スマホ
●前回のあらすじ
テストで平均点超えたら三条さんから『御褒美』が貰えることになった。
【スマホ】
女子高生山本、ついに携帯デビュー!
「あ、山本の携帯電話届いたんだ」
「うん。電話帳には三条さんの番号しか入れてないから安心していいよ!」
「ど、どうも……」
家族の番号すら入ってない。
とりあえず三条さんにメールアドレスを教えてもらった。
「おぉ……ついに私も『メール』ができるようになったのか……イマドキ女子高生って感じがするぞ」
「今どきの女子高生はもうメールすら使ってない気がするけど」
「えっ」
「メッセージをやりとりするアプリがあって、大体みんなそっちを使ってると思う」
「へー」
……メールとどう違うんだろう。
メールで良いような気がするが、アプリを入れてみる。
「うわっ何もしてないのに既に三条さんの名前が表示されてる」
「電話帳に登録してある相手が表示される仕組みになってるみたい」
「友だち登録ってのをしたらいいのかな?」
「うん」
本当は『友だち登録』よりも『恋人登録』か『愛人登録』がしたい。
妥協して『友だち登録』すると、『友だちかも?』という欄に何人かの名前が表示された。
「『友だちかも?』ってどういう意味……?どっちか片方だけ友だちだと思ってるとか?」
「いや、これは単に友達登録してる人の友達が表示されてるだけだよ。山本が私を登録したから、私の友達リストの人が表示されてるの」
「成る程……三条さんは交友関係広いんだね」
なんか切ない。
「近い席の人とか委員会の人とか、とりあえず挨拶代わりに登録したけど全く連絡とってない人も結構いるよ」
「うーん……それならいいんだけど……」
「山本もせっかくスマホ持ったんだからクラスの人でも登録すれば?」
「いや、私は三条さん一筋でいかせて頂きます」
「そ、そう……」
「あ、コレは三条さんの親のアカウントかな?今後の付き合いも考慮して今のうちに登録しとこう」
「それはちょっと……」
「それにしてもスマホって便利だよね、色々機能あって。」
「そうだね」
撮影とか録音とか……
「私は目覚まし時計を持っていなかったので、目覚まし代わりにもなって助かる」
「え、山本って目覚まし時計持ってなかったんだ。どうやって朝起きてたの?」
「いつもカーテン全開で寝てるから朝日に照らされて起きてる。冬場は寒さで目が覚めるからそれで」
「いつもより早く起きたい日はどうするの?」
「そういう日は前の夜に、水をたくさん飲んで寝ると尿意で目が早く冷める」
「うわぁ……」
引かれた。
後から三条さんに教えてもらった話では、アメリカの原住民も戦の前日に同じことをして朝早く攻め入っていたらしい。(一応彼女は謝ってくれた。)
「まあそんなことよりも三条さん、おはようございます」
「え、突然なに……」
「おはようございます!」
「お、おはよう……」
「よし、『おはよう』ボイス録音完了!目覚ましの音声に使おう」
「……」
最近三条さんの反応が薄くてちょっと寂しい。
「スマホってそんなに大きくなくてカメラついてるから盗撮とかに使われそうだよね」
三条さんが後ずさる。
「えっと、『そういう危険があって怖いね』って話!」
「そう……」
「盗撮防止するためにシャッター音が鳴るようになってるけど、無音で撮影できるアプリとかあるし、こうやって鞄に何気なく入れて電車の床に置いたらホラ、スカートの中とか」
「……山本、やけに詳しいね」
引いてる三条さんも可愛くて素敵だけど、ここは誤解を解こう。
「こ、これくらいちょっと考えたらみんな思いつくって」
「考えたんだ」
……考えました。
いや、私も考えたけどさぁ……
「……好きなものの写真は欲しくなっちゃうじゃん?」
「勝手に撮るのはダメでしょ。ふつう嫌がるって」
「別にバレなければ撮っても……いや、なんでもないです」
三条さんがサッと私のスマホを取り上げる。
「念のため確認を……」
「ちょっ、ちょっと写真フォルダの中は見ちゃダメ!ヤバい写真があるから!」
「ヤバい写真!?」
あっ、言い方が悪かった!
