風にふかれて
落ちるときって風がすごいんだ…。そんなことが頭に浮かんだ。
それは突然だった。
学校の階段で足を滑らせ、落ちたと思ったら、豪勢な部屋で目の前にはお茶会中の美男美女たち。
わ〜、眼福なんて思ってたら黒髪の美女に抱きつかれ、もがいてたら金髪の男前が引き離してくれた。
座らされて、お茶飲まされて、質問されて、異世界人認定されたら涙腺が決壊した。
帰るぅうううと泣き叫んだ気がする。あとはよく覚えてない。
いわゆる異世界トリップ。マー、ナンテふぁんたじー。結局ここに来た理由も方法もわからないままお城に保護された私。あの黒髪美女と金髪男前は女王様と王様なんだって。ほかにいた人達も神官長代理やらなんやら重要人物ばかりだったから、あっという間にOK。いいのか、これで?この国大丈夫かなぁ。心配になるよ。
そんなあの日から、はや一月。私、女子高生 17歳はただいま絶賛観察中。
何をかって言うと、お世話になっている月の城の女官長様と宰相様のバトルです。炎のような燃える赤毛の麗しの美女 女官長様(27歳 独身)と、氷の貴公子 宰相様(31歳 独身)の口げんかはこの城の名物なんだって。メイドさんたちが教えてくれた。
あと、この二人がいわゆる幼馴染だってことも。
うん、そうだよねぇ〜。幼馴染って、けんかしやすいよねぇ〜。遠慮がないから。
あ、終わったみたい。反対方向に分かれてくよ。あ、いつものことですか。
あんな美男美女がなんで独身なのか不思議に思ったら、女官長様は侯爵令嬢なのに結婚なんて冗談じゃないってさっさと女官になってがんがん出世して2年前に女官長になったんだって。宰相様は、結婚はわずらわしいって公言してるらしい。もうね、ご家族は諦めたらしいよ。この世界の適齢期は20歳前後らしいし。うん、それがいいね。
あれ?女官長様、こっち来る。
「こんにちは。ご不自由な点などございませんか?」
「いいえ、皆さんに良くしていただいてます」
「そうですか。お茶会の時間ですわ。ご一緒にまいりましょう」
そういって微笑むお姿は、極上の美。宰相様とお似合いなのにねぇ。もったいない。
女王様と王様はよくお茶会をなさる。それも完全プライベートの。
出席者は主に神官長代理とその奥様(王子様方の家庭教師をしている)、引退した副神官長で女王様の教師だった方、王様の親戚の神官とその婚約者。いわゆるブレインよね。
これに宰相様や女官長様が入ったり入らなかったり。ホントなんでここにわたしがいる?
今日の話題は、明後日の夜会。明日、王領の総督夫妻が年に一度の報告にやってくるので、その歓迎会だって。わたしは最初遠慮してたけど、女王様の押しに負けて参加することに…。
「もちろん、ドレス着るのよ」
あー、着られるのがおちだと思いますが。
で、現在、女王様のターゲットは女官長様。
「女官長も参加するのよ〜」
「い、いえっ、私は女官長としての仕事がっ」
「もう手配したから大丈夫。今回は侯爵令嬢としての参加ね〜」
「女、女王陛下!?」
「あ、エスコートは宰相だから」
にっこりと微笑む女王様。欠席裁判ですか、女王様。
「すまん、女官長」
王様に肩をたたかれた女官長様は絶句。ご愁傷さまデス。
二人が並ぶところが楽しみだわ〜とご機嫌の女王様。他の人達は生暖かい眼でぐったりしてる女官長をみてる。いいかげん素直になれと。
そうなの、女官長様と宰相様は両片思いなのよ!いや、初対面の私でもわかったよ?
城中にバレバレ、知らぬは本人たちだけ。なんでも、あなたが宰相になれるわけない、お前に侍女がつとまるわけがないと言い争って早10数年。意地張りすぎでしょ、二人とも。私だって、さすがにそこまでは…。どこかでけじめはつけると思う…よ?
さてさて、夜会当日です。
見事にドレスに着られてます。さすがにピンクのフリフリは断固拒否。七五三になるのは目に見えてるもの。すったもんだあってグリーンのシンプルなドレスになりました。うう、動きづらい。
エスコートは第一王子です。私よりいっこ上。思わず女王様と母を比べてしまった。ごめんなさい、お母さま。王子に私なんかのエスコートでいいんですかと聞いたら、今婚約者が王都にいないんだって。しばらくのろけ話につきあわされましたよ。
総督は大きかったです。総督夫人は私より身長低くて、30過ぎには見えないかわいい方。夫婦並ぶと熊とリスだと思ったなんて言いません。仲良さそうでいいなぁ。私もいつかはああなりたい。隣には…。
女王様も王様もいつも以上に美しい。お二人の客人だと紹介してもらい、夜会が始まった。
でも、その夜の話題はやっぱり女官長様と宰相様の組み合わせだった。盛装した二人のゴージャスなこと。登場とともに歓声とため息が場内を飛び交う。ついで、なにかあるのではないかという憶測も。
しばらくして、女王様と王様が席をはずし、すぐ後に女官長様と宰相様が呼ばれていった。それをじ〜っとみていると、王子がこっそり声をかけてきた。
「気になる?」
「ならないといったらウソですね。王子はなにかご存知なんですか?」
「さすがに、父と母もしびれをきらしたみたいだよ。おいで」
王子に連れられていくと、小部屋から声が…。女王様、わざと扉しめなかったな?なんか、もめてるっぽいぞ。
「なぜです、なぜ私たちが…!?」
「お考え直しください」
宰相様と女官長様が必死に訴えてる。
「いや、これは決定事項だ。お前たちの結婚はこの国の未来のためだ」
「これから、婚約を発表するわ。少し時間をあげるから、二人で話し合いなさい」
おお、王様女王様、統治者の顔だわ〜。結婚を命じたか。でも、よけい意地になるんじゃ…。
女王様はすれ違いざまにウインクして私にささやいた。
「あとはよろしくね」
え〜、丸投げ〜!?
