コウヤ=高野瑞貴編 第二部
学校が一番好きだったから、家に帰るのが憂鬱だった。
家にいるのは、ヒステリックな母と、無口な父と、
ゆういつ優しいのは、姉だった。
「お帰りぃ!瑞貴!どーぉ?部活やらせてくれた?」
「ううん。ダメ。ねーちゃんはいいよな。美術部だし、楽だし」
姉の、高野瑞華は美術部に入っていて、たくさん絵の賞をもらっていた。
「じゃぁ、美術部はいれば?今ちょーど部員募集中!さー!そこのお兄さん!入った入った!」
「冗談じゃねぇ!絵ェかくなんてやなこった!」
笑いながら、姉は夕食を作っている。母も父も夜遅く帰ってきて朝早く出て行く。
母の料理なんて、年に指折りで数えられるほどしか食べない。
まぁそのほうが楽でいいけど。
「ねー、どうしていつも部活できないのさ?」
夕食を食べているとき、いきなり姉が切り出してきた。
「え!?」
「どうしていつも部活できないの?ねぇチャンに全部はいてみな」
「・・・やだ!・・・」
姉はにかりと笑った。
「ま、知ってるけど〜」
「な!?」
「宿題してないんでしょ。亜里沙チャンが言ってたよ〜ん。
あの子いい子ね。ソフトボールしてるけど。美術入ればいいのに」
あのアマ〜!!と、内心ぼやきながら、俺は味噌汁を飲み込んだ。
でも、何で亜里沙が言うのか分からない。
「あーゆー子、美術部にほしぃなぁ・・っ!」
ご飯を片手に、姉は夢を語っていた。
俺は、食べ終わった皿を適当に水の中に放りこんだ。
「ちょっと!後片付け大変なのよっ!ちょっと!?きいてるっ!こらぁ!」
「へいへーい。ごちそーさま」
適当に返事をして、内心うっとおしいと思いながら、階段をのぼる。
まだ、下のほうからわんわん喚く声が聞こえる。
コノ声が、もうすぐ聞けなくなるなんて、思ってなかった。
朝、俺は母の濁声で起きた。最悪の朝だ。
無口な父は、俺と姉が「いってらっしゃい」と言っても返事を返さず
朝から機嫌の悪かった母は、不倫相手の恋人がくるなり
「いらっしゃいっ」とニコニコ笑って、父が出て行った10分後に
軽い足取りで出て行った。
「世の中終わりね。腐ってる」
「ふつー子供の前で不倫相手といちゃつくか?ふつー」
「まーねぇ・・・。ん?きゃぁ!大変!学校遅刻!早く早くあんたも急いでよ!」
姉と笑い転げながら、坂道を自転車で駆け下りる。
そんな毎日も、今日で終わり・・・・・・・・・・・・・・・。