表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/39

混乱


 勝手知ったる母の実家である。


 表に立った兼を迎えた老女は、しばらく声さえ出ないようであった。

「久しいな、浮橋・・」

 その声が自分の知る人であることに気付き、老女・浮橋は白拍子を見上げた。

「・・憧子さま・・?」

「違う・・わたしは母上ではないぞ」

「兼さまでございますね・・なんと姫さまによう似ておられますことか・・」

 髪の乱れと衣装の乱れを整えながら、兼は邸内を奥へ進む。

「薫子が来ているな?」

 管絃の音が流れるほうへ進む兼の足が止まったのは、中庭を挟んだ向こうの廊下に自分と同じような白拍子を見つけたからだ。

 二人。薫子と雅貴は茫然としてその人を見ていた。


「小督・・」

 雅貴の目に映ったのは昔と変わらぬ美しい人である。贅沢に灯りがともされている中、ゆっくりと歩み去ろうとしていた。

「・・あれ・・誰ですか?」

 薫子の頭の中は混乱している。見た顔ではある・・それもひどく近しい・・

 鏡の中の自分にも似ていて・・その顔にもう一つ重なったのは、兄・兼の貌。追いかけて来たらしい足音が、そんな薫子を見て庭先を飛び降り前に立った。お吟の手が薫子の体を大切に抱きしめてくる。小さな震えが伝わってきた。

「ごめんな、天寿丸にあんなことさせたんは、うちなんや」

 舞台へまっすぐに進んで行った人の後ろ姿を見ていた薫子が、突然、お吟の手をひっぱりあとを追うようにして、走りだした。同じようにして綺羅と雅貴もそっちへ向かった。


 突然現れた白拍子に周囲は息がとまるような静寂に包まれる。

 舞台の上で、指をつき静かに頭を下げている白拍子に声がかけられた。

「やはり、来たか・・」

「はい、御用が御有りなのはこのわたくし・・小督にございましょう・・」

 自ら「小督」と名乗ったのは何年振りだろうか?

 昔と変わらない、少し低めの声で叔父に応えて顔を上げる。どよめきが起きる。その姿を見ていた雅貴はその小督が自分が恋した美少女ではないことにも気がついていた。

 もう、十四・五の頃の小督ではない・・美しさは変わらずとも、今、この人は検非違使長官として自分の前に立った男である。

 そして、それを思い知らされたのは、兼の予期せぬ動きであった。


 誰かが、呆然として見ていた春宮へ向かって素早く動いた。

 それを、兼は見のがさなかったのだ。何事が起ったのかわからないほどに、宴席が混乱を生じていた。食器の割れる音、逃げまどう人。その中で兼が舞台から飛び降り、春宮へ向かった賊と正面から向き合う格好になってしまった。

「あの時、見た顔よな・・雷丸」

「互いにな。あそこから落ちて互いに生き残るのは悪運の強さよ」

 春宮を背にかばいながら、兼が見たのはあの大橋の上から一緒に落ちた「雷丸」である。まだ年若く良家の子息風に見えたのはここに紛れ込んでいても不思議ではないような雰囲気を漂わせてさえいる。

 「雷丸」と呼ばれた若者が、自分をここへ導く役目をしてくれた人だと知って、いつの間にかその仲間らしき連中に踏み込まれていたことに気がついた薫子は、それまで兄の姿に受けていた衝撃からようやく立ち直り始めた。


 春宮を庇い動きにくい衣装のままで兼はなんどか雷丸の太刀をかわした。

 いったい何人が入り込んでいたものか見当すらできなかったが、いつも春宮の護衛に就く雅貴が近づいて来れないところにいるらしいことはわかった。

 飾り太刀では相手にはならない。体には当たらなかったが水干が斬り裂かれている。


「あにさま!!」

 薫子の声がしたと同時にその手から離れた「薫風丸」が手元に空を切って、落ちてきた。それを受け取った兼に雷丸は笑うように言った。

「しくじったようだ。また次回会おうか・・」

「次回なぞ、ありはせぬ!」

 

 邸内に響いた指笛に呼応するようにしていくつもの影が塀を乗り越えて行く。こんなにいたのかと思えるほどの数は、こちらの手負いの数からみてもわかる。春宮のまえに膝を折った兼と薫子を叔父は見比べているようだった。

「なかなか、良き眺めにございましょう・・これほど美しい白拍子は今、洛中探しても、見られるものではありませぬ」

 殺されかけたというのに春宮は二人を見て楽しそうに笑った。

「丞相・・これほど美しい者たちが集まるのであれば、また今度も呼んでくれぬか?わたしがおとりになれば、あの賊はまた現れよう?どうする、小督?」

「お断りいたしまする。このようなことが二度あるなぞもってのほかでございます。これに懲りてなにとぞ、御所内にてお静かにお暮らしくださいませ」

 検非違使の顔に戻った兼が言う言葉が果たして届いているものか、わからぬままに、旧悪がばれ、追っていた「雷丸」には逃げられて、この夜の出来事は散々であった。もっとも、これで終わるはずのないことであったのだが・・・


日本人はこう言ったものが好きなのだろうかと思うのは、歌舞伎や宝塚等です。要は異形の者ですよね。日本武尊の昔からそうですが、それはきれいな女の子に化けて、酔っぱらわせて九州の熊襲を討ってしまう話なんかは、今も受けそうな題材でしょう・・西洋史は苦手なので、どうかわかりませんが、ジャンヌ・ダルクなんかもそうなのでしょうか?男装の麗人というタイプ

(オスカルさま)はいるけど、女装の男性っていますかね?(マツコさん?)どうなのでしょうか?これに出てくる白拍子たちもあの時代では異形の者であったのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