第四十三話 確実に嫌がらせ
では、どうぞ。
「んぶぶ」
突然何かで顔を覆われて、アイルネは思わずうめき声を上げた。
慌ててそれに手を伸ばすが、やたらもこもこするばかりで、一向に取れる気配はない。
もこもこして、手触りは軽くてソフト、ほのかに暖かく――若干獣臭い。
ただでさえ息苦しくなって、アイルネはそこから逃れるように無意識で一歩下がる。
それだけのことで、息苦しさから簡単に解放された。
「ふー」
一息つくと、暗かった視界が戻ってくる。
そこに見えたのは白い翼で、どうやら顔を覆っていたのはあれらしい。
「カイルさん?」
羽根付きの知り合いなんて一人しかいなかった。
その人の名前を呼ぶと、明るい声と共に、涼しい顔付きで思った通りの人物が振り返る。
「怪我はないか?」
いまいち現状が理解出来ないが、言われるがまま全身を確認してみる。
当然のように擦り傷一つ存在していない。
「してませんけど……えと」
一体何が、と続けようとした時、ヒステリックな甲高い音が響き渡った。
カイルの前方で小さく火花が散る。
「おっと」
彼の手には剣が握られていた。
それが、次々飛来するナイフをたたき落としていく。
それを目にした瞬間、網膜に刻まれた鈍い輝きが、アイルネの脳裏に蘇った。
直前までの出来事を思い出して、アイルネは慌ててシドの方を見た。
すると、シドはアイルネに向かってパチリとウインクをしたかと思うと、まるで踊るような動きで右手を振るった。
銀色に光るナイフが一直線にこちらに飛んでくる。
寸分たがわずアイルネの顔に向かって軌道を描くそれは、カイルによって志半ばで地面へと撃墜された。
「あ、ありがとうございます。……でも、どうして?」
ペコリと頭を下げて聞いてくるアイルネを見て、カイルがフッと笑う。
「ここの所、ずっと様子がおかしかっただろ」
「あ」
やはり気がついていたのだ。
動揺するアイルネに、カイルはいつものイタズラ好きの顔を見せる。
「だから、一度アイルネの意識から外れて影から様子を見るつもりだった」
どうやら、ただ窓から飛んで逃げただけではなく、そういう心づもりがあったらしい。
アイルネは相手の目を窺うように、おずおずと上目遣いで口を開く。
「……後付け?(←疑わしげ)」
「違ーう」
真顔で返すカイル。
そんなやり取りをしている間も、ヒュンヒュンナイフは飛んできて、ガンガン叩き落とされている。
「ちょっと、あなた達そんな事話し込んでる余裕「え、それじゃあ本当に全部見てたんですか?」聞きなさいよ!」
シドが何事か叫んでいる。
真顔のままカイルは一度そちらに向き直り、しばらくシドのことを見ていたかと思うと、再びくるりと背を向けてアイルネと向かい合う。
「うん。最初から全部見てたし聞いてた」
「……あれ、あたし今改めて正式に無視され「それなのに、助けてくれたんですね…」聞きなさいよ!」
いや、それは聞かなくていいだろ。
ナイフを投げるのも忘れ、絶叫するシド。
精神的に攻撃されているのか、単なる嫌がらせか。
多分、単なる嫌がらせだった。
酷いことを言われる→リアクション、というのがちょっとマンネリでしたので。
オカ魔さん可哀想……。
では、読んでいただいてありがとうございました。




