第二十話 決着は魔王城で
内容が予定より、長くなってしまいました……。ちょっと冗長…。
でも、まあ、もうあんまり出ないやつらだし……別にいいか!(笑)
勇者パーティの名前の方はご自由にお呼び下さい。
そう!名前はみなさんの心のなかにあ(ry
覗き込めば眼下には屹立する山々が見えたが、その場所では基本的には空しか見えなかった。
普段は上空を浮かぶ雲でさえここでは重すぎるらしく、今は足元より遥かに低い位置で呑気に漂っている。
霊峰と崇められる場所。
その頂上に、対峙する六つの人影があった。
その図式は、一対五。
「っ……あんたはっ!」
沈黙を破って、五人の内、サイドテールの少女が叫んだ。
そんな団体があれば、『霊峰を愛でる会』に糾弾されそうなくらいの軽装で、両手にアシメトリーの少し変わった形のガントレットが嵌められている。
気の強そうな顔立ちが、今は泣き出す寸前のような表情に歪んでいた。
「どうして、こんな所で私たちの敵になってんのよ!」
少女の責めるような問い掛けにも、男は顔色一つ変えない。
突きつけた剣先を下ろすこともなく、先程から同じ姿勢で五人を睨みつけている。
「……引き返せ」
男の名をアレックスという。
幼い頃、勘違いから人間の夫婦に拾われ、人に育てられた魔族だった。
だけでなく、二週間前まで勇者の仲間をやっていた変わり種である。
「……っ」
「随分と勝手な言い草じゃないですか」
再び激昂しかけた少女を片手で制して、着流し姿の男が前に出る。
表情は優しげで物言いも柔らかいが、その身に漲る殺気は常軌を逸していた。
腰に佩いた太刀に手を掛けながら、かつて仲間だった男に殺人者の目を向ける。
「突然黙って居なくなったかと思えば、苦労して登った山の上で『引き返せ』……ですか」
「そ、そうですよう」
男の尻馬に乗る様に、五人の最後尾に隠れるようにして立っていた少女が口を挟んだ。
パーティのヒーラーで、元女海賊というこちらも中々異様な職歴をしている。
海賊旗のおなじみのマークが入った眼帯に、小柄な体に合わない巨大なキャプテンハット。
ビキニトップ(貧)にショートパンツと言う、愛でる会が再びザワッとしそうな格好で、袈裟懸けに弾帯を巻きつけている。
腰に提げたカトラスと短銃を揺らしながら、おずおずと前に出てくる。
「い、いきなり居なくなっちゃって心配してたんですよ。け、怪我とかしてないですか?」
「……ああ。心配かけてすまない」
思わず答えてしまったアレックスに、心底ほっとしたようにため息をつく。
「良かったぁ……」
「良くないわよ!」
「はぅ! す、すすすみません、良くなかったです! 怪我して下さい、やあ!」
ターーーンと間延びした破裂音が木霊し、着流しの男がドサッと倒れた。
ガントレットの少女の声に驚いて抜きざま放った鉛の弾が、見事に着流しの男の背中を捉えていた。
「……戦いに狂い、戦いに生きた……面白い人生でした……よ」
「はぁぅ! す、すすすすすみません、間違いました! あああ『がくっ…』ってならないで下さぁい!」
凶器の銃を放り投げて慌てて駆け寄ると、自分でつけた男の傷の治療を始める。
手を当てた部分がホワーっと輝きはじめるのを見て、アレックスは気づけば苦笑してしまっていた。
「笑ったな?」
腕を組んで成り行きを見守っていた青年が、ニヤリと口元を歪めた。
意地の悪そうな笑顔で、それは正確に彼の人格を表している。
「……ああ」
降参というように手を上げ、アレックスは構えていた剣を鞘に収めた。
場を支配していた緊張の糸が解ける……というか、ちょっと前からグズグズにはなってはいた。
「……どうやら、また生き延びてしまったようですね」
「ふえーん、良かったよー」
「てか、あれで死んだら人生思い切り過ぎでしょ」
頭を振りながら起き上がる着流しの男を、泣きながら手伝う海賊少女に、呆れるようにガントレットの少女。
「……相変わらず、真面目な話一つ出来ないな」
「知るか、羨ましかったら戻って来い。菓子折り付きの土下座で許してやらんこともない」
昔から、素直でないようでいて実はかなり素直な性格の親友の言葉に、アレックスの笑みが深くなる。
それでも、首は横に振った。
「それは、出来ない」
「あっそ。関係ないけどね。土下座もしてもらうし」
意に介す風でもなく、自信満々といった様子で返す青年。
殆どの場合無意味に胸を張っているが、それが彼の常態だった。
つまり、いつでも無意味に自信満々なのである。
酷く我が儘な生き方だが、当人にもまた別の言い分がある。
