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魔王城のメイド  作者: 中路太郎
細腕奮闘編
31/53

第三十話 貴方の大切なメイドさん

ネーーターーがーーなーーいーー


 魔王城のメイド、前回までは




「お坊ちゃま、これは?」

「お前にやる。綺麗だったから、お前が喜ぶと思って」

「こちらでお世話させていただけて、アイルネは本当に幸せでした」

「……アイルネ、絶対にまた来い」

「……はい!」


「やだ、本当に人間に頼る気なのね」

『感度はどうだ?』

「えっ、あっ、やっだ、もう! だめよ、いくら陽が落ちたからってそんな質問……」

『馬鹿、とんだ馬鹿。オカマ、馬鹿』

「ちょっと、オカマ挟んで馬鹿っていうのやめて! それに、あたしは性を超越した魔族なの。そんな通り一遍な呼び方やめてくれない?」

『オカ魔族』

「えっ、何その最低のハイブリット」


「で、どうするのよこれから」

『ただの人間がノコノコ魔王城にいくとは思えん。お前はそれを探れ』

「あの娘を調べるのね」

『徹底的にな』

「りょ~かい」






 辺り一面に黄色い花が咲いている場所だった。

 人の手が入った形跡もなく群生する花々は、風が吹く度に隣り合った葉同士が擦れて、ささやかな音を立てた。

 音の中にその少年はいた。

 前髪を吹かれるままにし、どこか物憂げな雰囲気で、そばかすの浮いた顔の表情からもそれが窺い知れる。

 音が止むとゆっくりと手を動かして、目にかかった髪を避けた。

 微かに風に乱された花の残り香が鼻腔を刺激し、一人の少女の記憶を彼に呼び覚まさせる。

「あたしが暮らしてた所では、いろんな所にこの花が咲いてて、愛する人が海に出る時、この花を送って、旅の無事を祈るのよ」

「っ……誰だっ」

 思い出に浸る間も無く、突然背後から上がった声に、少年は鋭く誰何の声を上げた。

「香りが強いから、潮の匂いにも負けずに町から船までこの花の匂いが届いてね。匂いを追っていけば家まで帰れるってわけ。花を渡すのはそんな香りを忘れないようにって思いを込めて。言うなれば道標って所ね」

 振り返ると、いつの間に現れたのか、背の高い男が立っていた。

 冬の日の濃い夕焼けを思わせる赤い髪は、長く伸びて顔の半分を隠している。

 やけに鋭く伸びた犬歯の覗く口元が、奇妙な女言葉を操っていた。

「はじめまして」

 金色の瞳を向けて、その男はニコっと笑った。

(これは……あれだ、オカマだ……!)

 まだ多いとは言えない知識の中に、目の前の人物に該当する項目があった。

 男でありながら男相手に妄りな想いを抱く種族。

 弱点は不明。

 何かあった時の反撃の手立て、なし。

 イコール身の危険。

 内心の動揺を抑えつつ、だが、抑え切れない気持ちの震えが少年を呟かせた。

「……オカマ族」

「別アプローチでそこにたどり着いたわね?」

 発音イントネーションがね、違ったからね。

 頭が痛そうな顔をして、男は眉間を人差し指で抑える。

「も~、なんなのよっ? 一目見ただけでオカ魔族なのあたし? そんな生粋っ?」

 生え抜きのサラブレットオカ魔族がキ~~~ッとなるのを見て、少年は得心する。

 話しに聞いた通り、表に出る感情が激しい。

 以前、機会があってそう聞いていた。

 なんの機会だ。

「それで、お前はだr、いや、なんなんだ?」

 そこまで正体不明なのかしら? と若干傷つきながらも、彼は気を取り直した。

「……ま・ぞ・く」

 挑発するように。

 そういった瞬間、少年が身構える。

「オカ魔――」

「それはもうイイってのよ!」

 なにか言いかけた少年を手で制しておいて、彼は髪を掻き上げた。

「全くどいつもこいつも……良い? あたしは男とか女とかを……って、まあ、いいわ。そうねえ、あたしの名前はシド。坊やに話があってきたのよ」

 どこか懐かしそうに自分の名を名乗りながら、男――シドは少年にウインクを投げた。

「そうか、シド。僕にはないから帰れ」

 ガン無視を伴う少年の冷たい返しにも、挫けること無く(かなり挫けかけたが)、彼は嫌味を口にする。

「なによ、坊やもあたしみたいなのが許せないタイプ?」

 右斜四十五度の角度に顔を反らせてシドが言うと、少年は小さく首を横に振った。

「他人の生き方に口を挟むほど暇じゃない。けど、お前は僕の教育に悪そうだ」

「あたしは有害図書か何かなの?」

 やり返されて、がっくりと項垂れる。

 しかし、ずっと項垂れている暇はなかった。

 話は終わりとばかりに帰ろうとしている少年を、シドは呼び止める。

「あら、本当に帰っちゃっていいのかしら?」

「……」

 無視して歩いていく少年に苦々しい視線を送りながらも、口元に笑みを作ってシドは切り札を切る。

「……アイルネ」

 効果はてきめんに現れた。

 少年の足が止まり、睨むような目付きで振り返る。

 これまでの仕返しとばかりにその視線を真正面から受け止めて、悠々と笑ってみせた。

「――貴方の大切なメイドさんでしょう?」

この度は読んで頂いてありがとうございます。


海外ドラマ風冒頭はずっとやりたっかったんですが、中々機会がなかったので出来て良かったです(感想


ついに三十話です!(実質三十一話)……本当は十九話くらいで終わらせるつもりだったのに……w

頑張って四十話に行く前には終わらせたいと思います!


それでは!

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