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魔王城のメイド  作者: 中路太郎
細腕奮闘編
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第二十五話 夢から覚めるように

 教育係にとって、このアレックスという若い魔族は、少々厄介な存在だった。

 嫌っているわけではないし、無論、敵対する関係にあるわけでもない。

 というよりは寧ろその逆で、普段厳しく光っているはずの彼の目が、どうしてもアレックスを見る時に甘くなってしまう自覚がある。

 理由は簡単で、教育係が、アレックスの生い立ちに同情したのだ。

 彼は、年端もゆかぬ頃遊びに行った戦場跡で、凶悪で凶暴な人間(歯は殆ど鮫)に攫われ、そのまま何年間も人間との暮らしを強要されていたが、この程、ようやく命からがらこの魔王城に逃げ込んできた。=自分なら舌を噛むくらいの苦境。

 辛い境遇に遭い続け、それでも魔族としての誇りを失わずにいた悲劇の戦士。

 と、いうのが教育係の見え方である。

 感情的な部分を除けばほぼ事実で、初めてアレックスにこの話を聞いた時、彼は自前の猫柄ハンカチをこっそりと涙で湿らせた。

 実際は、諾々と流されていたアレックスの責任も小さくないのだが、誤解は全人類共通の悪癖で、それが魔族に当はまらない訳でもない。

 この誤解も解こうと思えば解けるのだろうが、なんせ相手はアレックスである。

 妙な所で物分りが良いために、何年も人間として暮らしてきた彼に、そんな甲斐性は存在しなかった。

 というわけで、教育係は殆ど苦手意識すら覚えるほどアレックスには甘かった。

 なるべくなら彼の望みは叶えてやりたいと思うのだが、結婚、ともなると軽々しく、はいどうぞ、と言うわけにもいかない。

 その上、相手は自分の苦手な人間、しかも、この小娘である。

 気持ちの上ではアレックスの味方、でも彼の望むことは自分にとって厳しすぎる(舌噛む)。

 そんな中途半端な思いが、不躾に話に割り込んだ立場を表すように二人の中心に教育係を立たせ、やっぱりこの距離はまだちょっと無理、と思いアレックスの隣に改めて立った。

 そして、至近距離でアレックスの方を向き、

「残念ながら、私も貴方の考えには反対です」

 言い放った。

(……だったら、どうしてこちら側に立ったんだ……?)

 とアレックスは思ったが、他に不思議そうにしている人も居ないので黙っておく。

 この辺の物分りのよさが、今の状況を生んでいることには気づかない。

 代わりに「何故だ?」と、尋ねた。

「いや、何故だ、と言われましても、そもそも人間と魔族ですから」

 ナニヲアタリマエノコトヲ、と言うような表情で教育係は言った。

 痛い所を突かれたように、グッ、と、アレックスが詰まる。

 それでも苦しそうに、反撃を試みた。

「……だが、妹だ」

「妹っ!?」

「え、どうして私を見るんですか?」

 アレックスの言葉に、突然自分の方にグリンと首を動かして目を剥いた教育係に、アイルネがたじろぐ。

「あ、い、いえ、あまり似てないと思って……」

「えと、誰に?」

 しかし、アイルネの言葉は無視された。

 顎に手を当てた格好で、教育係は黙りこんでしまう。

(ま、魔族と人間というだけでもアレなのに……この上、きょ、兄妹同士でだなんて、本当にアレじゃないですか!)

 もうこの時点で彼は一度ぐっすり眠るべきだが、思考は空回れば空回るほど本人は自覚しにくいものである。

 少し考えれば、種族が違うなら実の兄妹でも在り得ないと分かりそうなものなのに、それには気がつかないまま、アイルネに距離を取りつつ詰め寄るという器用な真似をやってのける。

「というか、貴方はそれでいいんですかっ?」

 言外に、こんなアレなお兄さんで、という目で見る。

 しかし、アイルネはちょっと考えこむようなポーズを取ると、少しだけ諦めたように口を開いた。

「そうですね。確かに私も最初は反対だったんですけど、私自身も明確に反対の理由が見当たらないというか……一生に一度のことですし」

 伏し目がちに達観したように微笑むアイルネに、教育係は、コイツもか、と絶望的な気分になった。

(モラルはどこに行ったんですかモラルは……)

 歳相応に年寄り臭い事を思いつつ、がっくりと肩を落としそうになるが、アレックスがその言葉に顔を輝かせたのを見て、慌てて二人の間に割って入る。

 だが、アイルネが決心を固めるほうが早かった。

「……そうですよ……一生に一度のことですもんね……うん! アレックスさん、良いですよ!」

「……本当かっ?」

「はい」

 ニッコリと笑って頷くアイルネ。

 完全に何かを覚悟した顔で、その表情は晴れ晴れとしている。

 決して意見を翻さないだろう決意がそこに見て取れる。

 嬉しそうなアレックスにがっくりと教育係は腰を落とした。というか抜けた。

 へたり込んだまま、死人のような顔をアイルネに向ける。

「……本気、なんですか?」

「はい」

 おおおおっと野次馬たちから、悲鳴ともつかない声が上がる。

「多少スケジュールの方はタイトになってしまいますが、でも最悪指揮だけなら一人でも出来ますから」

「し、式ってそういうモノでしたっけ?」

 ジェネレーションギャップというやつか。

 教育係は、新郎新婦のどちらかしか参加しない結婚式なんて聞いたことがなかった。……当たり前だ。

「も、もっと自分を大切にしなさい!」

「えと、教育係様がそれを仰るんですか?」

 やけくそに叫んでは見たものの、わけのわからない言葉で返された。

 ……だが、それももうどうでもいい事だ。

 この二人は愛しあい結婚し、そして、小娘は魔王城に居座る。

「悪い」

 教育係の目から、暗澹たる未来を思い涙が落ちそうになった時、意外な所から一筋の光明が差した。

「三人に質問があるんだが、良いか?」

 これまで、野次馬に徹して傍観していたカイルが片手をあげていた。

 教育係に答える気力は残っておらず、どうぞ、と代わりにアイルネが答えた。

「アレックス、アイルネに何を頼んでたんだ?」

「……妹の結婚式に行きたいと頼んでいた」

「そうか。アイルネ、近々誰かと結婚する予定はあるか?」

「な、ないですよ! 何言ってるんですか!」

「うん。教育係殿、どうして落ち込んでるんだ?」

「……決まってるではないですか。アレックスとこの小娘の結婚が決まったからです」

「「「……………………」」」

 その場に、沈黙が降りる。

 カイルだけがくつくつと笑いながら、パンッと手を叩いた。

「と、いう事だ」

「「「………………………はあ?」」」

 異口同音が重なって、夢から覚めたように三人は顔を見合わせた。

分かりにくかったかもですが、ようやくオトせました…。

そして、二章入ってから、全てこの為の前フリだったという事実w(それだけじゃないですがw)

もし変な所があったらそっと教えて下さい。


ここから、お話は終わりに向かっていきます。

出来れば、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

この度は、読んで頂いてありがとうございました。


ではでは、また。

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