ミーウェイ=木村未兎編 第五部
グロテスクシーン有
御注意。
あたしは、その日はじめて、ヒトを殺した。
「お母さん!私を家から出してよ!未兎を悪く言わないで!」
「だめよ、由香里。あなたはこの家でも一番期待しているの」
由香里は、泣きながら部屋をでた。
待っていたのは、姉と弟。それと、この家に代々仕えている執事。
「由香里。お母さんの言うことも分かってあげなよ
あれはあれで、あんたの事が心配なのよ」
「お姉ちゃん。大丈夫?泣かないで。僕、お姉ちゃんの泣いてるとこ
見たくないよ」
「お嬢様・・・」
あたしは、ただひたすら、由香里の家を目指して歩いた。
それが、あんな事になるなんて・・・
あたしは、暗闇の中から未兎の家を覗いた。
でっかい家だった。大半の部屋に電気がついていない。
きっと、女中とかメイドとかいるんだろう。
なんてことを思いながら、窓を睨みつけていた。
すると、窓にびちゃっと液体がついた。
あたしはびっくりした。
由香里の母がヒステリーでも起こしているんじゃないのかと思った。
でも、違った。
窓に人の形らしきものが当たって、ずるっと床に張り付いた。
間違いない・・・・・・
殺人事件が起こっている。
あたしは随分と長い時間、その場から動けなかった。
もう4・5歩歩けば、由香里の家なのに、その茂みから動けなかった。
(なんで・・なんで誰もこの騒ぎに気づかないの!?)
よく見ると、周りに家がなかった。
それほど金持ちだったのか。
「やめてぇぇーーーっ!」
その声で、はっと我に返ったあたしは、走って家の中に飛び込んだ。
「由香里!だいじょ・・・!?!?」
入った瞬間にしたのは、大量の血の臭い。
目に飛び込んできたのは鮮やかな赤。
人の形を成していない、死体。
その真ん中に立っていたのは
由香里だった。
「・・未兎・・。来てくれたんだ・・・。ありがとう
でも、皆殺しちゃった。これで、私は自由だよ・・・」
「由香里・・・・!!」
「ねぇ、未兎。2人で生きていこうよ。自由に。好きなように。
私も分かったよ。束縛される苦しさが・・・・」
ぺた、ぺた、とあたしのほうに、由香里は近づいてくる。
あたしは、いきなり全身を恐怖感で包み込まれてしまった。
そして、逃げるように二階へ走った。
たくさん部屋があった。
走りながら、逃げ込む部屋を探した。
「未兎、待ってよ。私、未兎を殺す気なんてないよ?」
「ひぃっ!ち・・近寄らないで!人殺しィィィィ!!」
「ひど〜い。未兎。傷ついたよ・・・・・」
あたしは、一つの部屋に駆け込んだ。
幸運なことに、金属バットはまだ持っていた。
一呼吸おいて、あたりを見回すと、そこは
由香里の姉の部屋のようだった。
机の上にノートがあって、名前に「佐藤亜香莉」と書いてあった。
難しい名前。きっと「あかり」って読むんだろう。
悪いとは思ったけど、ノートを開いた。
日記だった。
「今日も、由香里とお母さんは喧嘩した。
由香里の泣き叫ぶ声と、お母さんのヒステリックな声が混ざっている。
悲しい。有紀も泣くまいと、耳を塞いでいる。
やめてほしい。なにもかも終わればいい。」
次のページを開くと、花や星がたくさん書かれていた。
「今日、由香里に友達ができたそうだ。名前は未兎ちゃん。
昨日泣いていたあの子が嘘みたいだ。でも、また喧嘩した。
帰って来るのが10時を過ぎていたから。由香里は平気そうだったけど
由香里。未兎ちゃんといつかあわせてね!」
あたしは、由香里以上に傷ついている人もいるのだと
涙をつたわせながら日記を読んだ。
最後のページにさしかかろうとした時・・
ドン!ドン!と部屋の向こうから音がした。
「未兎。ここにいるでしょ。早くあけてよ」
あたしは恐怖感が混じったが、かまわず日記を読んだ。
最後は、遺書だった。
「由香里は私たちを殺している。
もうすぐ私の番だろう。
だから、私が死んだら、これを未兎ちゃんに渡してほしい。
未兎ちゃん。由香里を攻めないで。
あの子は、可哀想な子だから。
あぁ、部屋の戸が叩かれてる。
私、どうやって死んじゃうのかな。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!
由香里はあんな子じゃなかったのに」
最後のページには、涙のあとがたくさんあった。
バン!!部屋の戸が開いた。
「未兎見っけ。さ、行こ」
あたしは、バットをもったまま、由香里の後を付いていった。
あの日記は、あたしがあのページだけ破って持っていった。
「星空がきれい・・・。私、こんな遅くに外出たの初めてよ・・・」
林の中を、踊るようにして由香里が歩いた。
にたっと笑う。
怖い
寄るな
近づくな
汚い
殺される
いろんな思いがあたしを駆け巡った。
コロセ
あたしは、自分の命令に、素直に従った。
「由香里。ゴメン」
ドカッ!バットが由香里の頭部に直撃した。
「ぐぁぁぁぁぁあああああ!」
「死ね!死ねぇぇぇぇ!消えろ!嫌だ!あああああ!!」
数分後、自分の目の前に広がったのは
汚い血。
友の死体。
あたしは、友達を
この手で
死ねと叫びながら
殺してしまった・・・・・・・・・