ミーウェイ=木村未兎編 第七部
正直言って、びびった。
今、あたしの手を掴んでいるのが、あたしと同じ犯罪者だなんて・・・
「えーと・・もうめんどくせーからズボンでいいだろ。
風呂も貸してやったし、文句言うなよ」
「貸してやったって・・・あたし貸してなんて頼んでないもん」
風呂のガラス越しにあたし達は喋った。
外からは救急車の音と、パトカーの音。
きっとあたしを探しているはず。
「ここからそう遠くないからな。
お前を探してるんだろ」
「うん。多分ね」
「お前、怖くないのか?」
「うん。全然。後、あたしはお前じゃなくて、未兎って
名前がちゃんとあるの」
風呂の湯を手で掬ってぽたぽた落とした。
連想するのは、血。
そういえば、由香里の遺体は発見されたのかな。
今はもう、死体なんて怖くない。
ゆういつ怖いのは、生きているあたしと、その周りの人間。
きっと、サークルの 仲間が通報して、警察で取り調べ受けて
あたしのコトぜーんぶ話しちゃうんだろうな。
瑞貴は怖くない。
同じ犯罪者だから。
「おーい。なんか一人でしんみりしてるところ悪いんだけど
もう水風呂になりかけてるんじゃねーの?」
「え?あ、冷たっ!水だぁ!きゃぁ!」
「バーカ」
「うるさい!」
「で、これからどうするよ」
あたしは、貸してもらった布団の上で、瑞貴が発した言葉を返そうと
頭の中で言葉を探した。
「ん〜・・。どーしよっかな。
ずっとココにも居られないし、家にも帰れないし、
あー、困ったわ。どーしよ」
「全然困ってる様にみえねーんだけど」
あたし達は、ぼーっと考え込んだ。
でも、あたしの考えてることは
これからの事じゃなくて、
「お腹すいたなー」とか、「コンビニ行こうかなー」とか
「カラオケ行きたいな。マンガも読みたい」とかの
くだらない事ばっかり。
「思いついた!おい未兎!思いついたぞ!」
「え?何が?明日の朝ごはん?」
瑞貴がぶすっとした顔であたしを睨みつけた。
「ちげーよ。これからお前がどう生活するかのコト!」
「あ・・あぁ、それね。で、どーなったの?
できるだけマンガ読めて、ご飯がたくさん食べられるとこがいいな」
瑞貴があきれた顔であたしを見た。
確実にレベルが下に見られていたので、あたしも瑞貴を睨んだ。
「俺の友達が経営しているカフェに来い。
明日明後日から、俺もそこに移住しようと思ってる。
だから一緒に来い。ついでに、カフェは手伝ってもらうから」
「えー。寝床が見つかったのはいいけどめんどくさい〜」
「文句言うな、ボケ」
「うっさい、カス」
あたしがそっぽを向くと、瑞貴はイライラした表情を見せた。
「このワガママ女。人の世話になっておきながら・・・」
あたしはその表情を見て、クスリと内面で笑った。
あたし達は午前3時という早朝に起き、
のろのろと身支度を始めた。
「こんな早く起きたのはじめてだ〜。
眠い〜」
「朝方になったらサツが家の周りに来るからな」
あたしの目はがばっと覚めた。
「えええ!?困る!あたしきっと死刑だよ〜」
「俺も捕まったら死刑だろうな。つーかお前、昨日の冷静さが消え失せたぞ。
俺は指名手配犯になってるからな。そのうちお前もそうなるよ」
バタン。
ガチャン。
家のドアと鍵を閉め、あたし達は近くのカフェへと向かった。
外は以外にも寒かった。
あたりは闇だった。
その中で、あのカフェは赤々と輝いていた。
「あそこだよ。あのカフェ」
「ふ〜ん」
カラン・・・・・
中は普通のカフェっぽかったが、客が一人もいない。
そりゃそうか。午前3時ったら朝って言うかまだ夜だしね。
「瑞貴〜。やっぱこっち来ることに決めたんだ?
あ、女の子なんか連れてきちゃって。こんにちは」
あたしはぼぅっと店内を見ていたので、びっくりして頭を下げた。
「こ・・こんにちわ!」
そのとたん、頭をテーブルにぶつけた。
「きゃあ!痛い〜〜っ!!」
「ばーかばーか」
「馬鹿じゃないもん!!」
(いつか見返してやるんだから!)
こんな生活でもいいな、と
あたしは、思っていた。