第十二話 ☆
一時間前。
「あなた達、やれば出来るじゃないですか!」
片付けられたゲストルームを見て、教育係は満足気な声を上げた。
あちこちで「疲れたー」とか「まじだるーい」とか「もー無理ー」とか愚痴っているサキュバスがごろごろ落ちてる気がするが、代わりにそこには塵一つ見当たらなかった。
視線を窓辺に移せば、ベッドメイクまでが完璧に行われている。
「お褒めに預かり光栄ですわ」
まるで別人のような部屋の中をぐるりと見回して、教育係はうんうんと頷く。
「よろしい。では、この調子で他のお部屋も……」
「そんなことより!」
教育係の言葉を制して、彼に応じていた白衣を着たサキュバスが言葉を挟んだ。
そのままツカツカと歩み寄り、ゆったりと髪を掻き上げる。
「なんですか?」
そんな仕草にも一切動揺した様子もなく、教育係はきょとんと問い返した。
「この部屋を使われる方、人間のメイドさんはもうすぐ到着されるのですよね?」
「はあ、まあ……あ、いえ」
言いかけて、教育係はコホンと咳払いをする。
不明瞭な言い方が自分で気に入らなかった。
「はい、もうすぐこちらに来られます」
そう聞いた途端、白衣のサキュバスは表情を華やがせ、パンと手を打った。
「それは良かったですわ。では、その方のお支度を是非私たちにお任せ願えませんか?」
「お支度、ですか?」
「ええ。長い道のりではないとは言え、旅の間お召し物もきっと汚れていらっしゃるでしょう? そのような格好のまま魔王陛下にお会いいただくなんて、その方は勿論、陛下に対してもご無礼ですわ」
「なるほど、確かに」
考えが至らなかった。
顎に手を当て真剣に考え込む教育係。
「ですから、私たちがお支度をお手伝いしてその方を"綺麗"にして差し上げますわ」
顎に手を当てたまま、教育係はもう一度部屋の中を見回した。
部屋の中は満足なレベルで片付けられている。
そして、気だるそうにダラダラ転がっているサキュバス達。
彼女たちが、この後もここと同じように他の部屋の掃除をこなせるかは甚だ疑問だった。
ふむ、と頷き、伺うように白衣のサキュバスを見る。
この部屋のご褒美、と、言う訳ではないが、このまま先の作業に不安を抱えるよりは、彼女たちの望む仕事をさせる方がいくらかマシ……な気がした。
今の状況で空いた手を余らせるのも勿体無い……気もする。
「……綺麗に?」
「はい、綺麗に」
確かめるような声に邪気のない笑みが返ってくる。
教育係はふっと息を吐いた。
「……わかりました。ではお任せします」
「ありがとうございます」
「ですが、やるからにはちゃんとお願いしますよ」
「はい☆」
タイトルが携帯で表示されるか少し不安。