表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王城のメイド  作者: 中路太郎
細腕奮闘編
28/53

第二十七話 軽くて着やすそうな胸当て

「ほ、本当にこれで上手くいくんですかっ?」

「あ、動いてはダメですわ、教育係様。ほら、うーしてください、うーって」

 ここは兵舎にあるアレックスの私室。

 魔王城に住み始めたばかりだからだろうか、簡素で粗末な石造りの室内にはほとんど私物のようなモノはなく、必要最低限の調度品のみが置かれている部屋。

 そこで、教育係は、白衣のサキュバス(やたら楽しそう)に、いつもの礼服の上からアレックスの鎧を力づくで着せられている所だった。

 鎧は、よく鍛えられた鋼鉄製の半甲冑で、防御力は高そうだったが、いかんせん体格差の問題がある。

 長身の教育係にはかなり小さいものとなっていた。

 長い髪を後ろで一つに纏めた教育係が、うー、しつつ、キツイ鎧にぎゅうぎゅう体を押し込まれながらも、それでも他の三人に目と口で『何か』を訴える。

「どうだろうな」

「いや、どうだろうな、って、んぶ……そ、そもそも、どうして私が」

 アイルネ、アレックス、カイル、の三人は顔を見合わせた。

「えと、私は人間で、一応女ですから」

「……身代わりがあまり弱すぎては話にならない」

「俺はカイルとして勇者たちと会った事があるし、できるだけ面識がない方がいいだろ」

「あの、あなた達なにか不思議なこと言ってません?」

 特に最後のお前。

 申し訳なさそうに、あるいは、いつもと変らない感じで、はたまた、心底楽しそうに。

 それぞれ理由を口にする三人に詰め寄ろうとして白衣のサキュバスにパシンと頭を叩かれる。

 身分も何もあったものじゃない。

 素直に、うー、と両手を上げる。

「何が?」

「だって、私達全然似てませんよ!!」

 至極真当な反論をする教育係。

 ついさっきまで広間にいてかなり幸せだったはずなのに。

 気がつけば、カイルに黙って手を引かれ、え、なんですか? と言ってる内にこの部屋に詰め込まれた。

 そこには何故かこの白衣のサキュバスがいて、いつの間にかこんな事になっている。

「すぐに気が付かれるに決まってるではないですか……」

 泣く直前みたいな声を出す。

 どうなの? っとカイルに聞かれて、アレックスは首をひねった。

「……かなりイイ加減な奴だから、俺みたいな格好をしていれば意外と気がつかれない、かも」

「それはもうイイ加減というより、どこかしらがお悪いんじゃないんですか?」

 有り体に言って、頭。

 悄然とする教育係だったが、それでも素直に言うことを聞いている。

 白衣のサキュバスが、やたら好戦的で楽しそうな上に、彼の苦手な忙しいはずの小娘までが何故かこの狭い部屋に居るからだ。

 この思いつき自体はともかくとして、迂闊に逆らいでもして……、と、考えると、身動きが取れなかった。

 それに、他ならぬアレックスの頼み事でもある。

 かなり過剰に評価しているこの青年に弱い彼は、黙って(黙ってないけど)、うー、するしかないのだ。

 そうして、しばらく痛かったり情けなかったりしていると、白衣のサキュバスが声を上げた。

「おまたせしました☆」

 アイルネたちの前、じゃじゃーんと蠱惑的に両腕を動かす彼女の後ろから、ぬっと鎧を着た教育係が現れた。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 見るからにやつれ果て、見てるだけでも息苦しくなりそうだ。

 首の辺りが圧迫されて、顔色がなってはいけない色に変色し、両腕は、上着の両袖から槍でも突き通されたように、ピンと伸びて脇も閉まっていない。

 明らかに、体に合ってなかった。

「………………やだ、人間になりたがってるカカシみたいですわ」

 自分でやっておきながら、憮然としてそんな事を言うサキュバスに、アイルネは慌ててしーっと人差し指を立てる。

「……驚くほど可動域が少ないんですが」

 ボンヤリと呟いて、腰のあたりから上半身を何度かひねる教育係。

 少ないというか、腰から上は全く自由にならない。

「……まあ、イケルな」

 そんな様子を見ながら、カイルが嘘をついた。

「ハハ、確かに逝けそうですね」

 酸欠だろう、全然元気が無い声で、教育係が珍しく皮肉を口にする。

「ま、まあまあ、この際はアレックスの鎧を着てるって事が大事なわけだから」

 さすがにフォローするカイルである。

「この鎧、勇者の前で着けたことあるんだろ?」

「……いや?」

「ん、無いって」

「意味ないじゃないですか!!」

 首を横に振るアレックスに、もはや笑うしかないような様子で返答したカイルに教育係が絶叫する。

「というか、その鎧は、俺がこちらに帰ってきた時に、教育係殿が用意してくれたものだ」

 黙考。

 しかし直ぐにはっと顔色が(さらに悪い方に)変わる。

 ――そ、そうだった。

 教育係ががくっと膝をついた。

 できれば手もついて四つん這いになりたい所だったが、今はそれもできない。なぜなら可動域がカカシだから。

(この鎧は、彼の話に感動した私が態々用立てしたものでした)

 因果応報というかなんというか。いや、完全に善意ではあったんだけど。

 途端に、過去の自分が憎くたらしくなる。

 憎たらしく、そしてその頃の平穏な自分がかなり羨ましくもあり、それがまた憎かった。

 アレックスが淡々と、コレまで旅の間に本当に使っていた大分軽くて着やすそうなワンスリーブの胸当てを見せてくれたが、もはやそんな事はどうでも良い教育係であった。

初めての二話連続同時刻予約投稿してみました。

はてさて……。


本当なら二十六、二十七、二十八話は一つにするつもりだったんですが、長くなったので分割させて頂きました。


それにしても……最近の数話を改めて自分で読んでみて……魔王陛下ちっとも出てきませんね…w

なんか出すタイミングが…。

ちゃんと出番を用意しなくてはと思いつつ、このあたりで失礼します。

ではでは。


ちなみに二十八話にも出ません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