っぽさを出している。


「へぇ、いいじゃん」

「見ないでぇ……」


 そう言われると見たくなる。


「買えば?似合ってる似合ってる」

「本当に……?なんかスースーして変な感じ。制服よりもゆったりしてて不安になるんだけど」

「そういうものでしょ」

「三条さんがそう言うなら……」


 山本は店員さんに値札を切って貰って、着たまま店を出た。


「買っちゃった……」

「どう?かわいい服を着た気分は」

「悪いことしてる気がする……大丈夫?浮いてない?」

「あー、山本がかわいいから目立ってるかもー」

「―――ッ!!ちょっと三条さん!?」

「あはは、でも似合ってるよ本当に」


 本当にかわいいと思う。




 今まで山本に散々振り回されたけど、私は間違っていた。

 主導権は私が握ればいいんだ。




 その後、二人で色々モールの中を回って、気が付けば夕方になっていた。


 私の家まで一緒に歩く。


「今日は楽しかったなー」

「ありがとう三条さん、そう言って貰えると嬉しいよ」

「山本はどうだった?」

「嬉しかった。初めてデートできたことも嬉しいけど、実は私『三条さんはあんまりデートって意識してないのかも』って思ってたから」


 今朝変なコトしてたのはそういうことだったのか。


「だけど途中から三条さんもノリノリになってたからそれが嬉しかった」

「……それはどうも」

「あ、あとストロー確保も嬉しかった」

「今言わなくても……」


 渡したのは私だけどさ。




 ついに家の前まで来てしまった。


「じゃあね山本、『デート』楽しかったよ」

「ふぅ……よし、三条さん!」

「なに?」

「私と付き合ってください!」

「またそれか……」

「あはは、何となく言ってみただけ。じゃ、また月曜日に……」


 山本がヘラヘラしながら帰ろうとする。


「いいよ」


 帰ろうとする山本が振り向く。


「い、今なんて……」

「付き合うよ。そういう意味で」

「え、あっ、おっ……ぇえええええ!?」

「今まで山本とどう付き合っていいか分からなかったから断ってたけど、今日分かった気がするから」

「おっおっおっ……うううううう」


 言葉にならない声を出しながら、山本が泣きだした。

 そっと抱きしめてみる。


「ほら、泣かない泣かない」

「ううううううっううああああ…………」

「まだゴールした訳じゃないんだから、むしろ今がスタートなんだし」

「あ゛り゛が゛と゛う゛三゛条゛さ゛ん゛…………あ゛り゛が゛と゛う゛……」



 こうして私達はあっさり付き合うことになった。

 なんだかんだ言って私も、好きな子からの頼みは断れない。






「おかしいわね……どうしてこんな所にタキシードがあるのかしら……」

「あ、お母さん。それ今日一緒に遊んだ子が忘れていったみたい」

「……え?」

「そういう子なんだよ」

「そう……」

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