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魔王城のメイド  作者: 中路太郎
細腕奮闘編
21/53

第二十話 決着は魔王城で

内容が予定より、長くなってしまいました……。ちょっと冗長…。

でも、まあ、もうあんまり出ないやつらだし……別にいいか!(笑)


勇者パーティの名前の方はご自由にお呼び下さい。

そう!名前はみなさんの心のなかにあ(ry

 覗き込めば眼下には屹立する山々が見えたが、その場所では基本的には空しか見えなかった。

 普段は上空を浮かぶ雲でさえここでは重すぎるらしく、今は足元より遥かに低い位置で呑気に漂っている。

 霊峰と崇められる場所。

 その頂上に、対峙する六つの人影があった。

 その図式は、一対五。

「っ……あんたはっ!」

 沈黙を破って、五人の内、サイドテールの少女が叫んだ。

 そんな団体があれば、『霊峰を愛でる会』に糾弾されそうなくらいの軽装で、両手にアシメトリーの少し変わった形のガントレットが嵌められている。

 気の強そうな顔立ちが、今は泣き出す寸前のような表情に歪んでいた。

「どうして、こんな所で私たちの敵になってんのよ!」

 少女の責めるような問い掛けにも、男は顔色一つ変えない。

 突きつけた剣先を下ろすこともなく、先程から同じ姿勢で五人を睨みつけている。

「……引き返せ」

 男の名をアレックスという。

 幼い頃、勘違いから人間の夫婦に拾われ、人に育てられた魔族だった。

 だけでなく、二週間前まで勇者の仲間をやっていた変わり種である。

「……っ」

「随分と勝手な言い草じゃないですか」

 再び激昂しかけた少女を片手で制して、着流し姿の男が前に出る。

 表情は優しげで物言いも柔らかいが、その身に漲る殺気は常軌を逸していた。

 腰に佩いた太刀に手を掛けながら、かつて仲間だった男に殺人者の目を向ける。

「突然黙って居なくなったかと思えば、苦労して登った山の上で『引き返せ』……ですか」

「そ、そうですよう」

 男の尻馬に乗る様に、五人の最後尾に隠れるようにして立っていた少女が口を挟んだ。

 パーティのヒーラーで、元女海賊というこちらも中々異様な職歴をしている。

 海賊旗のおなじみのマークが入った眼帯に、小柄な体に合わない巨大なキャプテンハット。

 ビキニトップ(貧)にショートパンツと言う、愛でる会が再びザワッとしそうな格好で、袈裟懸けに弾帯を巻きつけている。

 腰に提げたカトラスと短銃を揺らしながら、おずおずと前に出てくる。

「い、いきなり居なくなっちゃって心配してたんですよ。け、怪我とかしてないですか?」

「……ああ。心配かけてすまない」

 思わず答えてしまったアレックスに、心底ほっとしたようにため息をつく。

「良かったぁ……」

「良くないわよ!」

「はぅ! す、すすすみません、良くなかったです! 怪我して下さい、やあ!」

 ターーーンと間延びした破裂音が木霊し、着流しの男がドサッと倒れた。

 ガントレットの少女の声に驚いて抜きざま放った鉛の弾が、見事に着流しの男の背中を捉えていた。

「……戦いに狂い、戦いに生きた……面白い人生でした……よ」

「はぁぅ! す、すすすすすみません、間違いました! あああ『がくっ…』ってならないで下さぁい!」

 凶器の銃を放り投げて慌てて駆け寄ると、自分でつけた男の傷の治療を始める。

 手を当てた部分がホワーっと輝きはじめるのを見て、アレックスは気づけば苦笑してしまっていた。

「笑ったな?」

 腕を組んで成り行きを見守っていた青年が、ニヤリと口元を歪めた。

 意地の悪そうな笑顔で、それは正確に彼の人格を表している。

「……ああ」

 降参というように手を上げ、アレックスは構えていた剣を鞘に収めた。

 場を支配していた緊張の糸が解ける……というか、ちょっと前からグズグズにはなってはいた。

「……どうやら、また生き延びてしまったようですね」

「ふえーん、良かったよー」

「てか、あれで死んだら人生思い切り過ぎでしょ」

 頭を振りながら起き上がる着流しの男を、泣きながら手伝う海賊少女に、呆れるようにガントレットの少女。

「……相変わらず、真面目な話一つ出来ないな」

「知るか、羨ましかったら戻って来い。菓子折り付きの土下座で許してやらんこともない」

 昔から、素直でないようでいて実はかなり素直な性格の親友の言葉に、アレックスの笑みが深くなる。

 それでも、首は横に振った。

「それは、出来ない」

「あっそ。関係ないけどね。土下座もしてもらうし」

 意に介す風でもなく、自信満々といった様子で返す青年。

 殆どの場合無意味に胸を張っているが、それが彼の常態だった。

 つまり、いつでも無意味に自信満々なのである。

 酷く我が儘な生き方だが、当人にもまた別の言い分がある。

