ワールド in BOX
ごくごく短い短編です。
カラカラカラカラ
小さな荷車を押して
箱売りがやってくる
「おじさん、箱ちょうだい」
毒々しい色のピエロのような恰好をした男に、少年が駆け寄る。それに答えて男は操り人形の様に不自然に首を傾げ、笑みを浮かべた。
「赤に青に黄色に緑。いろんな色があるよ。どれにする?」
少年は「うーー」と唸り声をあげながら考え込む。男が引いてきた荷車の上には、様々な20センチ四方の箱が乗っていた。
「じゃあ……、この白いの!」
小さな男の子は意を決したように表情を明るくすると、たくさんの箱の内のひとつを指さした。箱売りは表情一つ変えず、ゆうるりとした動きで握りしめられて温かくなった硬貨を受け取る。少年は両手を大きく前に出した。
「毎度」
その両手にやっと抱えられるほどの白い箱が渡される。軽い足取りで立ち去る少年に、箱売りは小さな会釈をし見送った。
大きな暖炉のある広い居間。昼間はまだ暖かいせいかそこに火はない。少年は買ってきた箱を苦労しながらテーブルに乗せると、期待に満ちた表情で箱の側面を見た。そこには長方形の穴が開いている。
少年は穴から見て右手の側面から出たデコボコ型のレバーをクルリクルリと回した。穴から見える箱の中で白い物体が降り注ぎ、小さな人形がゆっくり動き出す。雪の日の光景の様だ。
少年は歓喜の表情を浮かべた。
箱の中で人形がゆうるりと動き、物語を奏でていく。少年が目を輝かせて、箱の中の少年の人生を見つめる。一通りの話が終わったところで彼に声がかけられた。
「今日はどんなお話だったんだい」
優しそうな白髪の老人が、杖を突きながら歩いてくる。逆の手には薪を抱えていた。いつの間にか日も暮れて、少し肌寒くなってきている。少年は少し悲しげな表情で、老人の方を振り向いた。
「今日のは少し悲しいお話だったよ。最後は雪の中で少年が死んでしまうんだ」
少年は泣きそうな表情になる。薪を暖炉に組み終えた老人は、少年に近付き優しく頭を撫ぜた。
「色々な人生があるんだよ。箱の中にも、ここにも、ね」
小さな男の子は綺麗な涙をひとつ零した。
老人がゆっくりとした動きで暖炉に火をともす。赤い火がぼうっと部屋を染めた。
赤い箱の中の暖炉に火が灯る。その火は不自然にゆらゆら揺れた。
「また箱を見てるの? 続きは後にしてご飯にしましょう」
髪を束ねた女性が、箱を覗き込む少年に声をかける。彼は渋々といった感じで口をとがらせた。
「それでそんな話だったの?」
料理の乗ったプレートを少年の前に置きながら、女性は尋ねた。少年はふてくされた顔をする。
「まだわかんないよ。途中で止められたんだもん。でも、少年とおじいちゃんが出てきたよ」
「そう、続きが楽しみね」
テーブルの向かいに座る母親の言葉に、少年は大きく頷く。そして目を輝かせて笑った。
箱売りがやってくる
様々な色の箱を荷車に乗せて
様々な人生を荷車に乗せて
カラカラカラカラ
箱売りがやってくる
不思議な雰囲気を目指して書きました。




