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魔王城のメイド  作者: 中路太郎
接近遭遇編
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第十三話 わがままな疑問

 ―――今。

 玉座の間では、ドレスアップしたアイルネを前に、怒りに戦慄く教育係の姿があった。

 額に禍々しいほど巨大な血管を浮き上がらせ、わなわなと拳を震わせている。

 コフゥ~と口から瘴気を吐き出しながら、何故か、顎まで出てきている。

(……あの夢魔共…!)

 胸中で毒づいた教育係は、もう一度あの時のやりとりを自分なりの解釈で思い返した。

「……綺麗に?(クリーニング的な意味で)」

「はい、綺麗に(コーディネイト的な意味で)」

「……わかりました。ではお任せします(気がついてない)」

「ありがとうございます(確信犯的に気がついてないふり)」

「ですが、やるからにはちゃんとお願いしますよ(ちょっと疑わしくなった)」

「はい☆(偽笑顔)」

 邪推だったが、限りなく真実に近い邪推のような気がする。

 着飾らせたこと自体は、別に悪いことでもなんでもない。

 サキュバス達が、やってきた人間にドレスを着せようが、ステテコ履かせようが、ハゲヅラ被せようが、それは大した問題ではない。

 ……いや、やっぱりちょっとは問題だが、焦点はそこではなかった。

(問題は、彼女たちが陛下の名を使って私を謀っていたということです)

 序列も厳密には定まってはおらず、縦意識も薄い魔族とは言え、彼は魔王城の教育係である。

 歴代の魔王達を、時に親代わりに、時に良き友として、導き、立派に育て上げてきたのだ。

 魔族の歴史の傍にはいつも彼の姿があり、そんな彼を名だたる将軍達も一目おいている。

 それを、たかだか、五、六十年生きただけの小娘達に、良いように操られてしまった。

 彼の精神構造は、序列――ひいては魔王陛下を軽んじるサキュバスたちは勿論として、そんな自分がなにより許せなかった。

 ただ、これが個人的な感情であることも自覚はしている。

(まあ、彼女たちは大説教(当社比四倍)決定として……)

 だから、教育係は一度深い深い深呼吸をする。

 激しい感情が他所を向いたため、この場は却って落ち着いてきた。

 しゃくれかけていた顎も元に戻りつつある。

 眉間を数回揉んだ後、つと顔を上げた。

(それにしても、これがメイド……ですか)

 目の前で跪く少女を眺めやる。

(……なんというか、思っていたよりも、随分とちんまりとしていますね)

 そう心中でごちながら、教育係は完全に引っ込んだ顎に手を当てる。

 彼の視界に居る少女は、事前に読み漁っておいた文献に出てきた人間とは印象を大きくこととしていた。

 幾つかの文献に紹介された人間は、どれも二メートルを軽く超える巨体を持つ者ばかりで、魔族の子供の体くらい太い腕を持ち、筋骨隆々のたくましい体つきをしていて、性格は凶悪にして凶暴、武器の扱いに長け、風呂にも入らず、なにより男だった。

(…………男?)

 なにか自分の行いに致命的なミスを感じ取って、途端にテンパリかけるが、教育係は慌てて首を振った。

(い、いえ、何も問題ありません! 落ち着きなさい! ……えーと、これは……そう! 変身前です!)

 やけに小さく見えるメイドの姿を、教育係はそう結論づけた。

 魔族の中には、普段の姿から何度か変身が可能なもの達がいる。

 詳しくは、魔力が強すぎたり、日常生活に不向きな姿の者などが、自らの拘束や擬態を解くと言う意味だが、大きな違いはない。

 実際、先々代の魔王などがそうで、彼は六段階までの変身が可能だった。

 かの魔王が真の姿を現した時、それがこの世界の終る時、とまで言われていたほどだ。

 にもかかわらず、彼はお風呂が熱すぎるとか夕飯のメニューが気に入らないとかで、結構簡単に四段階くらいまでいった。

 当時の教育係の精神の消耗具合は筆舌に尽くし難いものがあった。

 ただ、そんな彼も"湯あたりの乱"や"プリン平定"などを経て、今では随一の賢王として歴史に名を残している。

 そんな話は脇に置いておくとして、教育係は目を細くして初めて目にするメイドを観察する。

 じーっとしばらく見つめた後、少女が居心地悪そうにモジモジしだした辺りで、

(………………変身するんですか? これ?)

 酷くわがままな疑問をおぼえた。


書ける時はスルっと書けるんですよね…。


本日bgmはDo As Infinityの『空想旅団』でございました。

懐かしい。

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