第四十七話 カイルとアイルネ
実質最終章という事になりますが、章分けするほどのことでもないかなーと思うのでこのままで行かせて頂きます。
統率のとれていない集団が、目の前を走り去った。
大掃除の後とはいえ、バラバラの足音が埃っぽい匂いを二人の鼻に届ける。
深夜を迎え、魔王城はにわかに騒がしくなっていた。
煌々と灯りが照らされ、眼を覚ました仕掛けの数々が大きな音をたてて歯車を回す。
叩き起こされた兵たちが慌ただしく城内を走り回り、片隅でトロルが肩を落としていた。
「う、うごうあう?(訳:ど、どうした?)」
「あううごうご? ごるごるごる……(訳:娘におじたん誰? って言われた……)」
「……お、おおう(訳:……お、おおう)」
目の前の光景に、アレックスはため息のような声で呟いた。
「……ここを出る前の状況とあまり変わっていないな」
それどころか、事態が逼迫している分、なお混乱が激しように思える。
ごうんと、一際大きな音が城全体を震わせた。
衝撃で、天井からパラパラと小石が降ってくる。
カイルはそれを手で避けながら口を開いた。
「そんな事ないだろう。アイルネいないし」
「それは悪化だ」
冷静なツッコミに肩をすくめる。
「……本当に帰してよかったのか?」
今こそ彼女の助けが必要な気もするのだが、しかし、カイルの返事は適度に無責任なものだった。
「何とかするしかないだろうな。勇者が来るとなると、何かあった時流石に守りきれんだろうし。タイミング的にはこれで良かった」
どうも納得しきれていないようなアレックスの視線に、それに、とニヤつきながら付け加える。
「アレックスがいない間、こう見えてこいつらもミッチリ鍛われたからな。アイルネがいなくてもなんとかするだろ」
カイルが言った瞬間、眼の前の扉がバンと開いた。
水の中で喘ぐように飛び出してきた若い兵士の体を、四本の細い腕が絡めとる。
「どこ行くの?」
「な、なんだか呼ばれたような気がして! そ、その、本当にここに勇者殿が居るんですか!!?」
「本当だってば~」
「ほら一緒に探そ探そ♡」
「で、でででですが、こ、ここは寝室で、そ、その、そ、そこはべ、べべべべベッd……」
――バタムッ。
「……そうは思えないが」
ワンダーランドへの口が閉じた扉を見つめ、アレックス。
「うん、そうは思えないな」
呑気に頭を掻きながら、カイル。
アレックスから、胡散臭いものを見るような眼で見られる。
訪れるどうしようもない沈黙。
半泣きの兵士が走ってきて、二人の前で足を止めた。
「ぬーうあぁぁぁん、親方ぁぁぁー! 帰ってきてぇー!」
二人に気がついた様子もなく、両手で頭を抱えながら、天を仰ぎ叫んでいる。
駆け去って行く彼の背中を見つめながら、
(……これは、ダメそうだ)
微妙な真顔のまま、二人は同時にそう確信したという。
――きっちり三十分前。
カイルとアイルネの姿は、魔王城南側ベランダにあった。
最後の一幕になります。
色々、放ったらかしの事もありますが、これは一応アイルネの物語なので(とてもそうは思えないけど)、お話しの中ではもう触れることはないと思います。
あとは読んでくださる方のご想像にお任せを……とかは、僕自身が大嫌いなので、おまけにでも、アホみたいにべらべらネタバレしたいと思いますw
それでは、読んで頂いてありがとうございました。