噂の
夜中急にひらめき、特に取材や調査もせず書き上げたものです。どうかちょっとした娯楽作品としてお読みください。
「落ちちゃった……」
ヴィオーラは小さなため息をついた。
彼は戦闘機のパイロットで、先ほど敵のミサイルによって撃墜された。いまごろ愛機は空中にチリとなって浮かんでいるだろう。
彼が落ちた場所は森林の中。まだ敵も味方も立ち入っていない場所だ。
友軍の居る方向は落ちてくる途中に確認した。とりあえず、そちらに向かって歩くことにした。
数十分歩くと、敵の遺体を発見した。このへんで戦闘があったのだろう。いや、まだ継続しているかもしれない。
ヴィオーラは身をかがめ、木の陰に隠れる。手にはハンドガン一丁。
耳を澄ますが、風とときたま遠くで鳴る爆発の音以外は衣擦れの音すら聞こえなかった。
おそらく、敵は居ない。居てほしくない。
敵の遺体に忍び寄る。装備を拝借したいが、敵の銃器を使うことはあまり勧められたものではない。発砲音で敵と誤認される。敵味方の共通装備を探そう。
辺りを見回すと、敵だけでなく味方の遺体もあった。マシンガンやRPGを装備している。これを貰おう。ヴィオーラはRPGの肩ひもを丁寧にはずし、マシンガンを拝借すると、名前も知らない兵士に右手で敬礼をし、立ち去った。
そこから少し歩くと、森林が途切れる。ヴィオーラは草むらの中に身を潜める。
どうやらすぐそこで交戦しているようだ。けっこう近くで銃声が聞こえる。
枝の間から外を伺う。敵味方合わせて十数人が交戦している。どうやら先ほどの遺体と同じ部隊らしい。戦ううちに移動していったのだろう。
ここから撃てば当たるだろうか。先ほどの遺体の装備を思い出す。敵の装備も近距離のものばかりだった。こちらから撃って当たらなければ、あちらの弾も当たらないだろう。
そう思ってRPGを構え、最低限身を乗り出して撃った。
みごとに着弾。敵が狼狽する。
位置を特定されては危ない。すぐに移動する。
味方の後方へ回り込むように移動。草むらから飛び出し、友軍めがけて突っ走る。
意外に敵の攻撃もなくすんなりと合流。
一瞬ヴィオーラに銃を向けた陸軍兵はヴィオーラの軍服の色を見てすぐに銃をおろした。
「さっきのRPGはあんたか」
陸軍兵が質問する。
「ああ、少しは助けになったかな」
差し出された手を握る。
「けっこう助けになったぜ」
陸軍兵はヴィオーラの右肩についた紋章を見て絶句する。
あんた空軍か、と。
そういえば戦闘機パイロットらしい装備はうっとおしいから全部捨ててしまっていた。
味方は近いしすぐ合流できると思ったからだ。
おそらく、陸戦に不慣れな空軍兵がRPGをぶっ放したことに驚いたのだろう。もしくは、なぜRPGを持っているのかとか。
「ちょっと、落ちちゃって」
ヴィオーラはそう言うとその辺に転がっていたヘルメットを被り、マシンガンを持ち直した。
「それじゃやろうか」
おい、と静止する陸軍兵を無視して、銃を撃っている兵の隣へ。
分厚い岩の陰から敵軍へマシンガンをぶっ放す。
当たったかどうかは解らないが、とりあえず撃ちつくす。
そのうち銃撃音は少なくなり、やがて消えた。
ヴィオーラの隣に居た兵士が口笛を鳴らす。
やっと終わったな、と言うと、ヴィオーラの顔をみて絶句した。
「あんた誰だ、俺はてっきりアドリアーノかと思っていた」
空軍のパイロットだと自己紹介するとさらに絶句した。
まさか、あのパイロットか、と。
それを聞いて他の兵士たちも視線をヴィオーラに向ける。
そう、こいつがかの有名な、必ず陸軍の戦線に出没するパイロットなのかと。
「薄々、そんな予感はしていた」
ヴィオーラに銃を向けた陸軍兵が言った。
一方当のヴィオーラはさっさと本隊に合流する気で、そんなことはどうでもいいから早く行こう、と皆を急かすのであった。
ありがとうございました。感想や批評など頂けると非常に喜びます。