――自信がなくて、勇者などやっていられるか。
勇者。
唯一魔王に傷を付けられる存在で、希望という名の人類最後の手段。
その身にかかる重圧は相当のもので、過去、聖剣に選ばれ、プレッシャーに押しつぶされた者達も少なくない。
そういう意味では、彼は天性の勇者と言えた。
「あのさ、アレックス」
そんな勇者の影に隠れるようにして立っていた男が、ひょいと顔をのぞかせた。
パイルアップと言う大衆新聞の記者で、エリックという名前だった。
とある街で出会って以来、密着取材ということでこんな所までついてきてしまっている。
「本当に戻ってこないのか?」
アレックスは無言で頷く。
どうして? と問が重なる。
それには答えず、アレックスは鋭く口笛を吹いた。
「本当は、ここで引き返してくれるよう説得するつもりだった」
「やなこった」
「……だから諦めた」
ふふんと鼻で笑う勇者に、アレックスも苦笑で返す。
その時、大きく羽ばたく音が聞こえて、崖下から巨大な鳥が姿を現した。
鷲によく似た姿をしていたが、足の部分だけで人一人分はありそうな巨体が、その場でホバリングを始める。
嘴には轡がはめられ、そこから伸びる手綱を無表情の幼い少女が操っていた。
それを見て、勇者が瞳を輝かせる。
「アレックス、早く乗れ。トリがお腹をすかせている。それに延長は追加料金だぞ…………なんだお前?」
いつの間にか、アレックスのすぐ隣まで近づいていた勇者が、目をキラキラさせながら、巨鳥を指差した。
「いいな、それ……よこせ」
「嫌だ。トリは私の大切な友達だ。よこせるか、山賊め」
「……エミ、こいつは一応勇者だ」
アレックスのフォローに少女――エミは黙りこんだ。
表情に驚きこそ出なかったが、その沈黙は長い。
やがてボソリと一言。
「世も末だな」
吐き捨てるように言い放った。
「なんだとこのチビ! いいからそれよこせ!」
「うるさい。お前なんかただの山賊だ。山に帰れ」
「ここだって山だ!」
こんな霊験あらたかな場所で、くだらない喧嘩を始めてしまった二人に、溜息をつく一同。
その中から、ガントレットの少女が進みでた。
「ねえ……一個聞かせてよ」
アレックスが振り返る。
少女は真横を向いていた。
「私たちから離れたのって、その、あんたが魔族だから?」
不安げな表情に、サイドテールが揺れる。
アレックスは少し考えた後、首を横に振った。
「……人にも魔族にもイイ奴とイヤな奴はいた。俺が一番居たいのはここ(・・)だ」
じゃあ、戻ってくれば? とは少女は言わなかった。
何かを噛み締めるように俯いて、直ぐに顔を上げるとアレックスの方に向き直る。
「ぶっ殺しに行くから!」
満面の笑顔で怖いことを言う。
彼女らしい一言に、アレックスも笑った。
「……ああ、待ってる」
「殺さないように手加減なんてできませんよ?」
着流しの男が、困ったように頭をかいた。
「さ、寂しくなります。でも、今度はお別れを言えるだけ良かったです。お元気で」
「いや、元気だったら不味いでしょう」
「あ、あああ、そ、そそそうですね! えい! 呪われろ!」
ツッコまれて、パにくった海賊少女が目をつぶって両手をつきだす。
でろでろんっと本当に呪われた。……エリックが。
「へ? ってなんでこんな所にバナナの皮……ギャア!」
黄色い物体に足元を掬われ、ゴロゴロと転がっていくエリック。
「あ~~~~~~~~~~~~~~~……」
悲しげな悲鳴を残して、そのまま崖下へと転落していった。
「エミ!」
「トリ、あれを拾え」
少女が手綱を引くと、巨鳥の眼が細まった。
羽を閉じて急降下を始める。
すんでの所で文字通り鷲掴みにされたエリックが、ひいひい言いながら戻ってきた。
「なんて人に迷惑をかける大人なんだお前たちは」
「「「すみません」」」
無表情のままつぶやくエミに、勇者を除いて全員が揃って頭を下げた。
「人命救助は仕事になかったからな。追加料金だぞ」
分かってる、と答えて、アレックスは巨鳥の上に飛び乗った。
エミの後ろから被さるようにして、手綱を握る。
「アレックス!」
馬首をめぐらそうとした所で、勇者が声を上げた。
何事かと見つめるアレックスに向かって、ピッと親指を立ててみせた。
そのまま首を掻き切る動作をした後、グンっと下に向けた。
無意味に自信に溢れた笑顔で。
それに対するアレックスの答えは、エミにしか聞こえなかった。
不思議そうに見上げてくる少女の頭を撫でてやり手綱を操った。
「……ああ、決着は、魔王城で」
本日のbgmは相対性理論のスマトラ警備隊でございました。