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I shall retern (わたしは、帰ってくる)


 夜遅くに帰って来た兼に食事の用意を整えて側についている薫子に、影のようについて歩く小さな女の子がいる。

 きなこ、である。


 あの日、叔父の許で再会したきなこを、薫子は連れて帰って来た。何故かそのままにしては置けず、叔父に頼みこんでしまったのだ。もとより、下働きにもならない幼女では邪魔にこそなれ引きとめる理由もなく、

「好きにせよ」

 と一言の許可を受けて如月家の奥向きに奉公が決まった。

 洗って、拭いて、洗濯して、着替えさせて、ようやく一息ついてみればきなこは結構可愛い女の子であった。あの白拍子「竜胆」の妹だけのことはあった。くしけずられた髪を整え、薫子が子供のころに着ていたものを着せれば、それなりに見られるようになったのだ。


「こんなきれいな着物は、初めてでしゅ」

「そうか、よう似合っている」

 それから数日、如月家のことを仕える家人たちや女房達から色々教わりながら、常に薫子の側を離れようとはせぬ子であった。幼いながらも必死で仕えようとしているのがわかるだけに、館のみながきなこを可愛がるようになっている。ただ、きなこが知らないことは、薫子が引き取るときに叔父から条件がつけられたことだ。


「好きにせよ・・ただし、おまえは中宮様のおそばへあがれ」

 蹴るつもりが引導を渡されて、明日には女房として中宮さまのもとへはいることになってしまった。きらびやかな衣装が整えられ、恥じることのない仕度がなされてゆく中で、薫子だけが大きなため息をついていた。

(このまま、逃げてやろうかなあ・・)

 だいたい、女の中で暮らしたことのない薫子にとっては漏れ聞こえてくるそこの女達の話はもののけ話よりも恐ろしいことばかりであった。

 武を持って挑んでくる相手であればこれを斬り伏せることもできようが、「いけず」が相手では薫子の手には負えない。


 ただ一つ、薫子は知りたいことがあった。それゆえにこの話に乗った。

 あの夜に見た人・・従兄弟である義康の館へ消えたあの人。もし見間違いでなければ、とんでもないことをやっているのではないか?

 中宮さまのおそばではあっても、基之がいれば情報は入るだろう。

 それが狙いであることは、兄にも告げてはいない。

 言えば、すぐに連れ戻されるか、そのまま一生帰っては来れないか・・

 どちらかしかない。


(わたしは帰ってくる!というか、追い出されてくる!!)


 兼にとっては、おとなしく言われるままにしている薫子がどこか不気味であった。

「何を考えているものやら・・」

 洛中を騒がせる事件に追われ薫子の相手をしているひまもないままだったのが、心に引っかかる。

 小さなきなこに兼のことを頼み、薫子は翌日、中宮さまの許へ向かった。

 ただ、一振り、「薫風丸」だけは手放さずに・・

サブタイトルおかしいです。でもこれしか頭に浮かばない・・英単まちがってる?ごめんよ~!

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