仕方なく、苦笑する王子とともに女官長様と宰相様を見守る。あああ、二人ともギクシャクしてる。
「…王命です。拒否はできません」
さ、宰相様!何言ってるの。女官長様傷ついた顔してるじゃない!目そらして見てないからわからないのか!?
「それ、は…私と、結婚するということですか?」
「お互い思ってもみないことですが、国のためです」
「そうですね、…わかりました。私も女官長としてこの命令お受けします」
宰相様の口元が一瞬ゆがんだのを見て、私はもう我慢できなかった。
「だめだよ!」
王子が止めるのを振り切って、部屋へと駆け込む。
「ちゃんと言わなきゃ、だめだよ。幼馴染だって言わなかったら伝わらないこともあるんだよ?いつ何があるかなんて、わからないんだよ?離れ離れになってから、後悔しても遅いんだよ!私なんて…もう会えるかどうかもわからない…」
そういってぼろぼろ泣き出した。そうだ、私にも幼馴染がいる。幼稚園から高校まで、ずっと一緒だ。好きだけど、それを言う勇気はなかった。言って気まずくなって関係が終わってしまうのが怖かった。
でも、あの日教室で幼馴染が告白されてるのを見て、私はうろたえてしまった。そして、階段で足をすべらせて…。
泣きじゃくる私を女官長様が抱きしめてくれる。
「ごめんなさい、心配かけてしまって。私が臆病だったから」
それを聞いた宰相様が私の頭をなでて「すまなかった」と言った。思わず宰相様を見上げる。
「あれを言うのは君にとってつらいことだったろう?臆病だったのは私もだ。今までの関係を壊すのが怖くて意地を張って、そこから抜け出せなくなった。情けないな」
自嘲気味に笑う宰相様の腕をとって、女官長様が首を振った。
と、宰相様がその手をとり、跪いた。
あぁ、女官長様、もう顔真っ赤だ。
「お慕いしています。結婚してくださいませんか?」
「…は、い」
女官長様が消え入りそうな声で答えると、宰相様はそれはそれは優しく微笑んだ。
その後、婚約が発表されて夜会はお開きになった。女王様も王様もご機嫌だ。
「うふふ〜、うまくいったわ。あなたを呼んだ甲斐があったわね」
「え!?」
女王様、今聞き捨てならない発言が!
「私たちが君を呼んだんだ。君の心の叫びがここまで届いてね」
「同じ気持ちのあなたなら、何とかしてくれると思って。ありがとう」
「ええ〜!?」
もう、なにがなんだかわかんない!!
女王様はにっこり笑うと私の肩をトンと押した。
ちょっ、いま私ははきなれないヒールで…!私はスローモーションのようにゆっくり倒れていく。あの時のように、風がふいてる。
「大丈夫、風が運んでくれるわ」
ふっと気が遠くなった。幸せにねと聞こえた気がした。
誰かが私の名前を呼んでる。うるさいなぁ。今起きるよ。
うなりながら目を開けると、そこには青ざめた幼馴染のどあっぷ。わお、心臓に悪い。
あれ、てことは、戻った?学校だ。ドレスじゃない、制服着てる。ぼうっと見回してると、幼馴染にゆすられた。
「おい、大丈夫かよ!」
「だ、大丈夫。え〜と、私…?」
「お前階段から落ちたんだよ。頭は?うってないか?」
「うん、多分」
「は〜、よかったぁ」
幼馴染が座り込んだ。あの…私より具合悪そうなんですけど。
「……ったからな」
「え?」
「さっきの。お前見てただろ、断ったからな」
さっきの…?あ〜、告白の子か!私からすると1ヶ月前のことだからね、一瞬わかんなかったよ。
「う、うん」
幼馴染はまだ何か言いたそう。いつもなら、ここで私が話題をそらすか、逃げる。でも、今日は違う。女官長様と宰相様に言った言葉は本当だ。もう二度と幼馴染に会えないかもしれないと思ったとき、自分の気持ちを伝えておけばよかったと思った。だから、勇気を出して一歩踏み出してみよう。
ふわっと風が背中をおす。
「あのね、私…」
幼馴染の笑顔は、宰相様と同じくらい優しかった。
fin