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魔王城のメイド  作者: 中路太郎
細腕奮闘編
40/53

第三十九話 長い夜の覚悟

ふっふっふっ……かかったな!(時間が)

という訳で、早速なんですが、二つ謝らせてください。


まず、えらい長いこと時間がかかってしまい、本当に申し訳ありませんでした!


それから二つ目、前回「次回が最終回だよー」みたいな事言ってたくせに、終わってなくてすみません!

おわるおわる詐欺になってしまいました。

ごめんなさい。


言い訳は致しません。

本当にすみませんでした。

 魔王城の見回り兵として働き始めて二年。

 現役が、軽く二世紀、な魔族において、まだまだ若手も良い所であるその兵士は困り果てていた。

「聞いているのですか?」

 声の方にちらりと視線をやると、隣に、機嫌を損ねたように口を尖らせる教育係がいる。

「は、はあ」

 曖昧に返答を濁しておいて、彼はこっそりとため息をついた。

(どうしてこんな事に……)


 魔族は、基本的に長命である。

 自然、それに比例するように現役も長い。

 それが、魔王城のような限定された空間に何をもたらすか。

 ――そう、尋常じゃないジェネレーションギャップである。

 とにかく年齢差が凄い。

 特にこの度の勇者騒動で魔王城に増員がなされてからは、それがなお顕著になっていた。

 酷いと、一個上の先輩が二百歳くらい年上だった、なんて事も稀にあった。

 二百年。

 ……余裕で国が滅ぶ。

 滅ぶし、新しく興る。

 そんな現状では、先輩昨日夜何食べました? なんて聞けるわけがなかった。

 なんと言うか、他にもっと聞くべきことがある筈だ。

 という訳で、彼のような新人たちは上の世代を避けてしまっていた。

 と言うより、自分より二百年も多く生きられていると、理由もなくただひたすら怖いのだ。

 その中でも、若手の間で特に恐れられている一人が、この、教育係だった。

 なにしろ、高貴すぎて得体が知れない。

 噂は幾つか耳にしている。

 何代も魔王を育て上げ、ゆるい魔族の中でも特に規律に厳しく、恐ろしいほどの辣腕ぶりから、(事情を知らないものの中では)影の支配者とすら目されている。

 教育係でありながら有力な武将からも一目置かれており、その冷たさすら感じる美貌も相まって、酷く迫力を持つ存在になっていた。


 ――はずだった。

(……どうしてこんな事に)

 彼はその日もいつもの様に過ごすつもりだった。

 いつもの様に夜の見回りに付き、いつもの様に仕事を終える。

 それが、見回りの途中、偶々中庭に白い影を見つけてしまったばっかりにこのザマだ。

 恐る恐る頼りない槍の穂先を向けながら近づいていくと、その白い影に振り返って声をかけられた。

「おや、見回りですか? ご苦労様です」

「こ、これは、きょ、教育係さま!」

 その正体を知った途端、彼は穂先を外し、凍りついたようにガチガチに固まりながら慌てて敬礼をした。

 教育係はどうやら月見の最中だったらしく、彼の様子に少しだけ表情を和ませると、ふっと柔らかく微笑んだ。

「そんなに緊張しなくても良いですよ……そうだ」

 なにかイイ事を閃いたとでも言うように、教育係は声を上げる。

「少し寄って行きませんか?」

 畏怖と憧憬の対象に言われて、彼はぎこちなく頷いた。

 ――そして小一時間後。

「聞いているのですか?」

「は、はあ」

 その間、愚痴が続いていた。ずっと。

(どうしてこんな事に……)

 初めは、魔王城の現状など、当り障りのない話題に始まり、話が最近雇った人間のメイドの事に及ぶと、教育係の言葉に熱がこもり始めた。

 口調がだんだん愚痴っぽくなり始めて、ようやく、彼は自分が引き止められた理由を知った。

 要は、後腐れのない相手にただ愚痴りたかっただけなのだろう。

 大広間での顛末(赤事件)を聞かされると同時に、もろくも教育係のイメージが崩れ去った音も聞く。

「やはり、人間の小娘などに少しでも気を許したのが間違いだったのでしょうね」

 熱い口調で、グッと拳を握り締める教育係。

 愚痴というか、陰口である。

 あまりに一方的なその言い分に、彼は思わず口を開いていた。

 多少教育係に拍子抜けしたのもあるだろう。

「その、気持ちはわかりますが、先程、アイルネ殿のお陰で少しは人間に慣れることが出来た、と仰っていたでは無いですか」

「まあ、確かに言いましたが……」

 そうでなくても、アイルネの評判は悪くない。

 庇うような気持ちで彼は続ける。

「でしたら、将来の為にも、もっとアイルネ殿と交流を持って、更に人間に慣れておいたほうが良いのではないですか?」

 彼としては至極真っ当なことを言ったつもりだった。

 が、その瞬間教育係の表情が厳しい物に変わった。

「し、失礼しました……!」

 その表情の変化に、途端に痺れるような緊張感が戻ってくる。

 次の瞬間、両肩を強く掴まれた。

 悲鳴を上げるのをなんとかこらえていると、教育係は、怖い表情のままグッと顔を寄せてくる。

「貴方は……」

 なんだか眼が据わっている。

 緊張からやけに大きく喉がなった。

「私と私の将来とどっちが大切なんですかっ?!」

「…………は? ……あ、その、おれまだ二年目なんで……」

 少し難解すぎた。

 どっちも一緒だ、とははっきり言えず、どうしよう変なこと言い出した、と視線をそらす。

 何とか誤魔化そうとする彼だったが、

「どうなんですかっ?!」

 やけに真剣に聞いてくる教育係。

 これで、素面だから性質が悪い。

 一滴も飲めないらしい。

 鬼気迫る表情で、がくがくと体を揺さぶられながら、

「え、えーと……」

 どうやら長い夜になりそうだと、彼は密かに覚悟を決めるのだった。

読んでいただいて本当にありがとうございました。

もし、良ければそのまま次もどうぞ。

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