表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/39

守り、守護られ

 

 そんな頃のことだろうか・・


 ある日、片付けものをしていた薫子は中宮さまに呼ばれて、その御前へすすんだ。

 ひどく迷ったご様子のその方の口から発せられた言葉に薫子も戸惑う。


「そなた、如月の家へ戻れ・・」

「はあ?」


 突然に言われて、自分がやったことのあれこれが浮かんだが、いずれも追い出されるには充分な案件である。

 女房達と喧嘩したことも、抜け出したことも、認めるしかない。


「小宰相、兄上がそなたを、貸せと言うて来られたのじゃ。ここから出すつもりはなかったが、どうしようもない・・」

「叔父うえが、わたくしに何か?」

「であろうな・・ただ、あのお方のこと故、そなたの身に何もなければよいが・・」

 中宮様でさえいやな予感がしているのなら、薫子の身に何かが起きても不思議ではないということだ。てっきり追い出されるのだと思っていたのに、家へ帰されると言うのはどういうことなのだろうか?


「わたくしは、そなたち兄妹の母でもあると思うてまいりました。兼はああいう子ゆえ、決して人に頼ろうとはせぬ子であった。姉上が亡くなられた時も、一人で哀しみを抱え込んでしもうて、それが不憫で、守ってやりたかったのじゃが・・」

 前で頭を下げている薫子の頬を細い指が挟んだ。

「見かけとちごうて、あれは気性が強い。それが母譲りで兄上のお気に召さぬのやもしれぬ。あの子が生きてきた道は平坦ではなかろう・・その子が守りたかったのは、そなた一人よ・・わかるか?」

 母代りのこのお方が知る兄の生きてきた道・・おそらくのことは、薫子にも想像はできている。子供ではないのだから・・


「あの、兄上が、そなたをどうしようとしているのかわからぬ。もしかしたなら、兼の身にも災いが及ぶやもしれぬ・・」

 その言葉が薫子には一番こたえる。しかし、あの権力者に対して自分に何ができるのか?見つからないのも確かなことだ・・


「・・中宮さま・・お言葉心より感謝申し上げます。なれど、幼いころより兄に大切にされて育ってまいりました薫子ができうることは、ただ一つでございます」

 中宮様の手をたいせつに押し包み、薫子は笑った。


「兄を、守りまする・・太刀をもってしても、守りまする」

 後は、この身を以てしても・・その言葉は言うことはなかったが・・

「守ってやれなんだわたくしが言うのもおこがましいやもしれぬが、何かの時には必ずわたくしを頼れと兼に伝えよ・・」

 その言葉が、どれ程心強いか、それを知るのはまだあとのことではあったが、その日のうちに薫子は中宮御所を出て久しぶりに我が家へ帰ることになった。

 その薫子につけられたのはひとりの護衛。


「わたしを、まいて消えようなぞと、くれぐれもお考えになりませぬように」

 そんなことを言う人に薫子は笑うしかなかったが、それでもこの人を自分に付けてくれた中宮さまの心に深く感謝した。


「わたくしに、まかれるようなお方ではありますまいに・・基之さまは・・」

 

 本来の職責は春宮付き武官。藤原 基之。

 この人の存在には心が少し軽くなったような、そんな温かさを持って、つかず離れず基之はこの日、如月家へ薫子を送り届けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