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出会い

この作品に出てくる「鎮花祭はなしずめ」とは、散る花びらとともに悪疫が広がると信じられていたものを、収めるために行われた神事でした。浦安の舞いなぞが舞われたとか聞きました。で、それを舞ううちの母の若かりし頃の写真があったりして(なんのこっちゃ)・・・日本語は美しいな・・と。

それと、出てくる姫君達の名前です。きっと今の人たちには古臭いと思われるのかもしれませんが、薫子(平安のころは男性名でした。薫の君)頼子よりこ憧子とうこ冬子ふゆこ高子たかいこ明子あきらけいこ周子ちかこ、興子(月の輪院でしたか?おきこ内親王)

 美しさにめまいしそうです。これらの名を持つ姫君達を少しずつ書いていきたいと思います。

 京の2月は寒い・・寒気が足元から這い上がり、全身から温もりを根こそぎ持って行かれそうな気がする

 

 その寒気に包まれながらわずかな星明かりの中を、薫子は一人の少女を伴って歩いていた。

 いつものように白い水干姿で、髪を結いあげ手には愛刀「薫風丸」を携えて・・・


「薫子さまに送っていただくなぞ、爺さまに叱られます」

「気にしてくれるな。この刻限まで引きとめてしもうたのはわたしゆえ・・茜の身に何かあってはそれこそ大事ゆえな」

 

「茜」と呼ばれた少女は自分より確実に頭一つ背の高い薫子の横顔を見上げて、何度か同じことを繰り返していた。不思議な人・・時折、この人が男なのか女なのかわからなくなることがある。

「如月家」の館奥にいるときは間違いなく姫様らしい姿でいて、顔つきもうつむき加減でいるときに何と美しい方だろうかと思うのに、こうして外へ出てくるときには、どうみても少年なのだ。それも、とびっきり凛々しくて、美しい・・

 歳の近い二人はいつ頃からか互いの館へ遊びに行く仲で、今日も茜は如月家を訪ね楽しい時間を過ごしてきた。そのせいで、時のたつことを忘れていて帰りが遅れ薫子に送ってもらう羽目になってしまったのだ。

 堅く固辞したが薫子はさっさと着換えて当たり前のようにして茜を家まで送り届けようとしていた。


「ここのところ、何やら物騒な人斬り騒ぎがある故、一人でそなたを帰せぬ」

 

 薫子の言葉にそれ故、あのお方の姿が館内にないことが納得できる。時折見かけるこの人の兄上・・

 どちらかといえば、その人の方が顔立ちは優しい。女にしてもあれほどの美貌のひとはそうそういるものではないだろう。兼さまというお方・・現職は検非違使長官、ばりばりの武闘派である。

 めったとお会いできる人ではなく、「桜花少将おうかのしょうしょう」の異名と「鬼」と呼ばれる噂が都を駆け抜けてゆく。そして、今その人が追うのは洛中に出ると言われる人斬りである。


「薫子さま・・今宵は当家にお泊りくださいませ。このような刻限にお帰しするわけにはゆきませぬ」

「気にしてくれるな。一人で帰れる」

 以前であれば、薫子の側にはいつも「鮎女」という少女が仕えていた。噂で聞いたのはその人が死んだということ。それ以降薫子はそばに誰も置かぬようになり、そのせいでこうして誰にも止められることなく、館を抜けだすという「無謀」なまねをするようになったということであった。


「皆が、姫さまの御身を案じておられます。どうぞ、御身をもっと御大切になさってくださいませ・・」

「ありがたく聞いておこう・・」

 星明かりに慣れた目に、少し笑ったように見えた薫子の顔がふいに変わった。闇の中に視線を送り聞こえるものに集中している。悲鳴が聞こえたようだった・・

 腕につかまりかけた茜の手を反対に掴んで、薫子が闇の中へ走り出した。

「な・なんでございましょう?」

「悲鳴であったような気がする・・」

 突然止まった二人が見たのは、倒れているらしい人影とそれに取りすがるようにして呼びかけるちいさな女の子。


「あねしゃま!姉しゃま!!」

 茜が見たのはその二人だが、薫子が見ていたのは違った。その闇に立つのは奇怪な面をつけた人物だった。それと、闇の中へ走り去ろうとする数人の人影・・どうやらその仮面の人物は闇へ消えようとした者達を庇う様子であった。見たところ狩衣すがたである。怪しくないわけがない!


「茜、下っていよ」

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