第四話parent and child:親子
騎士になる。
それは、子供達の夢だった。極一部を除いては。
アルには、人とは違う部分があった。肉体的にも、精神的にも。
アルの横を父親が歩いている。当然の事だ、二人は家に向かっているのだから。
「・・・・・」
「・・・・・」
いつもと違うのは、二人の間に会話が無いということ。いつもならば今日の出来事や、馬の体調等を話している。
先程までは騒がしくしていた父親も今は静かにし、アルの様子を横目でチラチラと見ていた。
アルはというと、眉間に皺を寄せ何か考え込んでいる。途中曲がる所を間違えたり、人にぶつかりそうになるまで気が付かなかったり思考に埋没していた。
「(やっぱりまだ早かったか?しかし、そんなにチャンスが有る訳でも無いし・・・・。)」父親が心配そうに見つめる中。
「(もう、馬と触れ合えなくなるのかな?・・・そうだったら、やだな。)」
こんな時でも考えている事は馬のこと。アルは今まで近くに動物が居なかった事が無かった。しかし、そんな中で何が一番好きかと問われれば、迷わず馬と答える程馬が好きだった。
馬は群れ、その中では綿密なコミュニケーションをとり、それを乱す者は弾かれ群れから追放される。その馬の性質上、騎手になる人間に恐怖や怒りといった感情にとても敏感である。
アルは馬のそういった部分が好きだった。
アルの心のまま素の状態で居れば、馬は向こうから近付いてくれる。人間と違って、身体的な特徴を理由に離れて行ったり、心無い言葉を言ってきたりしない。
アルには、同年齢の友達が居ない。昔は居たが、一人が去ると次々居なくなった。
身体に異常があるわけでも無い。顔付きも父親譲りの吊り目と高い鼻、母親譲りの薄い唇に白い肌。髪は母親と同じ黒髪。至って普通の顔でありおかしくは無い。では、何故か。それは瞳に理由があった。まるで、猛禽類、鷹を思わせる黄色い瞳。相手を射抜く様な瞳が恐怖の対象になっていた。
大人は気にすることなく触れ合えたが、子供にとってはそうではない。自分と違う部分あるだけで拒絶する。
――――暗転――――
家に着いても二人は黙っていた。アルは椅子に座り、テーブルに肘を付き窓から見える牧場を眺め、父親は夕飯の準備をしている。
「(今日ぐらいは、アルの好きなものでも食べさせてやるか)」
台所の父親が急かせかと動き始め、夕飯の準備が終わりに差し掛かった頃、アルがポツリと口を開いた。
「ねぇ、父さん。もう、馬とは一緒に居られないの?」
アルの問いに対して父親が笑い、その父親の様子にムッとしている。
「笑わ無いでよ。僕にとっては大切な事何だから!!」
拗ねたようにそっぽを向くアル。笑うのを止めた父親は、その様子に苦笑しながら話し掛ける。
「悪い悪い。ただ、深刻そうな顔して考えてたのが馬の事だったのがな。アルらしいと言うかなんと言うか。」
夕食のスープを並べながらアルの顔色を伺う父親。
「・・・・・・」
「・・・そういえば、途中で騎士の話し断ろうとしてたな?」
急に話を変え、何とか会話しようしている。アルはそんな父親に渋々答える。
「うん」
「じゃあ、何で受けたんだ?俺と離れるが嫌と言っても、な」
父親はアルが他の子供と違って、精神的自立が早いと感じていた。それは、同年齢の友達が居ないせいなのか、親の仕事を自ら進んで手伝っていたせいなのかは判らない。
「父さんと離れるのは、やだよ」
父親はアル言葉を嬉しく感じるが、疑問が残る。
「でも、最後は受けたじゃないか」
「・・・・僕ね、途中でグランシア様と目が合ったんだけど、その時の目が凄く寂しそうだったんだ。」
グランシア公爵と話している最中にそんなことを感じているアルに感心しつつ続きを促す。
「うん、それで?」
「前に居た馬の目にそっくりだったんだ。群れから逸れて一頭だけになった馬みたいに。」
「?」
アルの言いたい事が今一伝わらないのか首を傾げている。
「僕には、グランシア様が一人ぼっちに見えた。このままだと可哀相だと思って・・・」
父親にアルの言いたい事が漸く分かった。放って置けなかったのだ。
「アルは優しいんだな。」
父親がアルの頭を撫でる。父親が頭を撫でる時は落ち込んでいる時か、褒めている時だけなのでアルも嬉しげだ。
「さ、晩御飯を食べようか。明日の準備もあるし。」
それから二人は今まで話さなかったのが嘘のように話す。それは、アルが眠りに就くまで続いた。
朝早く、まだ村人が動き出す前。
「アル、忘れ物はないか?」
父親が荷物を確認しながら尋ねる。それに対し、何度も確認したアルは自身満々に答える。
「大丈夫だよ。父さんは心配症だなぁ」
父親も荷物の確認が終わり一息着いた頃、ノックの音が響いた。
「じゃあ、行こうか。」
「うん。」
投稿遅れてすんません。
文才が無いのが痛いです。
初評価頂きました。有り難うございます。
何とかご期待に添えるよう頑張りたいと思いますので、宜しくお願いします。