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「天敵」

小さなきなことの出会いの章です。でも、もうちょっとかわいい名前はなかったのか?きなこだもんなあ・・・豆の子?ははは、センスないな、わたし・・・


 その夜、茜の館へ担ぎこんだ人は細い息をしながら眠っていた。地味ななりではあったが、繊細な作りの顔立ちが目を引く少女であった。

 ここは、もと御所仕えの刀工の館で、茜はその孫娘に当たる。

 今は一線を退いてはいるが、「如月家」の兄妹の太刀をはじめとして、宮仕えの各武人の所持する太刀の手入れ等を引き受けてくれている。


「あい、きなこと申しましゅ。姉しゃまは竜胆りんどうと申しましゅ」

 泣きじゃくり取りすがっていた女の子は自分たちのことをそう話した。

 歳を問えば考えながら指を五本折ってみせる。その指がひどいあかぎれで、ぱっくり割れている傷には血さえ滲んでいた。しかも、着ているものもかなりくたびれているように見え、足元は擦り切れたわら草履である。その足もまたひどく細く、全体的に満足に食べてはいないことが見て取れた。

 そして出会いがしらにぶつかって、声を上げる間もなく竜胆はその場にくずれたというのが、きなこの説明であった。

「まあ、とりあえず、斬られたわけではないことは確かゆえ、間もなく気もつこう・・」

 そう言ったのは藤原 高明こと、「泥棒市」の元締めである「綺羅」である。薫子が不思議に思っていたのは、あの現場に何故、この人ともう一人。

 きなこと名乗った女の子を抱きしめているお吟がいたのかということだ。


(何で、この三人がつるむかな?基之さまならあり得ても、ここに「綺羅」どのが入るのはあり得ない・・・)

 当然である。兼と「綺羅」ははっきり言えば天敵である。

「二三日は気持ち悪くて、ものは食えぬであろうけどな」


 あの後、現場に立ち尽くしていた兼をひっぱってここまで連れてきたのはお吟で、竜胆を背負ったのが綺羅だと聞いた。けっこう優しい所のある男なのだ・・いつものように、どこか妖しげな異国の衣装の人ではあるが。

「白拍子だそうな、あの竜胆という娘・・どうりで違うと思うた」


 「白拍子」・・・男装をして流行りの今様を謡いながら舞うと言われる女達のことである。酒宴に侍り時には春も売るとか・・

 この繊細な顔立ちの娘ならばさぞや、売れっ子であるだろう。

 その「白拍子」という言葉が兼の胸に突き刺さったことを知っているのはこの場ではお吟だけであったが・・気遣わしげに時折見つめるお吟の視線さえ煩わしげに顔をそむける。


「・・小督・・」

 その名は記憶の遠い所へ追いやったように思ってきたのに、これほどの時を経て、なぜ戻って来た?

(・・奴は・・誰だ?)

 考えれば、思い当たる節が多過ぎてどれかはわからない。

「大丈夫なん?天寿丸」

 側へ近づいて来たお吟がその冷たい手に手を重ねてくる。

「ああ・・大事ない・・」

 そう言う兼は世間ではどれほど大胆不敵な検非違使長官かと思われているが、少なくとも妹・薫子よりは繊細な神経の男である。その二つの性格がこの美しい人の中で、今せめぎ合っているのだろう。


「なあ、お吟・・なるようにしかならぬよな・・やってしまったことの結果なら、避けては通れぬ」

「そうやな・・恨まれることもしょうのないことやろ?」

 小声で話し合う兄とお吟の内容の意味はわからなかったが、どうやら昔のことが起因しているらしいことは理解できた。

 その話をしてくれるのかどうかはわからなかったが、何かあった時にこの人の足手まといにだけはなりたくない、そのための己の太刀である。


 お吟から抱きとったきなこの軽さが幼いころの自分に重なるようで、眠ってしまった顔を見つめていた。その薫子を見ている綺羅にはどこか複雑な思いがあった。


(どこか女なのだ・・かと思えば、男のような気もするし・・)

 心の中で小さく笑いながら綺羅は兼のことを少し調べてみる気になっていた。なんだか、おもしろそうなネタが転がっていそうな気がする。


 なんの笑い方かは分からなかったが、その笑みにどこか危険なものを感じて、兼の脳裏に怜悧さがもどって来る。「天敵」という言葉と一緒に・・・

 

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