第十八話 ようやく話は冒頭へ戻る……ようやく
人気のなくなった中庭――アーケードを支える柱の一つ。
ちょうど城内への出入口を眺める位置にある柱の陰で、更に深い影が夕闇に紛れて蠢いた。
夜に近い世界に、人の形をとって一歩進み出る。
「やだ、本当に人間に頼る気なのね」
弦月のように細められた口元が開いた。
金色の瞳を二人の消えた出入口に向けながら、返答を期待しない独り言のようにつぶやく。
闇を佩いて現れたのは、炎のように赤い髪をした長身細身の男だった。
軽薄そうな表情の半分を隠す長く伸ばされた前髪をかき上げると、尖った左耳にされた髑髏のピアスが顕になる。
「ちょっと、彼ら本気みたいよ?」
妙な裏声で喋る男に、左耳にされたピアスが反応した。
カッと目の部分が光ったかと思うと、下顎がカタカタと音を立て始める。
『聞こえてる……感度はどうだ?』
ピアスから低い声が発せられた。
その声に突然身悶え始める男。
「えっ、あっ、やだ、もう! 何考えてんの? だめよ、いくら陽が落ちたからってそんな質問……」
『馬鹿、ピアスの事だ馬鹿。とんだ馬鹿。オカマ、馬鹿』
「ちょっと、オカマ挟んで馬鹿っていうのやめて! それに、あたしは性を超越した魔族なの。そんな通り一遍な呼び方やめてくれない?」
『わかった。……オカ魔族』
「えっ、何その最低のハイブリット。……ったく、感度は良いわよ」
『当然だな』
自信満々の声に、はいはいと返事をしながら、男は髑髏型のピアスを指で弄んだ。
「でも確かに凄いわね、これ。距離や障害物に関係なく離れた相手と会話ができるんでしょ。ノイズも入らず音もとってもクリアだし」
『当たり前だ。誰が作ったと思ってる』
「……くっ、本当に自信過剰なんだから」
半ば呆れつつ返答すると、急に男は頬を染めながら、お腹の前で手を組んでモジモジと体を左右し始めた。
「ま、まあ? そ、そういう自信たっぷりな所も、す…す、き、だったり?」
『ガー……ザザー……ガガー』
「――あれ? 混線?」
突然、不自然に調子が悪くなるピアス。
『すまん。急に電波が入らなくなった』
電波?
「もう! 折角人が愛の告白かましたっていうのに」
『はは、ちょっと何言ってっか分かんないです』
「わかるでしょ、てかなんで敬語なのよ! ……はあ、もうイイわ。で、どうするのよこれから」
がっくり来ながらも、話をもとに戻す。
『しばらくは直接手出し無用だ』
「ほっとくって事?」
『いや、ただの人間がノコノコ魔王城にいくとは思えん。何か訳があるはずだ。お前はそれを探れ』
「あの娘を調べるのね」
『徹底的にな』
「りょ~かい」
肩を落としていた男が顔を上げる。
「は~、ごめんね~。これも真実の愛のためなの。覚悟しといてね、子猫ちゃん」
明かりの灯りはじめた魔王城を見上げ、パチリと小さくウインクした。
「……っ」
ゾクリと悪寒を感じてアイルネは振り返った。
「どうした?」
隣を歩いていたカイルが怪訝そうに聞いてくる。
「あ、いえ、今とてつもない呼ばれ方をされた気がして……」
やけに具体的な悪寒だった。
「大丈夫か?」
「ええ。多分、気のせいですから……」
そう言いつつ、振り返った背後に視線を残してしまう。
通ってきた廊下に無数に灯された燭台は明るい。その分、余計に深い影があちこちに不安を落としていた。
「嬢ちゃん」
呼ばれて顔を戻すと、カイルの顔があった。
きょとんとするアイルネに、にっと笑顔を見せる。
「例え何があっても、嬢ちゃんは無事に人間の国に帰すから」
言われた途端、ほっ、と、全身の緊張がほぐれた気がした。
と同時に、体の中のどこかがツキンと痛む気がする。
それを堪えて、アイルネは微笑んで返した。
「ありがとうございます……でも、嬢ちゃんはやめてくださいね」
そう言って先を歩き始めると、頭を掻きながらカイルがついてくる。
「……あ、そうだ忘れてた」
タタタっと小気味良い足音響かせて、カイルが目の前に回りこんできた。
足を止め、何事かと首を傾げる。
「魔王城へようこそ、アイルネ」
そのいたずらっ子のような笑みに、アイルネは「はい」と笑顔で返した。
――こうして、ようやく話は冒頭へと戻る。
いつも拙作を読んでいただいてありがとうございます。中路です。
奇特にも続きをお待ちいただいてくださった、心優しい皆様方、長く時間がかかってしまい、本当に申し訳ありませんでした(土下座)
お優しい皆様の事ですので、きっと許してくれることとは思いますが……(チラッ
次の十九話で一章が終ります。
全体を通して二章しかないので、物語的にはもう、すぐ終ります(笑)
出来れば最後までお付き合い下さると嬉しいです(チラッ
そして、もし良ければ感想などご意見いただけたら、とても喜ぶな~、と(チラッ(チラッ
……すみません、チラ見やめます。
それではこのへんで失礼します。
本当にいつもありがとうございます。
ではでは。