第十二話:彼女のやり方
世の中って言うのは自分の思い通りに行かない
そんなことは百も承知・・・
予報とは予想して報告すること・・・
だから、天気予報が外れても文句を言ってはいけないのである
だけど、予測できるのは天気だけなんだろうか?
・・・・人が人と出会うということは予測できないのだろうか?・・・・
十二、
ものすごく冷たいオーラを纏った転校生、風馬美羽は昼休みとなった今でも辺りに人を近寄らせることなく、やたらと僕のほうを見てきているのだ。しかも、ばれないように努力をしているのだろう。これが普通の転校生で美少女、さらに僕のことをちらちら見ているというのなら
「どうしたの?」と僕は彼女にお近づきするだろうが・・・近づくものはすべて冷風ではねかえすぞという意味を持った視線に誰も近づきたがったりしないだろう。根性を持った男子生徒たちはまるで蛇の王様であるバジリスクに睨まれたアマガエルと化していた。おせっかいな女子たちも黙ったままなので進展が無い。
唯一、彼女に普通に接しているのは先生ぐらいなものであり、先生はもとからそういう図太い性格なのだろうと噂されていた。
「剣治、彼女に話しかけないの?」
その先生とためを張ることができるのはこの男ぐらいなのだろうが、彼も珍しく動かなかった。
「ああ、面倒だから・・・」
「面倒!?」
「正直、あの風馬家を敵にするのは一族としては反対だと先ほどメールがきたんだよ。下手にちょっかいを出して一族を滅ぼすんじゃないぞといわれてしまった」
そういえば先ほど剣治が彼女のもとへといこうとして携帯が鳴り出したっけなぁ?じゃ、このままでは彼女はこのクラスで孤立してしまうのではないのだろうか?ううむ、可哀想だなぁ・・・と思いながらも動けないでいる自分を情けなく感じたのだが・・・
「・・・・時雨・・・・」
「?」
誰かが僕の名前を読んだ気がしたので剣治のほうを見ると首をふり、僕らよりも離れた場所で首をすくめて隠れるようにして身を寄せ合っている男子たちに視線を向けると首を振った。残りは美羽さんだけとなる。
「え、え〜っと・・・」
「・・・村雨時雨・・・」
気がつけば目の前に立っている美羽さん・・・・この人が忍者だったらそれはもう、名に残るような忍者になっていたに違いない。
「あ、な、何でしょう?」
「・・・・誰かに校内を案内してもらえって先生に言われた・・・」
「え、ええと?」
助けを求めて剣治を見る。彼は死んだふりをしていた。
「う、ううんと・・・?」
今度は他の男子生徒に助けを求めてみたのだが・・・・
「う・・・ど、毒を盛っていただと?」
「ブルータス、お前もか・・・」
「我が一生に一片の悔い無し!」
「ば、ばか・・・な・・・」
「戦いの中で戦いを忘れた!」
とそんなことを言いながらばたばたと倒れていく。裏切り者と白状者たちの死屍累々とした場所が出来上がってしまうのだった。
「・・・わ、わかったよ・・・」
僕は引きつりながらも微笑んで彼女と一緒に廊下に出たのだった。
途中、廊下ですれ違った腕に確かな自身のある不良生徒たちも見事に死んだ真似をしている。彼女を熊か何かと勘違いしているのではないのだろうか?熊だったら死んだまねをしても意味がない。ちっ、普段はでかい面してる癖して結局それかよ!?無謀とわかっていながら突貫していく勇気があるものがこの学校にはいないのか?
