第二十四話 カイル、教育係の言葉に首をかしげる
目の前で、真摯な表情で頭を下げた青年に、アイルネは困り果てていた。
困り果ててはいるものの、どうしてかその正体が知れない。
実際、一番困っているのは、『何に困っているのか』自分でもいまいちよく分からない所だった。
勿論作業のことはある。
ここで人手が減るのは確かに痛かったが、この規模と人数で、一人抜けたくらいで成立しなくなるのなら、それは端から無理な話だったと言うことだろう。
アイルネは無理だとは思っていなかったから、これは理由にならない。
むしろ、アレックスの望みを叶えてやって、とっとと仕事に戻りたいとかちょっと前から思い始めているくらいだ。
それなのに、「行きたい」と言われれば、何故か「えと、困ります」と答えてしまう。
首をかしげつつも、引っかかっているのは、やはりあの約束だった。
――決着は魔王城で。
(……………………アレックスさん……魔王城に、居なくていいのかな?)
凄く素朴な疑問だった。
ただ、もしかしたら、アレックスが"居ない"事自体が決着になるような事がある……あるのか、そんな事が?
とてもじゃないが、居ない事事態が答えになるような、そんなセンチメンタルな決着が魔王城に存在するとは思えない。
魔王城の広間で「いない……か」などと寂しそうに呟く勇者など、そう見たいものでもないのだ。
という事は、決着とはやはりアレックスと勇者たちの所謂"決着"のことで、それなのに、魔王城にアレックスが居ないというのは、それは、誰かが物凄く気まずい思いをする事になる。ということに他ならない。
仮に、そこに自分が駆り出されたらと想像して、アイルネは一瞬で青ざめた。
「アレックスはどこだ?」
「えと、すみません、ここにはいません」
「ここにいない? ではどこに居る」
「その、妹さんの結婚式に行かれました」
「…………何故?」
「…………どうしてもと言われるので」
「……そんなはずはない。君は知らないかも知れないが……」
「いえ、その、知ってます。ここで決着を付けられるんですよね?」
多分、小一時間は問い詰められる。
そして、謂れのない理不尽な糾弾を受けることになるのだ。
勿論、ここまで馬鹿正直に話す必要はないが、アイルネは頭を抱えたくなった。
重ね重ね、時間がない。
アレックスを喜んで見送れないのもこの時間が問題で、つまり全ては時間が悪い。
それこそ理不尽な怒りを時間にぶつけながら、アイルネはインナースペースに入り込んでいた。
アレックスはアレックスで、言いたいことは全て言っている為、殊更開く口もない。
突然黙りこんでしまった二人に、ざわつき始めたギャラリーの中から態とらしい咳払いが聞こえた。
コホンと口で言いながら、人垣をかき分け教育係が進みでてきた。
「話は大体聞かせてもらいました」
後ろから遅れて二つの人影が出てくる。
離脱のタイミングを失った半寝のクォヴレーと、教育係の言葉に、本当かなぁ? と首をかしげるカイルの姿がそこにあった。
読んで頂いてありがとうございました。
本日のbgmはMr Childrenの「ニシエヒガシエ」でございました。
……アレンジが多すぎるっす。