 ――自信がなくて、勇者などやっていられるか。

 勇者。

 唯一魔王に傷を付けられる存在で、希望という名の人類最後の手段。

 その身にかかる重圧は相当のもので、過去、聖剣に選ばれ、プレッシャーに押しつぶされた者達も少なくない。

 そういう意味では、彼は天性の勇者と言えた。

「あのさ、アレックス」

 そんな勇者の影に隠れるようにして立っていた男が、ひょいと顔をのぞかせた。

 パイルアップと言う大衆新聞の記者で、エリックという名前だった。

 とある街で出会って以来、密着取材ということでこんな所までついてきてしまっている。

「本当に戻ってこないのか?」

 アレックスは無言で頷く。

 どうして? と問が重なる。

 それには答えず、アレックスは鋭く口笛を吹いた。

「本当は、ここで引き返してくれるよう説得するつもりだった」

「やなこった」

「……だから諦めた」

 ふふんと鼻で笑う勇者に、アレックスも苦笑で返す。

 その時、大きく羽ばたく音が聞こえて、崖下から巨大な鳥が姿を現した。

 鷲によく似た姿をしていたが、足の部分だけで人一人分はありそうな巨体が、その場でホバリングを始める。

 嘴には轡がはめられ、そこから伸びる手綱を無表情の幼い少女が操っていた。

 それを見て、勇者が瞳を輝かせる。

「アレックス、早く乗れ。トリがお腹をすかせている。それに延長は追加料金だぞ…………なんだお前?」

 いつの間にか、アレックスのすぐ隣まで近づいていた勇者が、目をキラキラさせながら、巨鳥を指差した。

「いいな、それ……よこせ」

「嫌だ。トリは私の大切な友達だ。よこせるか、山賊め」

「……エミ、こいつは一応勇者だ」

 アレックスのフォローに少女――エミは黙りこんだ。

 表情に驚きこそ出なかったが、その沈黙は長い。

 やがてボソリと一言。

「世も末だな」

 吐き捨てるように言い放った。

「なんだとこのチビ! いいからそれよこせ!」

「うるさい。お前なんかただの山賊だ。山に帰れ」

「ここだって山だ!」

 こんな霊験あらたかな場所で、くだらない喧嘩を始めてしまった二人に、溜息をつく一同。

 その中から、ガントレットの少女が進みでた。

「ねえ……一個聞かせてよ」

 アレックスが振り返る。

 少女は真横を向いていた。

「私たちから離れたのって、その、あんたが魔族だから?」

 不安げな表情に、サイドテールが揺れる。

 アレックスは少し考えた後、首を横に振った。

「……人にも魔族にもイイ奴とイヤな奴はいた。俺が一番居たいのはここ(・・)だ」

 じゃあ、戻ってくれば? とは少女は言わなかった。

 何かを噛み締めるように俯いて、直ぐに顔を上げるとアレックスの方に向き直る。

「ぶっ殺しに行くから!」

 満面の笑顔で怖いことを言う。

 彼女らしい一言に、アレックスも笑った。

「……ああ、待ってる」

「殺さないように手加減なんてできませんよ?」

 着流しの男が、困ったように頭をかいた。

「さ、寂しくなります。でも、今度はお別れを言えるだけ良かったです。お元気で」

「いや、元気だったら不味いでしょう」

「あ、あああ、そ、そそそうですね! えい! 呪われろ!」

 ツッコまれて、パにくった海賊少女が目をつぶって両手をつきだす。

 でろでろんっと本当に呪われた。……エリックが。

「へ? ってなんでこんな所にバナナの皮……ギャア!」

 黄色い物体に足元を掬われ、ゴロゴロと転がっていくエリック。

「あ~~~~~~~~~~~~~~~……」

 悲しげな悲鳴を残して、そのまま崖下へと転落していった。

「エミ!」

「トリ、あれを拾え」

 少女が手綱を引くと、巨鳥の眼が細まった。

 羽を閉じて急降下を始める。

 すんでの所で文字通り鷲掴みにされたエリックが、ひいひい言いながら戻ってきた。

「なんて人に迷惑をかける大人なんだお前たちは」

「「「すみません」」」

 無表情のままつぶやくエミに、勇者を除いて全員が揃って頭を下げた。

「人命救助は仕事になかったからな。追加料金だぞ」

 分かってる、と答えて、アレックスは巨鳥の上に飛び乗った。

 エミの後ろから被さるようにして、手綱を握る。

「アレックス!」

 馬首をめぐらそうとした所で、勇者が声を上げた。

 何事かと見つめるアレックスに向かって、ピッと親指を立ててみせた。

 そのまま首を掻き切る動作をした後、グンっと下に向けた。

 無意味に自信に溢れた笑顔で。

 それに対するアレックスの答えは、エミにしか聞こえなかった。

 不思議そうに見上げてくる少女の頭を撫でてやり手綱を操った。

「……ああ、決着は、魔王城で」

本日のbgmは相対性理論のスマトラ警備隊でございました。

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