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魔王城のメイド  作者: 中路太郎
接近遭遇編
6/53

第五話 5分

 地を這う大蛇のようにくねっている街道をはるか見下ろして、アイルネはぞくりと背筋が緊張するのを感じた。

 ここから落ちでもしたら、一体どうなるのだろう。

 多分死ぬと思うのだが、こんな高さから落ちた知人はいないので、やはり落ちてみなければ分からない。

 それでも、どこかに得体の知れない恐怖心はあるようで、なるべく視線を下にしないようにしながら、アイルネは男に声をかけた。

「あ、あのう、それで私にお願いとは一体なんなんでしょうか?」

 そう言った途端、ふと、アイルネは可笑しくなる。

 お腹のあたりが熱くなり、笑いの衝動がこみ上げてきた。

 笑声を聞きとがめた男が、怪訝そうな顔付でこちらを見てきた。

「どうした?」

「い、いえ、なんだか可笑しくて、私は今空を飛んでるんですね」

 考えてみれば良く分からない状況だ。

 人かどうかも分からない有翼人にらっせられ、まるで猟師に仕留められた獲物のように小脇に抱えられた体は、だらりと四肢を落としている。

 それも、ワケも分からずつれてこられた空の上で、何か頼みごとを聞こうとしているのだから、改めて思うまでもなくコレほど奇妙な体験もないだろう。

 今この瞬間だけかもしれないが、お坊ちゃまにいい土産話が出来たとすら考えた。

「いいね、肝の据わった嬢ちゃんだ」

「じょ、嬢ちゃんはやめてください。……多分事態を飲み込めてないだけです。ですから、もし突然叫びだしても、お手を離さないで下さいましね」

 男の感心したような声にも、なんとか冗談を返すことが出来た。

 笑った事で、幾らか余裕が出来たらしい。

「それならいくら叫んでも良いようこの辺で降りるか」

 男はどこか嬉しそうにそう言うと、右肩を四十度ほど地面の方へと傾けた。

 返事をする暇も無く、グンッと前後に力が掛かる。

 バサリと一度羽ばたく音がして、ゆっくりと高度が下がり始めた。

 近づいてくる地上を、なんだかちょっとだけ残念に見つめながら、アイルネは黙って男の意思に従った。

「到着」

 地面に足が付くと、男は腕から力を無くしてくれた。

 唐突に重力の蘇った体は、どうしてか妙にふらついている。

「な、なんだか体がゆらゆらするのですが」

 幸いな事に、この場には二人が空から降りてきても驚く人間はいなかった。

 アイルネの言ったことを覚えてくれていて、わざわざそういう場所を選んでくれたらしい。

「ああ、無理もねーな。空を飛んだ事で今は頭と体の感覚にずれがあるんだろ。しばらくすりゃ治る。……さ、存分に叫べ」

 どこまでも生真面目にそう言い手を広げる男に、アイルネはポカンと口を開けた後、再び声を上げて笑い出した。

 なんだか、本当に叫びだしてしまいたい気分だった。

 不思議そうにキョトンとしている男の顔を見て、笑いの衝動がまた顔を出し、詳しい事情を聞くことが出来たのは、それから五分程たってからだった。




試みは兎も角サブタイが誇大広告気味。

なんとなく緊迫感溢れるタイトル。でも全然溢れてない。溢れない。


本日のbgmはHi-STANDARDの『Please Please Please』でございました。

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