アンナ=楠杏奈編 第三部
「ちょっとぉ!杏奈ぁ!今朝の子に『友達になろ?』って言ったってホント!?」
それこそ、もう少し顔を近づければキスしそうなくらいの位置で
恵美が叫んだ。
「ホント」
私はしれっと返した。
「私絶対反対!あの子、私の嫌いなタイプ!」
恵美はまだ怒っている。うるさい。
「いいじゃん。私の勝手で」
「杏奈ひどーい!」
周囲に人がいないことを確認して、私はこそっと呟いた。
「カモだよ。騙しの」
「・・・マジで」
恵美がにったりと笑った。私の詐欺を知ってるのは恵美だけ。
「ならいいや。許す」
・・・あんた何様よ。まぁ、これは恵美を黙らせる口実だけど。
「じゃ、帰るから」
「うん。じゃ、バイバイ」
学校のすぐそばにリムジンがあった。
「お帰りなさいませ。お疲れ様です。お嬢様」
私は何も言わずに車に乗った。
「ねぇ、じぃ。鮎川って財閥あったかしら?」
隣に座っていたじぃにふと聞いてみる。
「はい。ありますよ。楠財閥と同等くらいの大企業です」
「その鮎川に、麗って娘、いる?」
じぃは窓を開けて言った。白いひげが揺れた。
「はい。いますよ。一人娘の麗様。お父様にたいそう可愛がられて
いるようで」
「ふぅーん」
ちっちゃな背中をクッションに押し付け、
恵美にどう言い訳するかを考えた。
「・・・・寒いわ。じぃ。閉めて頂戴」
「かしこまりました」
ウィーンと音を立てて窓が閉められた。
「えぇえ!?あいつ財閥娘!?」
「うん。しかも!一人っ子」
「あー・・終わったね」
「でしょ。計画取りやめ」
「じゃ、友達やめよー!ね?」
「昨日の今日じゃ無理」
「えー・・分かったよぉ」
「じゃ、バイバイ」
「んー、バァイ」
恵美の事は丸く収まった。
後は、明日どうあの子に接するか・・・・・・・・