「私の下半身が無修正の写真あるから!」
「えぇ……」
三条さんからスマホを取り返す。危うく私の汚い尻の画像を晒す所だった。
「見、見た……?私の尻画像……」
彼女は首を横にふった。
「見てないけど、なんでそんな……」
「……どうなっているのか、見たこと無いから撮影して見ようと思って」
「……」
「別に変な意味は無くてですね、なんか触ると毛が生えてるっぽいし、剃ろうと思ったんだけど見えないからケガしそうで」
結局勇気が無いから剃らなかったけど。
「とりあえず写真フォルダ内の画像は全て削除致しました、ご確認を……」
「はい……」
「信じてもらえないかもしれないけど、それ以外まだ何も撮影しておりませんでした」
「うん……疑ってゴメンね……」
三条さんの住んだ瞳に汚物が映ることは避けられたが、こんなことなら毛の濃い家系に生まれなきゃよかったよチクショウ。
「そういえば山本のテストの結果、まだ私聞いてないけど……黙ってるってことはダメだった?」
気まずい空気の中、三条さんが露骨に話題を変えてきた。
「あー、一応平均超えた教科はあったんだけど、トータルで平均未満だったから」
「そっか」
約束では『平均点を超えたら御褒美』とだけ決めていたから、御褒美が貰えないこともない気がする……のだけれど。
「やっぱり最低でも、合計で平均超えはしないとダメかと思って」
「うーん、私としては別にいいと思うけど……。前もって話し合っておくべきだったね」
「うん」
テスト前は『御褒美』という響きに興奮しすぎてそれどころじゃなかった。
「ちなみに三条さんは何を『御褒美』にする予定だったの?」
「なんか読まなくなった本とかあげようかと思ってたけど……他に思いつかないし」
「あー、そういうのかー」
本か。貰ったら一生大事にさせて頂こう。
「……なんか山本ガッカリしてない?」
「いや、全然。三条さんからの御褒美貰えなくて残念だったな―」
「別に『私が嫌がらないであろう範囲で山本がしてもらいたいこと』があるならそれでもいいよ」
難しいな。
「三条さん優しいからなぁー、全部要求飲んでくれそうで逆に頼みづらい」
「嫌なら嫌っていうから」
「して欲しいことと言えば付き合ってもらって結婚だけど……」
「うん……少なくとも『テストで平均点超えたから結婚』は嫌かな」
他にして貰いたいこと……?山ほどあるぞ……。
頭の中にあるウィッシュリストの中から『えっちなやつ』を除く。
かなり減った気がするが、それでもたくさん残る。
「『して貰いたいこと』なんて言われても多すぎてまとまらない」
「たくさん候補があるなら、その中から選ぶけど……」
「えーっと、まずは目覚まし音声とか他の音声を録りたいかな。あと待ち受け画面用の三条さんの写真が欲しい。あとデートしたい。……ダメですかね?」
「音声はさっき録ったでしょ」
「ハイ……」
「デートって具体的には何するの?」
え、そこを聞いてくるのか……
「えっと、三条さんと二人でどこかに出掛けつつ、絆を深めるというか……」
「休みの日にどこかに遊びに行きたいなら一緒に行くけど。友達だから普通に」
「え、じゃあ今度の土曜日にでもどこか行きます?なんて言ってみたり……」
「いいよ」
軽っ!
「デートだよ!?そんな簡単にデートの誘いに乗っていいの三条さん!?」
「それって普通に遊びに行くのとどう違うの?」
「え」
お互いに意識してドキドキしつつ手をつないでキスして……みたいな感じ?
自分でもよく分かってないな……
こんな時こそスマホの出番だ。
「『デート(英: date)は、恋愛関係にある、もしくは恋愛関係に進みつつある二人が、連れだって外出し、一定の時間行動を共にすること。逢引およびランデヴーとも言う。』」
「恋愛関係に進みつつある二人……」
「え、違うの?」
地味にショックだ。
「あ、三条さん!『まだ、お互いが恋人同士と認識していなくてもデートをするということもある。デートの最中において、恋人同士と認識した交際をしたい旨を正式に申し込む、初めてのキスをする、プロポーズをすることなどがある。』とも書いてあるよ!」
「それはともかく、土曜日どこに行く?」
……なんか釈然としないけど一緒に遊びに行ったらデートみたいなもんだし、いいか!
「ショッピングモールにでも行って、映画でも見ます?」
「ん、いいよー」
あっさり決まってしまった。
「ん”ん”ん”ん”ん”……なんか違う気がするぞ……もっとこう『どこにいこうかな?』的な会話も楽しみつつイチャイチャしたい」
「だってこの辺ショッピングモールくらいしかないでしょ」
ショッピングモールでデートって田舎全開!って感じがするけど……まあデートだしいいか。
「細かい話は後で決めようか、山本がスマホ持ったお陰で連絡とりやすいし」
「そうですね……」
どうも三条さんとデートに対する温度差があるように感じられるが、とにかくデートの約束をした。
デートってなんだか考えるだけでドキドキするけど、三条さんはどうなんだろう。
でも軽い感じでデートに行ってくれるのなら、これから先何度もチャンスがあるってことなのかな。
次回、多分デート