「えっとね、ここが音楽室・・・」
不良のたまり場の一つである音楽室・・・ここでは不良たちが常に占拠してコンクールに出てもいいのではないかというぐらいうまくピアノを弾いている。
演奏中にはいると
「集中がきれるだろうが!」と相手が先生だろうとお構いなく切れる悪の中の悪?が揃っている場所でもある。ここなら、突貫してくる相手もいるに違いないと思ったのだが・・・・
「だれだ?ごちゃごちゃと・・・この小娘か?」
美羽さんに手を出そうとした不良のその手が体ごとそのまま飛んでいってしまった。そして、そのままピアノを占領すると勝手に弾き始める。
――――演奏中――――
「?」
演奏が終了して(とばされていなかった不良たちは借りてきたねこのようだった)僕のほうに視線を向ける。
「・・・・えと、何の曲?僕、知らないんだけど・・・」
話に合わせただけである。僕は曲に疎い
「・・・即興で弾いた。あえて題名をつけるなら“出会いに喜びを”・・・」
「そ、そうなんだ・・・」
「・・・・・・・・」
弾まない会話に美羽さんの冷たい視線に加えて辺りの同情の視線(かわいそうに、寿命が縮まってるぜ、あの顔・・という声が聞こえてくる)に顔に張り付いた恐怖を何とかはがしながら僕は彼女に継げた。
「屋上に行こう!」
「・・・・」
「ま、また今度きちんと案内するから・・・・ね?」
「・・・わかった・・・」
二人して屋上の扉を開けると強い風が僕らに吹きつけてきた。
「・・・・いい風・・・」
彼女は屋上に出て体で風を感じているようだった。
「そうだね・・・」
僕も体に風を感じながら・・・・それ以外、何も感じなかった。強風なのでグラウンドで女子たちがスカートをおさえているところを凝視しているだけである。
「・・・・気が変わった・・・・」
「何の?」
「・・・・私はあなたを見たことがある・・・気がする」
「奇遇だねぇ・・・・僕もなんだ」
「・・・・」
「嘘じゃないよ?」
なんとなく、疑っている気がする相手に僕は正直に告げる。
「夢の中なんだけどね・・・・」
「なるほど、私も・・・」
二人して首を傾げるしかないのでさて、どうしたもんだろうかと思ったのだった。しかし、首をかしげている時間も短かった。
「ふふ・・・」
「はは・・・」
おかしくないのにお互いに笑い始めたのだった。
なんだか・・・・なんだか非常にいい雰囲気じゃないか?女子とこんなに会話が進むなんて、妹以外で初めてではなかろうか?
よ、よし・・・・ここは勇気を振り絞って話をもっと続けることにしよう。
「ねぇ、美羽さんって夢、ある?」
「夢?」
「うん、夢。ああ、夜見ている間に見るものじゃないよ?目標とか、そんなの」
「・・・・いや、ないけど・・・時雨はあるの?」
「うん、あるよ?僕はね、悪の組織を立ち上げて人類の敵になることなんだ」
「・・・・・」
「ばかだよねぇっていわれるんだけどさ、いや、自分でも馬鹿だって思ってるよ?まじめに考えている奴なんて一人もいないだろうに・・・・おかしいよね?だけどさぁ、僕は理由なんていいから、一度決めたことをやりとおしてみたいと思うんだ。変だって構わない」
「・・・変。十分、変・・・けど、時雨がそういうのなら、私が・・・何とかしてあげる」
「え?」
聞き返そうとしたところで強風がいきなり吹きつけてきた。面食らった僕はふらっとして、美羽さんから掴まれる・・・・と、必要以上に相手が力をこめて僕を引っ張ったので僕は彼女のほうに体重を掛けてしまった。
「んぐ!?」
何が起こったのかわからない僕だったが・・・・・美羽さんは笑っていた。
「・・・・人類の敵になるのもいいけど・・・・世界の救世主になってはくれない?」
「え?」
何を相手が言い出したのか僕にはわからなかったのだが・・・・相手、美羽さんは真剣な表情をしていた。
「せっかく、友達になれたと思ったんだけど・・・・私の友達なら、救ってくれる。必ず。だから、また会いましょう?」
「・・・・・?」
彼女は強風を一気に体に纏った。空でも飛ぶのだろうかと僕は思ったのだが・・・・なんと、気がつけば浮いているのは僕のほうだったのだ。そして、だんだんと地上が遠くになっていくにつれ、普通の人だったら
「おろせぇ!」とか叫ぶのだろうが・・・・
「うはっ・・・」
あいにく、僕は高所恐怖症だったために見事に気絶。その後、自分がどこに行ったのかわからなかった。
「・・・・任務、失敗。だけどまぁ、私も彼を追いかける・・・」
美羽は教室からくすねてきたチョークを使って屋上に書き残したのだった。
時雨はどこにいったのだろうか?行方不明となった彼に対し、周りは
「とうとう奴は悪の組織を立ち上げるために資金を求めにいったのか?」と半ば本当に考えられたのだった。