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魔王城のメイド  作者: 中路太郎
細腕奮闘編
42/53

第四十一話 なにもかも

三十八話の続きです。

 ひんやりと、足元から夜の気配が迫っていた。

 城内が薄暗く陰る中、シドは目の前の少女の真意をはかりかねている。

(……えーと、何事?)

 こちらに向かって深々と頭を下げたアイルネは、さっぱりとしたような表情で顔を上げた。

 ――いやいやいやいや……何その爽やかな顔……。

 勿論、断られるという可能性はあった。

 だが、シドはその可能性を切り捨てている。

 彼は詳細にアイルネの事を調べていた。

 彼女の生まれから、両親、立ち寄った場所、働いていた家。

 これらを調べた結果、アイルネの復讐が本気だと分かった。

 怒りを覚えるのは正当な感情だと思ったし、共感も出来た。

 だから、彼女・・がアイルネを利用するよう持ちかけてきた時、念頭にはあったものの、断られるという可能性は捨ててしまっていた。

 実は、この時点で、シドは誤解をしている。

 確かに、"正しく調べていれば" 誰だって、彼女が復讐を諦めるなんて思わない。もしかしたら、それはアイルネ本人も……。

 だが、そんな事気が付きもしないシドは、混乱する頭で訊ねることにした。

「い、一応、理由を聞かせてくれる?」


 一方、アイルネである。

「い、一応理由を聞かせてくれる?」

 と、言われても、具体的な所はあまりないアイルネだった。

 強いてあげるとすれば、魔族が思ったよりイイ人達だったとか、その程度である。

 そう、そもそも、魔族に対するアイルネの感情の基盤は、子どもっぽい理不尽な思い込みが原因だった。

 モノトーンの世界で、強引に白か黒かを分けた結果である。

 魔族の実態を知ってしまっては、無闇に憎み続けるのは難しい。

「……それは、情が移ったとか、そういう……」

 呆れたようなシドの声に、アイルネは恐縮したように首を縮める。

「えと、ここ何日かずっと一緒にいましたから……」

「がっ……」

 そして、シドには声もない。

「だ、だったら、掃除なんか放っておいて、とっとと目的果たしたら良かったじゃないのよ」

 それには、アイルネははっきり否定の態度をとった。

「そんな、お仕事をいい加減には出来ません」

「うん、いや、正しいのよ、それは」

 シドは、ここでようやく自分の誤解に気がついた。

 なまじっか似たような例が近くにあったため、復讐者とはこういうものだという形が、彼自身気が付かない内に存在していたらしい。

 しかし、この段階になってようやく分かった。

(こ、この子は、根本的に復讐に向いてない……!)

 雷が落ちたような衝撃である。

 よもや、ここまで”真っ当な人間”だったとは……。

 シドは、顎が外れかけながらも、一気に視界が晴れた気分だった。

(じゃあ、あれも……)

 最初、あの少年から話を聞いた時、彼はアイルネが嘘を付いているのだと思った。

 目的を叶えるため、メイドの仕事をこなす演技をしているのだと。

 けれど、そうではなかった。

 なんていうか、アイルネは、ただまじめに仕事をしていただけだった。

 これは、彼女の職業倫理を甘く見た、ある意味シドの落ち度でもあったが、そんなモン想像つくか、という彼の気持ちは誰も否定は出来ない。

(じ、じゃあ、あれとかあれとか全部……)


 魔王城のメイド前回までは


「ふ~ん。陛下を殺す、ねぇ……」

 少年たちが大騒ぎしながら歩いて行く道の側。

 木陰から、陽炎のように影が立った。

 腕を組んだシドが呟く。

「ごめんね、坊や。あたし、出来がいいのは顔だけじゃないの」

 全然ごめんと思ってない顔で言うシド。

 いい女気取りやめろって眼で言われたのに……。

 先ほど、素直に引いたのはこの為だった。

 あの少年なら、アイルネの現状を知れば、必ず彼女の為の動きを見せると読んでの引き際だった。

 さすがにここまで大当たりを引くのは予想外だったが。

 あのメイドちゃんに感謝しなくちゃね、と頷きつつ、表情に真剣な色が混ざった。

「それにしても、とんでもないウソつきだったのね、あの子」

 短い時間見ただけだったが、とてもそんな事を考えてるようには見えなかった。

 特別明るいというわけではなかったが、魔族の誰とでも分け隔てなく接する姿や、仕事に懸命な姿は、シドも素直に好感を持てるものだった。

 アレが演技だとすれば、大した役者ということになる。

「……まあ、そういう子を他に知らないわけでもないし」

 そう言って、今は沈黙している髑髏型のピアスを指先でいじった。

「ちょ~っと、情報が足りないわね。……カグラン地方のクラインだったかしら……行ってみる必要がありそうね」


 

(いやぁーーっ!)


 心中で絶叫するシド。

 もはや、なにもかもが滑稽であった。



良く『キャラが勝手に動いた』とか聞いたり眼にしたりしますが、うちの子たちには一切そういう気配がありません。


大女優相手のように御伺いをたてて毎回動いていただいてます。


多分、育て方を間違えました。

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